1.不定胚の誘導

 高等植物では、体細胞から種子胚の発生と類似の形態変化を経て植物体が発生する不定胚(体細胞胚)形成という現象が知られています。ダイズの場合、未熟子葉(図1A)を高濃度の2,4-Dを含む培地で培養すると不定胚が形成されます。不定胚の誘導能や増殖能は品種の遺伝子型に依存し、なかでも、アメリカ品種「Jack」や「Fayette」では、遺伝子導入に適した、小型で再分化能を保持した不定胚を容易に増殖することができます。一方、多くの日本品種では不定胚を得ることが困難で、たとえ不定胚を得ることができても、再分化能を有する不定胚を維持、増殖することができません。
 アメリカ品種「Jack」を温度制御の可能な温室内で、昼温28℃、夜温22℃程度、自然日長下で栽培します。播種後2ヶ月程度で花が咲き、開花後、莢が伸びてきます。その莢の中で発達中の種子の長径が3~5 mmになった段階で、種皮と胚軸を取り除き、未熟子葉の向軸側(平らな面)を上にして不定胚誘導培地(MSD40)で培養します(図1A)。温度25℃、日長23時間、光強度5~10 μEm-2s-1で3~4週間程度培養すると、子葉の表面に不定胚が誘導されます(図1B)。誘導された不定胚を不定胚増殖培地(FN Lite 25ml/100ml三角フラスコ)に移し、回転数95~110 rpm/分で振とう培養することにより、次々と不定胚(二次胚)を発生し、増殖、維持することができます(図1C)。不定胚は1週間毎に新しい不定胚増殖培地に継代培養し、不定胚の量が増えると何本かのフラスコに取り分けます。不定胚は再分化能を保ったまま、数ヶ月間の継続培養が可能です。

2.遺伝子銃による遺伝子の導入

 プラスチック製のプレート(Φ90×20 mm)に分注・固化した遺伝子導入培地(MSD20)の中央、直径約25 mmに不定胚(約0.8 g)をまんべんなく広げ、表面を乾燥させます。Plasmid Midi Kit(キアゲン)で導入遺伝子を含むプラスミドを調整し、1 μg/μlの濃度になるよう滅菌水に溶かします。遺伝子銃(日本バイオ・ラッド、PDS-1000/He)による遺伝子の導入は、機器に添付のプロトコールに従っています。すなわち、3 mgの金粒子(マイクロキャリア)と5 μgのプラスミドDNAをよく混合し、塩化カルシウム/スペルミジン法で金粒子表面にDNAを塗布します。3 mgの金粒子で6枚のマクロキャリアを調整、すなわち6回の撃ち込みを行うことができます。遺伝子銃による撃ち込み条件を最適化するため、不定胚での緑色蛍光タンパク質sGFP(S65T)の一過的発現と遺伝子銃に使用する金粒子の大きさ、撃ち込み圧力および撃ち込み距離との関係を調査しました。その結果、0.6 μmの金粒子を使用し、7.6 MPa (1,100 psi)の圧力で、6 cmの距離で撃ち込んだ場合に最も良好な結果を示しました。現在は、これらの条件を組換え体の作出に使用しています。また、金粒子の分布を均一にするため、プレートの向きを換え、2回撃ち込みます。

3.遺伝子組換え体の選抜

 遺伝子を導入した不定胚は不定胚増殖培地で1週間培養した後、15 mg/Lの濃度でハイグロマイシンを添加した選抜培地で1週間、30 mg/Lの濃度でハイグロマイシンを添加した選抜培地で4週間、さらに、45 mg/Lの濃度でハイグロマイシンを含む選抜培地で1週間培養します。この間、培地は毎週交換します。ハイグロマイシン添加培地で6週間培養すると、ほとんどの不定胚は白化してしまいます。そのため、緑色を維持している遺伝子組換え体を容易に識別することができます(図1D)。

4.植物体の再分化

 ハイグロマイシンに耐性を示した緑色の不定胚塊は、15 mg/Lハイグロマイシンを添加した選抜培地で十分に増殖させます。そして、不定胚の一部(約20 mg)を不定胚成熟培地(FNL0S3S3 25 ml/100 ml三角フラスコ)に移し、3~5週間振とう培養すると、子葉状の胚が発達します(図1E)。この間、培地は交換しません。成熟した胚は、過度の乾燥を防ぐため約1cm3の発芽培地(MS0)片の入ったシャーレで3~7日間乾燥させます(図1F)。乾燥によって胚は淡い黄色に変化し、この胚を発芽培地で発芽させます(図1G)。発芽した個体は発根培地(0.5×B5)で十分に生長させ、順化させた後に培養土を充填したポットに移植し、閉鎖系温室内で栽培します(図1HとI)。

 以上の方法により、不定胚の誘導から約6ヶ月間で遺伝子組換え体を作出することができます。

 


図1 不定胚の誘導と遺伝子銃による遺伝子組換え体の作出


 

遺伝子銃法による形質転換の手順

1

ダイズ(品種:Jack)を温室で栽培する

2

長径が3~5 mm程度に達した未熟子葉を不定胚誘導培地に置床し、不定胚を誘導する(図1 AとB)

3

不定胚を不定胚増殖培地へ移し、維持・増殖する(図1 C)

4

増殖した不定胚を遺伝子導入培地に集め、表面を乾燥する

5

目的遺伝子をパーティクルガン(日本バイオ・ラッド社製、PDS-1000/He)で不定胚へ導入する

6

ハイグロマシンを15~45 mg/lの濃度で含んだ選抜培地で形質転換した不定胚を選抜する(図1 D)

7

ハイグロマシン存在下で緑色を示す不定胚をFNL0S3S3液体培地で成熟させる(図1E)

8

成熟した胚をシャーレで乾燥する(図1 F)

9

発芽培地で発芽させる(図1 G)

10

正常に発芽した胚を発根培地へ移し、十分に生長させる

11

順化後、温室に移植する(図1 HとI)

培地組成はこちら


<当研究室の発表文献>

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更新日:2008年1月4日