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水曜会(第714回)

情報公開日:2019年11月19日 (火曜日)

今回の水曜会は、静岡県立大学より鈴木隆先生をお招きし「糖鎖生物学から見えてくるインフルエンザウイルスの感染機構」についてのご講演と、動衛研越境性感染症研究領域インフルエンザユニットから中山ももこ研究員、峯淳貴研究員のお二人による一般演題2題を予定しております。
参加者の事前登録は原則不要、当日参加も可能です。皆様の御来場をお待ちしております。

-水曜会幹事-

日時

令和元年11月27日(水)13:30~

場所

農研機構 動物衛生研究部門 講堂
茨城県つくば市観音台3-1-5
TEL:029-838-7724/Fax:029-838-7907
(研究推進部研究推進室渉外チーム)

内容

座長:内田 裕子(農研機構 動物衛生研究部門)

ロシア極東地域における野鳥へのGPS装着と現地調査報告(40分)

○中山 ももこ
(農研機構 動物衛生研究部門 越境性感染症研究領域 インフルエンザユニット)

1996年に中国で分離されたGoose/Guangdong(Gs/Gd型)H5亜型高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAIV)は、現在に至るまでオセアニア、南米大陸を除いた全世界的な広がりをみせている。日本では2004年にGs/Gd型H5亜型HPAIの侵入が確認された。それ以降も2007年、2008年、2009年、2010年、2011年、2014年、2015年、2016年、2017年、2018年とほぼ毎年のように野鳥及び家禽での発生が確認され続けている。こうしたHPAIVの拡大には野生鳥類の渡りの関与が強く示唆されている。家禽でのHPAIの発生は国内における家禽産業への影響のみならず、輸出制限に伴う対外的な経済被害につながりうる。国内でのHPAIの発生を未然に防ぐためにも、HPAIVの日本への侵入経路を解明し、早期に予察することが必要とされている。
集積された遺伝子解析情報から日本とロシア極東シベリア地域の間での野鳥によるHPAIV伝播の可能性が強く示唆され、また様々な種類の野鳥が世界各地から極東シベリア地域へ飛来し営巣することからこの地域がHPAIV遺伝子再集合の重要拠点であると推定されている。しかしながら、極東シベリア地域におけるウイルス循環の実態は未だ明らかにされていない。そこで当ユニットは、2017年度より農水省「国際共同研究パイロット事業」でロシア医療科学アカデミー臨床及び基礎医療研究センターとの共同研究を開始し、日本と極東シベリア地域間のウイルス生態を調査している。
本共同研究において日本国内でGPSを装着した野鳥がロシアサハリンへと向かうことが実証された。遺伝子解析により2018年1月に日本で分離されたHPAIVと同シーズンにヨーロッパで分離されたHPAIVが近縁であることが示され、このことからロシアが様々なHPAIVが集合し拡散するウイルス学的上重要な中継地点であることが予想された。さらに、N6亜型NA遺伝子の系統地理解析により、日本で分離されたウイルスとロシア極東シベリア地域で分離されたウイルスが近縁であることが判明した。今年度は、日本とロシア間で野鳥の動きを双方向的に捉える一環として、種々の野鳥の営巣地であり、さらに3つの野鳥飛行経路が重なる地点である北東シベリアの北極海に面するレナデルタ地方で野鳥糞便の採取と野鳥へのGPS装着を実施したので、その内容を中心に報告する。

タイの養豚場における豚インフルエンザウイルスの変遷(40分)

○峯 淳貴
(農研機構 動物衛生研究部門 越境性感染症研究領域 インフルエンザユニット)

【目的】豚インフルエンザのサーベイランスは、養豚場における豚インフルエンザウイルスの維持・循環様式を解明し、その経路を断ち切ることによる経済的損失を緩和することに加え、新たなパンデミックウイルスの出現を監視する上で公衆衛生上重要である。本発表では、日本医療研究開発機構(AMED)の感染症研究国際展開戦略プログラム(J-GRID)のもと、東南アジアにおける豚インフルエンザの疫学解明を目指し、タイの養豚場においてインフルエンザユニットが2011年から2019年にかけて行った豚インフルエンザサーベイランス結果並びに、農場従業員と豚の間でのインフルエンザウイルス伝播の状況を報告する。
【材料と方法】2011年から2019年にかけて、タイの中央地域に位置する15農場の豚から鼻腔拭い液を採取した。鼻腔拭い液から分離された豚インフルエンザウイルスの全ゲノム配列を解読し系統樹解析ならびに抗原性解析を行った。2農場においては、2018年から2019年にかけて従業員から気管拭い液を採取し、ウイルス分離、遺伝子解析を試みた。
【結果・考察】5876検体の鼻腔拭い液から、91株のH1N1亜型ウイルスと156株のH3N2亜型ウイルスからなる232株のウイルスが分離された。H1N1亜型ウイルスは全てA(H1N1)pdm09ウイルスであり、H3N2亜型ウイルスの内部遺伝子は全てA(H1N1)pdm09ウイルスの遺伝子に置き換わっていた。農場従業員から1株のA(H1N1)pdm09ウイルスが分離されたが、豚から分離されたウイルスとは系統的に離れていた。1頭の豚から採取されたスワブに、H1ならびにH3亜型のウイルスが共感染している事例を確認し、リアソータントが豚内で実際に起こっていることを実証した。長期的にウイルスが分離されている農場においてウイルスの抗原性を解析したところ、農場内では系統的に異なる豚インフルエンザウイルスの間だけでなく、同系統のウイルス間でも抗原性の相違が認められた。以上から、抗原性の異なるウイルスの侵入あるいは変異の蓄積による抗原性の変化によって、豚インフルエンザウイルスが農場内で豚群の集団免疫を回避しうる抗原的多様性を獲得することで維持されていることが示唆された。

座長:西藤 岳彦(農研機構 動物衛生研究部門)

糖鎖生物学から見えてくるインフルエンザウイルスの感染機構(90分)

○鈴木 隆
(静岡県立大学大学院薬学研究院生化学講座)

インフルエンザA型ウイルスの増殖におけるスルファチドの機能
我々はインフルエンザA型ウイルス(IAV) が3-O-sulfogalactosylceramide (sulfatide) と結合することを見出した。さらにsulfatideの発現を制御した細胞を用いたウイルス感染実験から、感染細胞膜上に輸送された新生ヘマグルチニン(HA) とsulfatideの結合がシグナルとなり、ウイルス核タンパク質複合体(vRNP) の核外輸送を促進し、ウイルス産生が増加することを明らかにした。一方、リバースジェネティックス法により作製したPB1-F2欠損IAVによるsulfatide欠損細胞と発現細胞におけるapoptosis誘導機構の解析から、sulfatideは新生HAと複合体を形成することで、PB1-F2によるapoptosis-inducing factor (AIF)の核内移行に依存したapoptosisを誘導し、vRNP複合体の核外輸送を促進することを見出した。さらにsulfatide はB型ウイルスの増殖にも関与することが判明した。

感染初期過程におけるノイラミニダーゼ(NA)の機能
我々はIAVのNA(シアリダーゼ)活性が、pH 4.0-4.5の酸性環境下で保持されるウイルス株(低pH安定株)と非可逆的に失活するウイルス株(低pH不安定株)が存在し、1918年に出現したH1N1型、1957年に出現したH2N2型、1968年に出現したH3N2型のパンデミックウイルス株は、カモインフルエンザウイルスと同様に低pH安定性を保持していることを見出した。さらに遺伝子組換NAとリバースジェネティックス法により作製したウイルスによる解析から、低pH安定なNAは、ウイルスの増殖性を増大させ、感染初期過程におけるlysosome内でのシアリダーゼ活性が関与することが判明した。

インフルエンザウイルス感染におけるシアル酸分子種の役割
IAVの受容体となるシアル酸にはN-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac) とN-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc) の分子種がある。我々はIAV感染におけるシアル酸分子種の役割を解明するために、シアル酸分子種の認識に関与するH3HA分子のアミノ酸残基を解明した。さらに、Neu5Gc合成能を欠損するヒト由来培養細胞にCMAH遺伝子を導入することでNeu5Gc発現細胞を作製し、シアル酸分子種結合性を改変した遺伝子組換えIAVの感染実験から、ヒト細胞に発現したNeu5GcはIAVを結合するが、機能的な受容体としては機能しないことを見出した。

新規蛍光基質によるインフルエンザウイルス感染細胞のイメージング
不溶性の蛍光物質である2-benzothiazol-2-yl-phenol (BTP)誘導体にNeu5Acを付加した新規シアリダーゼ蛍光基質BTP-Neu5Acを作製し、インフルエンザウイルスやウイルス感染細胞を蛍光イメージングすることに成功した。BTP-Neu5Acはウイルスを不活化することなく、従来のウイルス分離法と比べて簡便で迅速にウイルスを検出、分離出来るだけでなく、抗インフルエンザ薬に耐性を示すウイルスの判定に応用可能であるため、新規検出法としての利用が期待される。

Biochem. J., 318, 389-393, (1996); FEBS Lett. 543, 71-75, (2003); FEBS. Lett. 557, 228-232, (2004); J. Virol., 79, 11705-11715 (2005); J. Virol. 82, 5940-5950 (2008); FEBS Lett. 583, 3171-3174 (2009); J. Lipid Res. 53, 1437-1450 (2012); J. Virol. 88, 8445-8456 (2014); Sci. Rep., 4, 4877 (2014); ACS Chem. Biol. 14, 1195-1204 (2019)