野菜茶業研究所

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有機肥料による養液栽培技術の開発 -化学肥料を使わず有機肥料だけの養液栽培が可能に-

野菜茶業研究所では、化学肥料を使わず有機肥料だけを用いた養液栽培技術を開発しました。コーンスティープリカー(CSL、トウモロコシからデンプンを製造する工程で出る廃液)・鰹煮汁(カツオブシを製造する際の廃液)・油かす・魚粉等の様々な有機肥料が利用可能です。

養液栽培は土耕栽培と比べて土壌病害の発生が少なく、野菜の生育を容易にコントロールできるので、近年、トマトなどの果菜類で利用が拡大している栽培法です。特に培養液の循環利用技術の確立したオランダでは、環境保全型栽培法であるとして、現在では果菜生産(トマト、キュウリ、パプリカ等)のほとんどが養液栽培となっています。養液栽培では、オランダに限らず日本でもすべて化学肥料を利用しています。

本技術は、化学肥料を使わず有機肥料だけの養液栽培を可能にするもので、それをポット試験で実証することができました。

これまで養液栽培では、成分調整の容易な化学肥料を使用しており、養液栽培に有機肥料を利用する実用的な成功例はこれま で報告されていません。有機肥料を培養液内に直接添加すると、作物が吸収できる状態まで分解(無機化)が進まずに腐敗し、植物に大きなダメージを与えてしまうため、有機肥料の培養液への直接添加は行なわれませんでした。これを解決するべく、分解槽を設けてあらかじめ有機物を微生物によって分解(無機化)し、その分解液を培養液として利用する研究が各国で進められてきました。しかし、微生物の働きが不安定で分解がうまく進まず、分解に要する時間も数日~一週間かかり実用的とは言えず、養液栽培では有機肥料は利用されませんでした。

開発した技術の説明

野菜茶業研究所がこのたび開発した技術では、発酵の技術を応用することで、養液栽培で使用する肥料の全量を有機肥料にすることができます。本技術ではまず養液栽培槽に水を満たし、少量の土壌(1リットルあたり5g程度)を微生物の植菌の目的で添加し、エアーポンプなどで酸素を供給しながら、1リットルあたり1g程度の少量の有機物を毎日添加します。この作業を約2週間続けて養液を発酵させると投入した有機物を速やかに分解(無機化)する微生物生態系が完成します。これに作物を定植し、以後は作物の生育にあわせて必要な量の有機肥料を培養液内に直接添加していけばよいのです(栽培期間中、発酵は養液内で行われることになる)。

肥料のすべてを有機肥料にすることができる養液栽培技術は、世界的にも例を見ない技術で(注)、この技術は特許を出願中です。

(注)この養液栽培技術について2006年1月18日に記者発表し、各紙で報道されたが、この発表に対し既
に有機肥料を使用した養液栽培を実践している方々からアンダーライン部分の「世界的に、例がない」というのは誤りだとのご意見が寄せられました。各種学会
での発表等では事例がなくその実態について情報収集は行ってきたところでしたが、一部誤解が生じる表現方法となり皆様にご迷惑をおかけしてしまいました。

この、肥料のすべてを有機肥料にすることができる養液栽培技術は、世界的にも例を見ない技術でということは、今回開発した技術である、栽培期間中に無処理の有機物を培養液内へ直接添加しても培養液内で分解し栽培できる技術を指しているもので、有機肥料を使った養液栽培技術の全てを指したものではありませんでした。

ちなみに、ご意見をいただきました方々の養液栽培について、概略を紹介させていただきます。

概略: 有機肥料による養液栽培(事例紹介)

株式会社澤久(愛知県津島市)さんでは、生ゴミに独自の微生物(図1)を接種し、水を加えながら加熱し生ゴミを分解(装置の分解漕内:図2)して堆肥化しています。その際に生ずる排液(図3)を養液栽培用の肥料として利用しています。

葉柄がやや徒長する傾向があるものの、各種作物が健全に生育します(図4)。肥料として加えるのはこの排液のみで、有機肥料だけの養液栽培が可能になっています。

図1
図1

図2
図2

図3
図3

図4
図4

本技術実施例

CSLや、鰹煮汁を用いてトマトやサラダ菜のポットレベルの栽培試験を行うと、化学肥料と同等の生育が見られました(写真)。カルシウムやマグネシウム
の不足は、有機肥料であるカキ殻石灰で補えます。CSL、鰹煮汁のような液体の有機肥料に限らず、オカラ、ナタネ油かす、コーン油かす、魚粉などの固体の
有機肥料も本技術で利用可能です。

有機肥料と化学肥料との育成比較

トマト(写真左)とサラダ菜(写真右)の栽培。有機区のポットには有機肥料としてCSLを、化学区には化学肥料を使用しました。施肥量は窒素量が等しくなるようにしました。

トマト、サラダ菜とも、化学肥料と同程度の生長・収穫量でした。

実用化の効果

養液栽培の肥料をすべて有機肥料にすることができ、しかも様々な有機肥料を養液栽培に利用することができます。培養液に有機肥料を直接添加することができるので、手間がかかりません。曝気などにより養液内の溶存酸素が十分あれば悪臭の問題もありません。

今後の発展

現在得られている結果はポットレベルの試験です。栽培試験を行っているのは液性の有機肥料であり、今後は固体の有機肥料での栽培実績を積んでいく必要があ ります(固体の有機肥料でも、無機化することは確認済み)。養液の温度が13~32°Cの範囲ならば有機物の分解も問題なく、栽培も支障ないことが分かって いますが、さらに詳細に調べる必要があります。

研究担当者

独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構
野菜茶業研究所 果菜研究部 環境制御研究室
篠原 信
Tel:0569-72-1647 Fax:0569-73-4744

広報担当者

独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構
野菜茶業研究所 企画調整部情報資料課
課長 松田 幸雄
Tel:059-268-4626 Fax:059-268-3124

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