生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2012年度 終了時評価結果

共生細菌により昆虫が獲得する新規生物機能の解明と制御への基盤研究

研究代表者氏名及び所属

深津 武馬 ((独)産業技術総合研究所)

総合評価結果

優れている

評価結果概要

 (1)全体評価 

本課題は、農業・衛生害虫と共生細菌との関係をゲノムレベル、遺伝子発現レベルで解析することによって、産業応用を目指した基盤的研究として推進した。中間評価での指摘により、当初の「A.共生細菌のゲノム解析(二河成男)」「B.昆虫共生器官のEST解析(野田博明)」「C.昆虫―微生物共生系の機能解析(深津武馬)」の3中課題を、研究の進捗状況に調和させて、上記の2中課題にまとめ実施したものである。

その結果、最終的には12種の共生細菌の全ゲノム解析および5種の昆虫共生器官のEST(発現遺伝子)解析を行い、多くの新規な情報が得られ、共生細菌の同定、共生細菌による農薬耐性獲得機構解明、共生に必須なタンパク質の同定等多くの成果を挙げた。これらは、全く新規な知見であり、昆虫と共生細菌間の関係の進化学的、生理学的観点から広範な関心を呼び、数多くの高インパクトの論文に掲載されると共に、プレスリリースを含み社会に向けて積極的に発信されたことを高く評価した。

しかし、産業応用面については、共生関係が極めて多様であるため説得力のある具体的提言に乏しい現段階では、貢献が少し弱いと云える。

以上の様に、応用面等に疑問が出されたが、全体的には計画を上回って多くの新規性の高い有意義な成果が得られており、高く評価する。

  

 (2)中課題別評価

中課題A「共生細菌のゲノム解析と生物機能の解明」

(放送大学  二河 成男、(独)産業技術総合研究所 深津 武馬 )

本中課題では、12種の農業・衛生害虫の共生細菌の全ゲノムを解読したことは大きな成果である。これらの成果を元に、農業現場の殺虫剤であるフェニトロチオンを分解するホソヘリカメムシの共生細菌Burholderiaの発見および共生細菌による宿主の殺虫剤抵抗性獲得機構解明、トコジラミのWolbachiaゲノムに新規に見出されたビタミンB合成関連酵素遺伝子、また害虫性マルカメムシと非害虫性タイワンマルカメムシの共生細菌Ishikawaellaの両全ゲノム塩基配列の比較から、宿主マルカメムシの食性変化に重要な役割を担うと考えられるアリルエステラーゼ遺伝子の同定の成果が得られる等、極めて新規性の高い成果が得られた。

応用面等に疑問が出されたが、全体としては計画を上回る多くの重要な成果を挙げており、本中課題は極めて優れていると評価する。

 

中課題B「共生器官の発現遺伝子解析と生物機能の解明」

((独)農業生物資源研究所  野田 博明、(独)産業技術総合研究所 深津 武馬 )

本中課題では、5種類の農業・衛生害虫の共生器官で発現する遺伝子群のEST解析を行うことによって、多数の新知見を得た。例えば、ツマグロヨコバイの菌細胞塊中で発現する極めて多種類のペプチドグリカン認識タンパク質遺伝子や、チャバネアオカメムシの中腸盲嚢部において、共生細菌の存在に応答して発現する機能未知遺伝子、多様な方法を駆使しての機能未知遺伝子の解明、さらにはツマグロヨコバイの共生リケッチアが精子経由で垂直伝搬される現象の発見等、高いレベルの研究成果を挙げた。ただし、中課題間の連携・協力が強ければ、さらなるレベルアップの可能性のあることも指摘したい。

以上の様に、連携の弱さが指摘されるが、全体的には優れた顕著な成果を挙げたことから、高く評価する。