農村工学研究所

農村工学研究所メールマガジン

メールマガジン第9号(2010年12月号)

目次

1)トピックス

■ウズベキスタンでストックマネジメントの技術移転

中央アジアのウズベキスタンでは、旧ソ連邦時代の1960年代から1970年代に、綿花生産を目的に大規模な灌漑開発が行なわれました。その水管理は、現在では、流域灌漑システム管理局、その下部組織である灌漑システム管理事務所、末端施設を所有管理している自主的な水管理組織(WUA)が分掌しています。

しかし、WUAは基礎的な水管理技術を持っておらず、WUAに対する支援体制も整っていません。そのため、WUAが管理する大部分のかんがい施設では、水路の漏水、凍結融解によるコンクリートの劣化などにより、配水管理や末端用排水路の維持管理・更新に問題が生じており、農業生産の減退を引き起こしています。

そのためウズベキスタン政府は、日本に技術援助を要請し、国際協力機構による技術協力プロジェクト(長期派遣専門家3名)が、平成21年11月から3.5年間の計画で開始されました。この技術協力に関連して、水利施設機能保全に係る短期専門家の派遣要請があり、私は11月12~23日に現地調査と技術移転を行いました。

施設資源部 水利施設機能研究室長 中嶋勇

(関連資料)http://www.naro.affrc.go.jp/nkk/mail_magazine/files/mm09_01-01.pdf

<一口メモ>

ウズベキスタン共和国の首都はタシケント。国境を最低2回超えないと海に達することができない「二重内陸国」の一つです。

■農業技術クラブの記者による現地取材

農林水産省農林水産技術会議事務局の音頭取りにより、毎年1回この時期に、同省の農業技術クラブが、筑波農林研究団地の研究所等を対象に現地取材を行います。この企画は、新年の記事になるように、農林水産技術会議事務局が研究所から素材を募集し、その中から当クラブが、社会に夢を与える研究の取組を取り上げるというもので、今年度は農工研が選定されました。

12月17日に、松田研究総務官と共に当クラブに属する5社が、農工研敷地内にある災害に強いため池工法の実証試験フィールドを訪れました。「堤体表面被覆工法の補強材の耐久性」などの質問には、研究を担当している施設資源部土質研究室の職員が対応しました。

企画管理部 情報広報課長 古澤祐児

(関連資料)

2)イベントのご案内

■農村工学研究所研究会の開催(第一報)

2011年3月9日~10日に、つくば農林ホールにおいて、標記研究会を開催致します。東京大学の田中忠次名誉教授による基調講演と、「ストックマネジメント」、「防災」、「地域資源の保全」といった3つの分野別研究会で構成される予定です。農業農村整備に携わる技術者をはじめ、多くの皆さまのご参加をお待ちしています。

申し込み先:nkk-kikaku◎naro.affrc.go.jp(企画管理部業務推進室)
※メールを送信する際は「◎」を「@」にしてください

■障がい者就労推進研修会を全国3ヵ所で開催

農水省事業「女性・高齢者等活動支援事業(障害者就労支援事業)」の一貫として、農業分野における障がい者就労への啓発を目的とした研修会を、下記の日程で全国3ヵ所において開催します。関心のある方は是非ご参加下さい。

(研修会の日程)

1月30日:岡山県玉野市、2月14日:三重県名張市、3月10日:茨城県つくば市
(上記の農工研研究会終了後に同じ会場で開催予定)

農村計画部 集落機能研究室 主任研究員 唐崎卓也

3)新技術の紹介

■災害に強いため池に生まれ変わる ‐特殊土のう積載工法‐

土を固めて堤体をつくり、そこに農業用水を貯水するため池は、豪雨によって洪水が堤体を越流したり、強い地震で堤体に大きな亀裂が入って水漏れが起きたりすると、ひとたまりもなく崩壊し、下流側に大きな災害を与えてしまいます。

そこで私たちは、ため池が豪雨や大地震に耐えられるように、特殊な土のうで堤体を補強する研究に取り組みました。開発した特殊土のう袋にはテールとウイングが付いており、これを堤体の表面に、城壁の石垣のように傾斜させて積み上げると、土のうと堤体が一体化し、堅固な構造になります。国内の施工実績だけでなく、バングラデシュ国において盛土道路の波浪侵食対策としても採用されました。ため池の改修を検討される場合には是非ご相談下さい。

施設資源部長 毛利栄征、同部 土質研究室長 堀俊和

(関連資料)

<一口メモ>

ため池は江戸時代以前に造られたものが大部分を占めています。現存する日本最古のため池は、大阪府大阪狭山市の狭山池で、樋の年輪年代測定結果から、7世紀前半の築造と推定されました。

4)技術なんでも相談

■排水路の水位が高い近傍農地を汎用化する方法を教えて下さい

地区下流の外水位が高く、それを下げる方法がないために、排水路の水位が常時高くなり、ほ場の排水不良が起こっている地域があります。地下水位制御システムを活用して排水不良を解消できるでしょうか。また、ほ場の地下水を低下できる方法が他にありましたらご教示ください。

○県匿名希望

【お答えします】

農村総合研究部 水田汎用化システム研究チーム長 原口暢朗

排水路の貯留水が下流地区の水源となっているのであれば、(1)下流地区のために代替水源を確保して排水路の水位を下げる方法、(2)ほ場の地下排水(管路化)を行い、堰上げを行っている地点よりも下流側で放流する方法が考えられます。

土地利用や水利用の再編を伴う事業は、受益者及び利害関係者との調整を慎重に進め、さまざまな工法から納得性の得られるものを選択し、地域の合意が図れる事業計画に仕上げることが肝要です。

(関連資料)http://www.naro.affrc.go.jp/nkk/mail_magazine/files/mm09_04-01.pdf

5)最新の「農工研ニュース」より

■水稲の高温障害対策と用水管理

今夏は記録的な猛暑となり高温障害による米の品質低下が問題となりました。この高温障害の防止策として、しばしば掛け流し灌漑が紹介されますが、掛け流し灌漑は大きな用水需要を発生させます。そのため、ある地区では今年8月、あちこちの給水栓で水が出なくなり、土地改良区がパイプラインの流量制御を行い、更に番水の実施に踏み切る対応を迫られました。

高温障害対策としての用水管理は、掛け流し灌漑だけではなく、多様な選択肢があります。当研究室では、水利権や通水能力を考慮し、地域に即した対策を検討するため、栽培指導を行う農業改良普及センター等と用水供給を行う土地改良区が連携し、水稲の高温障害対策と両立する用水管理手法を提案しています。

農地・水資源部 用水管理研究室 主任研究員 友正達美

(関連URL)

6)農村工学研究所の動き

■農村振興局幹部との意見交換会の開催

12月17日に、農水省8F会議室において、農村振興局幹部、農林水産技術会議事務局の農村工学担当官、農工研幹部が一堂に会し、行政と研究の新たな連携の仕組みづくりについて意見と情報を交わす定期会合がもたれました。

農業農村整備事業が「建設」から「保全管理」に大きく転換されることから、この施策を推進するため、新たな体制の検討が始まりました。そのため農村振興局から、現場及び行政ニーズが農工研の研究計画の中に的確に反映され、施策を効果的に推進するための実用成果がより一層効率的に産出されるよう要請されました。

企画管理部 研究調整役 奥島修二

(関連資料)http://www.naro.affrc.go.jp/nkk/mail_magazine/files/mm09_06-01.pdf

■水資源機構との第3回技術情報交換会を実施

2月1日に、水資源機構総合技術センター試験場(さいたま市桜区)において、農村工学研究所・水資源機構技術情報交換会が行われ、水資源機構職員16名、農工研職員12名が参加しました。

参加者は、現場が抱える様々な技術的課題への対応策について、それぞれ独自の研究手法や実験方法に関わる情報を交換し、お互いの技術力のレベルアップを図りました。

企画管理部 業務推進室 研究員 瑞慶村(ずけむら)知佳

(関連資料)http://www.naro.affrc.go.jp/nkk/mail_magazine/files/mm09_06-02.pdf

■農地の有効活用で食料自給率向上を目指す ‐現地調査を実施‐

運営交付金による研究プロジェクト「高機能型低平地水田と地域用排水施設の一体的整備・運用技術の開発」では、12月3日にプロジェクトの円滑な推進のために合同の現地調査を行いました。

現地調査では、圃場整備事業を実施している千葉県篠本新井地区、用排水施設の改修事業を予定している印旛沼地区を訪問し、地方自治体及び土地改良区等の関係者の方のお話を伺うとともに、フォアス(FOEAS:地下水位制御システム)実証試験圃場、畑地利用が可能となった水田圃場、約7haの大区画水田、限られた水資源を有効利用しつつ水質を保全するために農地排水の循環利用を予定している用水機場等を視察しました。

農地・水資源部長 中達雄

(関連資料)http://www.naro.affrc.go.jp/nkk/mail_magazine/files/mm09_06-03.pdf

7)ズームイン

■農民参加型の水管理制度を考える ‐タイでセミナー講師‐

タイのコメ輸出量は世界の輸出量の3割を占め、世界第1位です(2008年時点。FAOSTA)。この背景には、第二次世界大戦後、王室かんがい局が中心となってかんがい面積を拡大してきたことが上げられます。一方、かんがい事業及び基幹水利施設等の維持管理は同局が直轄で行っているものの、受益者である農民が参加する「参加型水管理(PIM: Participatory Irrigation Management)」が普及していないため、かんがい効果は十分に上がっていません。

11月23日に、タイの首都バンコクにおいて、日・タイ両国の行政、研究、農民水管理組織の関係者が集まり、PIMについて話し合うセミナーが開催されました。私は、国際協力機構の長期派遣専門家としてタイ国水管理システム近代化計画(技術協力プロジェクト)に参画した経験と、その後の研究成果を踏まえ、日本における参加型水管理の制度的な背景や実情を紹介しました。

日本の水管理システムは、行政と農家(土地改良区及び集落)等の役割分担がうまく機能している成功例として、多くの開発途上国から視察者や研修生が訪れます。また、日本からは、多数の技術者や研究者が水管理等の専門家として海外に派遣され技術協力を行っています。

農村計画部 事業評価研究室 主任研究員 鬼丸竜治

(関連資料)http://www.naro.affrc.go.jp/nkk/mail_magazine/files/mm09_07-01.pdf

8)こんにちは農業・農村

■那須野ヶ原台地を支える農業水利システム

12月3日に、農工研専門技術研修生18名が、水と施設の管理実態を学ぶため、那須野ヶ原土地改良区連合を訪問しました。那須野ヶ原は栃木県の北東部にあり、那珂川と箒川に挟まれた約40、000haの複合扇状地です。扇状地では、河川の流水が上流部において伏流水となるため、扇頂部から扇央部にかけての一体は水に乏しく定住を制限してきました。しかし、那須疎水の開発(明治18年~)、国営那須野ヶ原総合農地開発事業(昭和42年~)によって豊かな台地へと大きく変貌しました。

当連合は、国営事業で造成整備された基幹施設から末端施設までの全ての施設を国より管理委託または譲与を受けました。そして、水利用は水管理センターにおいて集中管理され、農地や施設の管理は平成13年度から導入した地理情報システム(GIS)の活用等により、質の高い業務が行われていました。

さらに、当連合では、台地の落差を利用した水力発電(スマートグリット)、施設用地等を利用した太陽光発電、家畜バイオマス発電の他、農業用水による生態系の保全運動、各種イベントやウォーターパーク(H22.4月開園)等を通じた都市と農村交流に取り組んでいました。このような農の再生と振興を通じて、那須野ヶ原全体の活性化を牽引しているという印象を受け、研修生全員が大きな驚きと感動を覚えました。

技術移転センター 技術研修課 主査 佐伯保則

(関連資料)

【編集発行】

〒305-8609 茨城県つくば市観音台2-1-6
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究所 
企画管理部 情報広報課 Tel:029-838-8169

研究センター