べにふうき緑茶の抗アレルギー作用とそれを利用した製品開発

山本(前田)万里 (農研機構 野菜茶業研究所 野菜・茶機能性研究チーム長)

始めに

茶(Camellia sinensis L.)は薬用として何千年も使われてきた植物です。同じ葉から不発酵茶(緑茶)、発酵茶(烏龍茶、紅茶)、後発酵茶(黒茶)を製造できます。茶には、様々な生理機能性があることが学会等で報告されており、特にカテキン類の機能性については数多くの研究例があります。本特集では、抗アレルギー作用をもつ茶成分を探索し、それを利用した製品開発を行ってきた研究開発事例について紹介します。

抗アレルギー作用を持った茶品種の探索

メチル化カテキンの構造式

近年、花粉症やアトピー性皮膚炎と言ったアレルギーに罹患した方が多くなり、少しでも症状を軽くしたい、できることなら安全性の高い食べ物でもって軽減したいと願う人が多くなってきています。アレルギーを抑制できるかどうかを調べるには、アレルギーの初期段階で中心的な役割を果たすマスト細胞を用いた評価系があります。そこで私たちは、抗アレルギー作用を持つ茶品種の探索を行い、紅茶系品種「べにほまれ」や台湾系統が強いヒスタミン遊離抑制作用を示すことを見出しました。また抗アレルギー物質の単離・精製を進めたところ、エピガロカテキン-3-O-(3-O-メチル)ガレート(EGCG3”Me)やエピガロカテキン-3-O-(4-O-メチル)ガレート(EGCG4”Me)(メチル化カテキンと命名)がその機能を発現する成分であることを発見しました(図1)1)

メチル化カテキンとは

メチル化カテキンは主要なカテキンであるエピガロカテキン-3-O-ガレート(EGCG)のガレート基の一部がメチルエーテル化された物質です。マウスを使ったI型アレルギー反応試験においてもEGCGに比べ2.5倍の抗アレルギー作用を発現します1) 2)。マスト細胞や好塩基球内の高親和性IgEレセプタ発現を抑制し3)、カテキンレセプタである67LRを介してミオシン軽鎖リン酸化を阻害し4)、情報伝達系のチロシンキナーゼであるLynのリン酸化を阻害することでマスト細胞の活性化を抑え、ヒスタミンの遊離を抑制することが明らかにされています5)。EGCG3”Meは、EGCGに比べヒト血漿中での安定性が高く、吸収後の血中からの消失がEGCGに比較して緩やかであり、経口投与による吸収率も有意に高値を示します(AUCでEGCGの6.4倍)6)

EGCG3”Meを多く含む「べにふうき」というのは、アッサム種に近い品種で、「べにほまれ」と「枕Cd86」を交配し、紅茶、半発酵茶用品種として1993年に命名登録した品種です。EGCG3”Meは二番茶~秋冬番茶に多く含まれ(九州以北)、紅茶にすると消失し、葉位では成熟葉に多く含まれ、茎にはほとんど含まれていないという特徴があります7)。そのため、メチル化カテキンを多く含む素材を得るため、4~5葉まで大きく伸ばした茶芽を摘採して緑茶製造を行っています。

アレルギー症状軽減効果のヒト介入試験例

スギ花粉症状をもつ研究所のボランティアに「べにふうき」緑茶(1日あたりEGCG3”Me 34mg)や、プラセボとしてEGCG3”Meを含まない「やぶきた」緑茶を毎日飲んでもらい、その効果を二重盲検で試験してみました。実施期間は、花粉の飛散の増加とともに、鼻の症状(くしゃみ、鼻汁、鼻づまり)、眼の症状(かゆみ、涙)、咽頭痛は悪化する時期に行い、被験者の方々には各個人の症状を毎日日誌に記載していただく形で試験を実施しました。その日誌に基づき症状を日本アレルギー協会の方法に従ってスコア化してみると、「べにふうき」飲用群は、プラセボ飲用群に比べ、有意に症状スコアの改善が認められました。特に、鼻かみ回数、眼のかゆみ、咽頭痛で顕著な改善が現れました。その後の研究により、「べにふうき」緑茶の抗アレルギー作用は、ショウガエキス添加によりさらに増強されることがわかりました8)。ダニを主抗原とする通年性アレルギー性鼻炎有症者92人による試験でも同様の症状軽減効果が確認されています9)

商品化への取組

以上の研究の大部分は、生研センター異分野融合研究支援事業(2001-2005)の茶コンソーシアムの課題として行われてきたものです。この支援事業では当初は、原料となる「べにふうき」を栽培している産地がなかったため、「べにふうき」の普及からスタートしました。産地に合った「べにふうき」の栽培法、最適製造法などを確立しつつ、「べにふうき」の普及を図り、徐々に栽培面積、生産量を増やしていきました。その間に、紅茶系の品種なので渋味が強い「べにふうき」緑茶をどのように摂取しやすい飲食品にするかの研究を行い、2005年、2006年にアサヒ飲料(株)、森永製菓(株)から容器詰め飲料、菓子、健康食品が上市されました(写真1)。2006~2007年度には農林水産省フロンティア創造育成事業にて、「べにふうき」緑茶の需要拡大を目指して、新たな製品開発に取り組み、和光堂(株)から「べにふうき」茶エキス含有ベビーパウダー、ツムラLS(株)から「べにふうき」茶エキス含有入浴剤、ボディソープ(写真1)が上市されました。現在も参画企業の新製品開発が続いています。

さらに、妊婦や乳幼児等カフェインリスクの高い消費者にも気軽に摂取してもらえるよう、「べにふうき」緑茶の低カフェイン化技術の開発も行っています。生葉を95°Cの熱水シャワーで短時間洗浄してカフェインを半減する装置を開発し10)、製茶機械メーカーの寺田製作所から上市されています。

「べにふうき」緑茶を利用した製品の写真

今後の展開

現在、国民が求めているのは安全で機能の高い食品です。そのため、産地や栽培法が消費者にわかるシステム作りを行っています。また「べにふうき」はメチル化カテキン量の制御が鍵となっていますので、生産現場で簡易にメチル化カテキンを測定できる装置の開発や、「べにふうき」保証制度の立ち上げにも現在取り組んでいます。今後も、機能性を持った新たな茶品種を開発し、消費者の健康に役立つ製品を提供すべく研究を重ねているところです。

References

  • 1) M.Sano, M.Suzuki, T.Miyase, K.Yoshino & M.Maeda-Yamamoto: J. Agric. Food Chem., 47(5), 1906(1999).
  • 2) M.Suzuki, K.Yoshino, M.Maeda-Yamamoto, T.Miyase & M. Sano:J Agric Food Chem., 48(11),5649(2000)
  • 3) Y.Fujimura, H.Tachibana, M.Maeda-Yamamoto, T.Miyase, M.Sano, K.Yamada.: J Agric Food Chem ,50, 5729 (2002).
  • 4) Y.Fujimura, D.Umeda, S.Yano, M.Maeda-Yamamoto, K.Yamada, H.Tachibana:Biochem Biophys Res Commun. ;364(1),79(2007).
  • 5) M.Maeda-Yamamoto, N.Inagaki, J.Kitaura, T.Chikumoto, H.Kawahara, Y.Kawakami, M.Sano, T. Miyase, H.Tachibana, H.Nagai & T.Kawakami:J. Immunology, 172, 4486 (2004).
  • 6) M.Maeda-Yamamoto, K.Ema & I.Shibuichi.: Cytotechnology 55,135(2007).
  • 7) M.Maeda-Yamamoto, H.Nagai, K.Asai, S.Moriwaki, H.Horie, K.Kohata, H.Tachibana, T.Miyase & M.Sano: Food Science and Technology Research, 10(2), 186-190 (2004).
  • 8)山本(前田)万里,永井寛,江間かおり,神田えみ,岡田典久,安江正明:日本食品科学工学会誌,52,584 (2005).
  • 9) 安江正明,池田満雄,永井寛,佐藤克彦,光田博充,山本(前田)万里,薮根光晴,中川聡史,梶本佳孝,梶本修身:日本臨床栄養学会誌, 27,33(2005).
  • 10) 山本(前田)万里,長屋行昭,三森孝,山口優一,堀江秀樹,江間かおり,鈴木昌文,山内英樹,藁科文雄,水上裕造,廣野久子,物部真奈美:日本食品工学会誌,8(3),109(2007).
法人番号 7050005005207