農村工学研究所

農村工学研究所メールマガジン

メールマガジン第7号(2010年10月号)

目次

1)トピックス

■国際かんがい排水委員会の会議の担当部会に日本代表で出席

農林水産省の要請を受け、10月12日~15日に、インドネシア・ジョグジャカルタで開催された国際かんがい排水委員会(ICID)国際執行理事会の傘下にある洪水総合管理作業部会に、日本代表として出席するとともに、アジア地域会議に参加し討議に加わってきました。

21世紀は水の分配をめぐる対立の時代と言われています。しかし、新たなダム建設適地が減少し、既存ダムはダム湖への土砂の堆積で貯水できる量が減少しています。また、過かんがいによる塩類集積、過放牧や過伐採が風食・水食を招き土壌物質が流失するなど、人間活動に起因する土壌劣化が進んでいます。さらに、気候変動の影響で雨の降り方が変わり、洪水と渇水の両極端現象に対するリスクが増すと予測されています。このように、世界の農業と水を取り巻く環境は大変厳しいと言えます。

そのような中で、今年、パキスタン、中国、インドで大洪水が発生するなど、農業分野にも多大な被害が生じています。日本としても、これまでの知見の提供を含めどのように対応していくかが問われています。私は洪水総合管理作業部会の事務局長を務めており、この部会は、今後、温暖化研究の成果を踏まえて対応策を提案していく重要な役割を担うと考えています。

農村総合研究部 地球温暖化対策研究チーム長 増本隆夫

(関連URL:説明資料)http://www.naro.affrc.go.jp/nkk/mail_magazine/files/mm07_01-01.pdf

■東京大学アグリコクーンのフィールド研修に講師として参加

東京大学アグリコクーンのバイオマス利用研究ゼミナールが、座学だけではなく、研究の出口となる地域の実践的な活動を学ぶため、9月27~28日にフィールド研修を実施し、大学生、教員、民間企業関係者など25名が参加しました。

当所がバイオマス研究実証試験地として千葉県香取市に建設した山田バイオマスプラントが研修先の一つに選ばれました。そこで私たちは講師として加わり、バイオマス利活用の実証に取り組む状況を説明し、管理者と質疑をしていただき、これらを題材に、バイオマス利活用を地域活性化につなげるためのアイデアをまとめて発表するワークショップなどを企画・運営しました。

大学生から、「バイオマスから製造されるメタンガスを燃料としたバスの試乗体験や未利用資源の活用を香取市の魅力とするBBプラン」、「バイオマス利用推進に向けて農業・農村の格好良さをアピールしていくプラン」など、若者の感性から飛び出すアイデアがとても新鮮でした。バイオマス利活用という社会実験が成功するためには、立場と世代を越えて幅広く交流していくことの大切さを改めて感じた2日間でした。

農村総合研究部 資源循環システム研究チーム長 柚山義人
農村計画部 地域計画研究室主任研究員 遠藤和子
農村環境部 景域整備研究室主任研究員 栗田英治

(注)アグリコクーン(AGRI-COCOON)とは、東京大学大学院農学生命科学研究科が開設した産学官民連携型農学生命科学研究インキュベータ機構の愛称です。http://www.agc.a.u-tokyo.ac.jp/

(関連URL:説明資料)http://www.naro.affrc.go.jp/nkk/mail_magazine/files/mm07_01-02.pdf

2)イベントのご案内

■農村研究フォーラム2010の開催(第二報)

11月19日(金曜日)の13時00分~17時15分に、秋葉原ダイビル(2階)において、標記フォーラムを開催(第9回)致します。今回は、「農業・農村の持続性と再生可能エネルギーの利活用」をテーマとし、未利用な再生可能エネルギーの利活用と既存のエネルギー利用の効率化等について、内外の講師6名から問題を提起いただき議論を深めます。ご来場をお待ちしております。

申し込み先:nkk-unei◎ml.affrc.go.jp(企画管理部業務推進室)
※メールを送信する際は「◎」を「@」にしてください

■「アグリビジネス創出フェア2010」に出展します

11月24日~26日に、千葉県幕張メッセにおいて開催されるこのイベントは、農林水産業・食品産業分野における最新の研究成果や技術の実用化・産業化を促し、この分野での技術革新と実用化を図ることが目的です。多数の研究機関と民間企業等と来場される参加者が情報交換や交流を行う出会いの場となっています。

当所からは、農業施設工学研究チームの「栽培環境基本性能の確保と再生可能エネルギー・ヒートポンプを利用したオートノマス生産施設」に関わる研究成果を出展・発表します。また、11月25日10時00分amから奥島里美上席研究員による「水熱源を活用した施設栽培用ヒートポンプシステム」というタイトルでプレゼンテーションも行います。

施設栽培等に関心のある方は是非お立ち寄り下さい。

技術移転センター 移転推進室長 丸茂伸樹

■公開シンポジウム「内湾の機能回復のための海と陸からのアプローチ」のご案内

我が国の近海は、動物性タンパク質の重要な供給源ですが、漁場環境の維持には、陸域からの水や栄養源、土砂等の供給が欠かせません。しかしながら、特に内湾において、水産業を支えてきた環境が変質しています。

このシンポジウムは11月25日に東京で開催され、森から海までの水環境を総合的に考え、今後の望ましいあり方を模索します。私は農村工学分野の代表として、農地からの物質供給について研究成果等を報告します。

関心のある方は是非ご参加下さい。

農村環境部 水環境保全研究室長 白谷栄作

(関連URL)http://www.gecollege.or.jp/event/lecture/101125symposium.htm

3)新しい技術や研究成果の紹介

■パイプライン屈曲部の経済性、施工性、安全性に貢献する新技術

農業用のパイプラインは大凡12、000km 埋設されています。その路線設計は、曲間と直管の組み合わせによって実現されます。ただし、パイプラインの屈曲部には、原則としてその角度に応じた曲管を製作し使用しますが、曲管は鋼製管のため高価で、施工も煩雑であることから、多くの変曲点が存在する路線などでは建設コストが大きくなります。

FRPM 管の継手が本来もっている水密性能や伸縮可とう性を最大限活用した曲げ配管工法を開発しました。本工法を適用して曲管を省略することにより、コストが大幅に縮減し、施工性が飛躍的に向上し、路線設計の自由度が高まり、地震発生にも強いという効果が発揮されます。

施設資源部長 毛利栄征

<一口メモ>

FRPM管とは強化プラスチック複合管のことで、引っ張り強度に優れたガラス繊維と樹脂及び骨材を組み合わせた複合パイプです。英語表記は、Fiberglass Reinforced Plastic Mortar Pipesです。

(関連URL)

4)メッセージ

■(株)チェリーコンサルタント代表取締役社長篠田日出海様より「農業土木技術の継承を!」

ここ数年、土地改良事業の減少と団塊世代の大量退職により、技術の継承問題が深刻になっている。農業土木技術の向上は、実学・経験学に依るところが大であると言っても過言ではないと思われる。

十数年前までは盛んであった農地開発事業や干拓事業が終わって久しい。“改良山成工”や“潮止め工”設計の経験者が確実に減少し、これらの工法が死語になっており淋しい感がある。全ての事業で言えることであるが、実施現場から計画・設計面への結果フィードバックにより、技術の改良や発展、新技術の開発等が行われ、それらの経験技術が、他の技術へ応用されてきた。また、それらの経験に裏打ちされたノーハウ等が団塊世代の大量退職や事業の縮減によって、技術の継承が途絶えて行くことが懸念される。

このような状況下において、農工研で実施されている「農村工学技術研修」を通じて、産官学共同で技術の継承を含む技術者の育成・教育の向上を期待している。さらに、初級・中級・上級・高度等のステージ別に、産官共に机を並べ同一テーマについての研修を企画していただき、食料自給率向上の礎である“農業のライフライン”の維持発展研究の応用や普及、技術の継承等の実践技術者を育てる技術移転の活動を求めたい。

5)水土里のささやき

■水路に転落した雛カモの脱出方策があれば教えて下さい

高さ2m、幅3mほどの天井水路をコンクリート2次製品で施工したのですが、水路内にカモの雛がいることがたびたびあります。カモは水路より高い暗渠などから侵入するのではないかと考えています。工事終了後に、落下した小動物が脱出できるようなスロープ等を設置する方法があればご教示下さい。

東北農政局津軽農業水利事務所 津田健伍 様

□お答えします。(農村環境部 生態工学研究室長 森淳、研究員 渡部恵司)

お問い合わせの件に関連する情報として、沖縄に生息する飛べない鳥として有名なヤンバルクイナの雛が道路側溝から脱出するために設けられた傾斜型側溝があります。

小水路から小動物を脱出させる方法として様々なコンクリート2次製品が製品化されているものの、その効果は定かではありません。飛翔力のない雛カモが水路に転落すれば脱出は困難と思われますが、転落した雛カモの脱出対策を検討するよりも、現地調査を行い転落防止対策を検討された方が、対策としての確実性、経済性の面から適切と考えられます。

(関連URL:詳細回答資料)http://www.naro.affrc.go.jp/nkk/mail_magazine/files/mm07_05-01.pdf

■山形県鶴岡市七五三掛(しめかけ)地区の地すべり災害と対応

山形県庄内総合支庁産業経済部 農村整備課 本間治夫 様より

平成21年2月25日に地元住民が見つけた地すべりの兆候は、その範囲を徐々に広げ、地元鶴岡市だけでなく、山形県、さらに農林水産省や国土交通省と、農村工学研究所や土木研究所をまきこむ大きな災害対策事業へと発展しました。

この地区一帯は、鶴岡市の東部に位置し、平成3年10月から農林水産省所管の地すべり防止区域に指定され、山形県により地すべり対策工事が行われていたので、今般のような大規模な地すべりは予想できませんでした。その要因としては、温暖化の影響で融雪時期が早まり、長期間にわたり地下水位の上昇が続いたなどの見方があり、対策工法の選定に当たっては様々な角度から議論が重ねられ、その甲斐あって平成21年7月に地すべりの挙動は沈静化しました。

私は山形県の技師として、現場調査や対策の検討、国や試験研究機関との調整等に当たりました。地元の住民、市、県はもとより、省や部局を越えた連携と協働によって緊急対策工事の効果が発揮されたと感じています。本年度から、恒久対策として農林水産省の直轄地すべり対策事業が開始され、当地区は地域復興に向けて新たなステージに入りました。

<一口メモ>

地名の七五三掛(しめかけ)の由来として、神社仏閣などにある注連縄(しめなわ)や七五三縄(しめなわ)から来たものする説があります。地区内には即身仏で有名な注連寺があります。

(関連URL:詳細資料)http://www.naro.affrc.go.jp/nkk/mail_magazine/files/mm07_05-02.pdf

6)最新の「農工研ニュース」より

■代替エネルギーによる温室暖房システム

我が国の施設野菜栽培は、平成17年度の統計では野菜全体の作付け面積の約10%、収穫量の約14%を占め、野菜の端境期を無くし、市場に新鮮野菜を安定供給する重要な役割を担っています。

しかしながら、冬春ものの生育適温を保つために使用されるA重油の価格高騰(2004年1月:46円/L、2008年7月:122円/L)が施設野菜経営を圧迫しており、省エネ対策が注目されています。

省エネ対策には、(1)温室の保温性を高める技術、(2)代替エネルギー利用などの暖房技術、(3)投入エネルギー当たりの生産性を高める温度管理技術などがあります。そこで、(2)に関わる農工研の研究成果をご紹介します。

農村総合研究部 農業施設工学研究チーム
上席研究員 奥島里美

(関連URL)http://www.naro.affrc.go.jp/nkk/mail_magazine/files/mm07_06-01.pdf

7)農村工学研究所の動き

■インターンシップ技術講習生(第三期)のつぶやき

本年度のインターンシップ第三期生(9月6日~9月17日)として来所した大学3年生9名の技術講習が終了しました。指導に当たった研究者から実務の一部を任され、就業を体験しました。彼らが社会人になっても、農村工学分野との関わりの中で応援していきたいと思います。提出されたレポートの中から一部抜粋しました。

技術移転センター 移転推進室 高梨典子

(関連URL:講習生の感想)http://www.naro.affrc.go.jp/nkk/mail_magazine/files/mm07_07-01.pdf

■パイプライン設計のポイント ‐水撃圧に迫る‐

農業用パイプラインの普及は、昭和33年に着工した愛知用水事業においてスプリンクラーによる散水かんがい方式の導入が端緒といわれています。それ以降、開水路型式では維持管理労力が大きい、家庭雑排水等の流入により水質が悪化する、潰れ地が大きい、配水・送水範囲が地形条件に支配されるなどの理由から、パイプラインの施工実績は急増しました。

ただし、管路における流れは、速度エネルギーと位置エネルギーだけでなく圧力エネルギーをもっているので、給水栓や散水栓の開閉操作などが行われると、圧力エネルギーが極めて短い時間に変化しパイプライン全体に影響を及ぼします。

バルブの急開閉、あるいはポンプの急激な始動・停止を行うと、水の運動量が短時間に変化し、管路内に異常に大きな圧力波が発生します。これを水撃作用(ウォータハンマ)といい、その圧力を水撃圧といいます。かんがい用水を圧送する管路設計において、水撃圧は重要な与件であり、十分に安全対策を検討する必要があります。

農工研では、この水撃圧などの水理現象を水理模型実験で体験し、数値計算による水理現象の予測手法を習得する水利性能照査基礎技術研修を開講しています。その研修の一部をご紹介します。

施設資源部 水路工水理研究室長 樽屋啓之

(関連URL:演習状況(動画2分54秒)http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/pr_report/files/07paiplin.wmv

8)研究チーム・研究室等のご紹介

■農村総合研究部都市農村交流研究チーム

都市と農村の交流をさかんにすることは、農業や農村地域への理解と行動を促し、それらを元気にする有力な手段です。

当チームでは、農地・水、自然環境などの農村の「資源」を都市と農村の交流により「産業」に結びつけ、農業・農村の活性化を図るため、農業基盤等の条件整備と産地形成の関連・効果の分析や戦略・手法の開発などについて、工学をはじめ多様な学問領域の知見を活用して調査研究を行っています。

9)研究ウォッチ

■水質は生もの? ‐水質の現地調査の流れ‐

精度の高い水質データを得るためには、人為的な作業に起因する誤差を最小限にする必要があります。ここでは水質の現地調査のなかで信頼性の高いデータを得るための採水方法について紹介します。

水質は採水された時点から変化していきます。このため、現地で計測できるものは、なるべく、その場で計測することが基本です。
現地計測が不可能な水質項目はサンプルを採水し、室内試験で定量します。現地計測や採水は観測する場の状態を乱さずに行うことが重要です。また、採水したサンプルは室内試験に供するまでの水質変化を極力抑える工夫が必要です。

水質計測機器の性能は日進月歩で、現地観測項目の拡充や微量成分の定量等、より充実したモニタリングデータが得られつつあります。調査計画を立てる際は、計測機器の性能が十分に発揮されるよう、機器の取り扱い方だけでなく採水方法にも十分気を配ることが重要です。

農村環境部 水環境保全研究室 研究員 人見忠良

(関連URL:説明資料)http://www.naro.affrc.go.jp/nkk/mail_magazine/files/mm07_09-01.pdf

10)こんにちは農業・農村

■米カリフォルニア州における農業の最新事情

9月13日~19日に、アメリカ・カルフォルニア州で開催されたCSA・ファーマーズマーケット研究会に参加しました。CSAとは、Commu-nity Supported Agricultureの略称であり、生産者と消費者が連携して、農産物の契約を通じて相互に支え合う仕組みです。一方、ファーマーズマーケット(FM)は、多くの農家が出店して、主に都市部の公園や街路で農産物を直接販売する定期市です。

いずれもアメリカで大きく数を伸ばしており、その活動を支える仕組みと個性的な活動に特徴があります。日本の農産物直売所の実態と比較しながら現場を調査し、日本における6次産業化、地産地消、生産者と消費者との交流などに活用できる有意義な情報が収集できました。

農村計画部 集落機能研究室 主任研究員 唐崎卓也

(関連URL:説明資料)http://www.naro.affrc.go.jp/nkk/mail_magazine/files/mm07_10-01.pdf

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