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第220回つくば病理談話会演題

416) 牛の十二指腸における絨毛の壊死、萎縮[牛コロナウイルス病、牛ロタウイルス病、真菌性第三胃炎]

  • 提出者(所属): 原田 奈美香(群馬県家畜衛生研究所)
  • 動物種: 牛
  • 品種: 雑
  • 性別: 去勢雄
  • 月齢: 2カ月齢
  • 死・殺の別:死亡
  • 解剖日:2018年10月23日
  • 解剖場所:群馬県家畜衛生研究所

発生状況および臨床所見

肉用牛約950頭を飼養する肥育農場において、10月11日に約1カ月齢で導入した交雑種雄牛が導入後1週間頃から血便を呈した。抗生剤、リンゲル液にて治療したが23日に死亡し、同日、病性鑑定を実施した。

病原検査

細菌学的検査では、肝臓、脾臓、腎臓、心臓、肺および大脳から有意な細菌は分離されなかった。空腸内容から1.0×106 CFU/g未満の大腸菌が分離された。空腸および結腸内容からサルモネラ属菌は分離されなかった。ウイルス学的検査では、空腸内容および結腸内容において牛コロナウイルス、A群、B群、C群ロタウイルス、牛トロウイルスのPCRを実施し、牛コロナウイルスおよびA群ロタウイルスの特異遺伝子が検出された。Vero-ky5細胞、MDBK-SY細胞を用いたウイルス分離では、分離されなかった。

解剖所見

眼球は陥没し、肛門周囲に赤褐色水様物が少量付着していた。十二指腸は緑褐色水様物を少量、空腸、回腸、盲腸は赤褐色泥状物を少量容れ、空腸、盲腸、結腸、直腸の粘膜は桃赤色を呈していた。第四胃の粘膜に針先大から粟粒大の黒色点が密発していた。

組織所見(提出標本: 十二指腸)

十二指腸では絨毛は壊死し、萎縮していた。粘膜固有層には好中球の浸潤がみられ、血管は拡張していた。空腸下部、回腸では絨毛が萎縮し、粘膜上皮細胞は立方状から扁平を呈していた。盲腸、結腸、直腸では粘膜固有層は充うっ血し、粘膜上皮細胞は剥離していた。脾臓では白脾髄のリンパ球が減少していた。第三胃では角質層が好中球の浸潤を伴い重度に肥厚、有棘細胞層は軽度に肥厚していた。第三胃のPAS染色により角質層においてくびれを有する仮性菌糸および球形から卵円形の酵母様真菌を認めた。十二指腸、空腸、回腸、盲腸、結腸についてウサギ抗牛コロナウイルス血清(動衛研)および牛ロタウイルス(A群)血清(動衛研)を用いた免疫組織化学的検査を実施したところ、十二指腸、空腸、回腸、盲腸および結腸でコロナウイルスの抗原が、空腸でロタウイルスの抗原が認められた。

討議

十二指腸では絨毛の壊死が認められましたが、この壊死の病理発生、牛コロナウイルスおよび牛ロタウイルスの関与についてどのように考えたら良いでしょうか、ご教授ください。

診断

  • 組織診断: 牛の十二指腸における絨毛の壊死、萎縮。
  • 疾病診断: 牛コロナウイルス病。牛ロタウイルス病。真菌性第三胃炎。

417) 牛の中脳におけるStreptococcus ruminantiumによる化膿性脳室炎及び化膿性髄膜脳炎[牛のStreptococcus ruminantiumによる敗血症]

  • 提出者(所属): 戸﨑 香織(栃木県県央家畜保健衛生所)
  • 動物種: 牛
  • 品種: ホルスタイン種
  • 性別: 雌
  • 年齢: 約2カ月齢
  • 死・殺の別:斃死
  • 解剖日:2018年6月1日
  • 解剖場所:栃木県県北家畜保健衛生所

発生状況および臨床所見

ホルスタイン種約1,170頭を飼養する肥育育成農場で、2018年4月に他県から導入した5頭のうちの1頭(当該牛)が、5月9日に下痢を呈したため治療を実施した。その後、5月18日に発熱、2日後には元気消失、起立不能、眼球振盪、神経症状を呈し、6月1日の朝死亡したため病性鑑定を実施した。

病原検索

細菌学的検査において、脾臓、腎臓、肺、心臓の僧帽弁に位置した疣贅部及び脳脊髄液からグラム陽性球菌が分離され、肺、疣贅部及び脳脊髄液から分離された菌株について簡易同定キット(API 20 STREP、ビオメリュー社)を用いて菌種同定したところ、いずれもStreptococcus suisと同定された。PCR法によりS. suis及びS. ruminantiumの遺伝子検査を実施したところ、S. suisは陰性、S. ruminantiumは陽性となり、分離菌株はS. ruminantiumと同定された。さらに、S. ruminantiumの主要血清型であるS. suis血清型33型莢膜特異的遺伝子を検出するPCR法を実施したが、当該遺伝子は検出されなかった。

剖検所見

脾臓はうっ血し、腎臓は両側性に腫大し出血斑がみられた。心臓は僧帽弁に疣贅性心内膜炎(直径5cm大)がみられた。肺は左肺前葉~中葉、右肺の一部で暗赤色を呈していた。脳は脳室~中脳水道の重度拡張と線維素析出がみられ、白濁した脳脊髄液が貯留していた。

組織所見(提出標本: 中脳)

中脳水道は高度に拡張し、内張りする上衣細胞は重度に変性、壊死及び脱落し、重度の好中球及びマクロファージの浸潤がびまん性に認められた。中脳水道内腔には、これらの細胞退廃物と多量のグラム陽性球菌を含んだ線維素塊が認められた。実質の血管周囲には軽度~中等度の好中球及び単核細胞の浸潤が散見され、特に中脳水道付近で顕著であった。髄膜にも軽度の好中球浸潤と少量のグラム陽性球菌が認められた。大脳、脳幹及び小脳においても同様の病変が軽度~中等度認められ、好中球及び単核細胞の浸潤を伴う微小~大型の壊死巣もまれに認められた。心臓では重度の化膿性心内膜炎、軽度の化膿性心筋炎及び心外膜炎が観察され、弁表面には多量のグラム陽性球菌塊が付着し、好中球を含む多量の線維素塊により包囲されていた。その他、腎臓では化膿性糸球体腎炎、小葉間及び弓状動脈の血管炎と変性、壊死、肺では化膿性気管支肺炎と軽度の肺水腫が認められた。

討議

脳の病変は、S. ruminantiumにより形成された疣贅の血行性転移によるものと考えられましたが、形成機序について御討議願います。また、重度の線維素析出について、本菌の特徴か、あるいは急性期の病変として捉えるべきか、御教授ください。

診断

  • 組織診断: 牛の中脳におけるS. ruminantiumによる化膿性脳室炎及び化膿性髄膜脳炎
  • 疾病診断: 牛のS. ruminantiumによる敗血症

418) 牛の大腿骨頭壊死[牛の特発性大腿骨頭壊死症]

  • 提出者(所属): 川島 大樹(長野県松本家畜保健衛生所)
  • 動物種: 牛
  • 品種: 黒毛和種
  • 性別: 雌
  • 年齢: 2カ月齢
  • 死・殺の別:鑑定殺
  • 解剖日:2018年6月7日
  • 解剖場所:長野県松本家畜保健衛生所

発生状況および臨床所見

肉用牛一貫経営農場において、4月2日生まれの子牛が跛行、貧血および腎不全の症状を呈したため担当獣医師が治療。治療により貧血や腎不全は改善したが、後肢の跛行が改善しないため予後不良と判断し、原因究明のため鑑定殺により病性鑑定を実施した。当該牛は起立困難を呈し、特に後肢の負重が難しい様子であった。

病原検索

細菌学検査では、主要臓器および大腿骨頭壊死部から有意な菌は分離されなかった。

血液生化学的検査

RBC: 1,518 (万個/μL)、PCV: 45.7(%)、Hb:13.7 (g/dL)、MCV:30.1、WBC:8,600 (個/μL)、TP:7.5 (g/dL)、ALB:2.3 (g/dL)、A/G比:0.44、BUN:10.7 (mg/dL)、TCHO:96 (mg/dL)、Ca:10.8 (mg/dL)、IP:7.4 (mg/dL)、GOT:63 (U/L)、GGT:39 (U/L)、CPK:161(U/L)

剖検所見

右側大腿骨頭が離断し、大腿骨の一部が壊死していた。また、関節包内に壊死した組織がみられた。その他に病変は認められなかった。

組織所見(提出標本: 大腿骨)

提出標本はプランク・リュクロ処方脱灰液およびキレート剤処方脱灰液を用いて二晩4°Cで低温脱灰後、5%硫酸ナトリウムを用いて室温で一晩中和処理を実施した。提出標本では骨髄の線維化と骨梁の壊死がみられ、骨梁の壊死がみられた部位のさらに外側には血管新生を伴う肉芽組織の形成がみられた。この病変は大腿骨頭から大腿骨頸にかけて形成されていた。その他に股関節の関節包では滑膜絨毛が消失し、線維芽細胞の増生と軽度の石灰沈着がみられた。

討議

大腿骨頭壊死は大腿骨頭への血液供給が不足し発生するとされている。本症例は稟告から貧血の既往歴があるが、これが発症の一因と考えてよいのか意見をいただきたい。

診断

  • 組織診断: 牛の大腿骨頭壊死
  • 疾病診断: 牛の特発性大腿骨頭壊死症