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第278回鶏病事例検討会 講演要旨

  • 開催日時: 平成27年9月18日(金曜日) 13時00分~
  • 場所: 農林水産技術会議事務局 筑波事務所本館2階、農林ホール
       茨城県つくば市観音台2-1-9(交通案内)
  • プランナー:谷村 信彦(農研機構 動物衛生研究所)
  • 司会者: 山本 みどり(福島県県央家畜保健衛生所)

テーマ: 最近の鶏病発生事例(非感染症)

1. 暑熱ストレスによる鶏病と暑熱対策

橋本 信一郎(株式会社ウェルファムフーズ 宮城産業動物診療所)

2015年夏に西日本の1ブロイラー農場では開放鶏舎9棟とセミウィンドウレス鶏舎4棟の合計13棟で14万羽を飼育し、7月31日から8月1日にかけて最高気温35.3°Cで飼育鶏の4.7%が熱死した。日齢は44~49、鶏舎毎の死亡率は開放鶏舎で0.6%~6.6%、セミウィンドウレス鶏舎で2.6%~13.1%だった。中抜き後で飼育密度は坪44羽、鶏舎内の風速は1.4m/s~2.7m/sだった。死亡鶏には胸筋等の死斑、体液の漏出、腹部膨満、胸筋の煮肉様変性、心房および心室の拡張、心冠部での大量の血餅の貯留、高度の肺水腫を認めた。北日本のブロイラー農場22戸ではウィンドウレス鶏舎118棟で120万羽を飼育し、7月中旬からの1週間に7戸12棟で1日1%以上の熱死が発生した。猛暑対策として採食に伴う熱の産生を避けるため、1日の中で気温が最高になるときの4~6時間前から飼料の給餌を停止したところ、死亡率は減少した。出荷成績では日増体量(DG)が最高70gから最低55gへ生産指数(PS)が最高400から最低242へと低下したが、その中でアミノ酸配合比率等が新設計された飼料を給与された群ではDG 60g以上PS 300以上だった。

2. 鶏の熱射病

川崎 武志(人と鳥の健康研究所 家禽診療センター)

熱射病heat strokeは、近年、国内の人医領域では熱中症heat-related illnessと呼ばれている。日本救急医学会の推奨分類では、めまい、大量の発汗、失神、筋肉痛、筋肉の硬直(こむらがえり)(意識障害を認めない)といった症状を指標とする段階をI度、頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感、集中力や判断力の低下を指標とする段階をII度、中枢神経症状(意識障害、小脳症状、痙攣発作)、肝・腎機能障害、血液凝固異常(DIC)のいずれかを含む症状を上記に併発している段階をIII度としている。鶏の場合、人の指標で示されるような初期段階の自覚症状を飼育者が認知することはほとんどなく、たいていの場合、重症化した段階もしくは死亡によって認知することになる。鶏の熱射病は、外気温が高い場合にだけ発生するのではなく、人為的に生じる鶏舎環境の状態変化と鶏群の状態との関係によっても起こり得る。しかし、いずれの場合においても、異常な高温と高湿に継続的に暴露されたことで発生することが共通している。そこで、今回、鶏の熱射病の臨床所見、病理所見の特徴、診断のポイントについて例示する。

3. 加齢や飼育環境による産卵低下・卵質低下

鈴木 和明(全農飼料畜産中央研究所 養鶏研究室)

採卵養鶏農場の鶏は、約20週齢から産卵を開始し、80~100週齢程度まで産卵をしたのち廃鶏出荷されます。高日齢鶏では、産卵率および卵殻強度の低下がみられ、卵内容物にも様々な品質低下が生じます。なかには鶏卵の価値を大きく損なうような事例もあります。本発表では鶏の加齢による鶏卵品質低下について、破卵の発生やハウユニットの低下のほか、卵白や卵黄の品質低下も含めて紹介します。
また、不適切な飼育密度や光線管理、夏季の高温など、飼育環境の問題が産卵成績や卵質の低下と密接に結びついて影響することがあります。これらの事例を報告するほか、卵質の低下がどのようにして採卵養鶏農場の経済的な損害に結びつくのか、またその損害の程度がどのようなレベルにあるのかについても野外農場での実例をもとに紹介します。

4. 点灯管理によるブロイラーの低血糖症予防と低血糖症を伴った封入体肝炎の発生

梶江 昭(アキラ獣医コンサルタント)

アメリカから輸入したチャンキー銘柄のブロイラーは,低血糖症が多発したが,鶏舎内の照度を1週齢より5ルックスに下げるか,50ルックスでも毎日4時間消灯すれば,正常な血糖値が得られ,低血糖症が予防できた。本事例はアメリカで確認されたHSMSと著しく類似したが,橙色粘液便の排泄が認められず,また血液の平均値はインスリンが290pg/ml,グルカゴンが3.00ng/mlであり,正常値と比較して前者は低く,後者は高い逆の結果が得られたことが相違した。Rideauら(2010)は,鶏肝臓中のGK活性を上げると,血糖値とインスリン値が低下し,グルカゴン値が上がることを報告している。これと一致したことは,終夜連続して高照度点灯することが,肝臓中のGK活性を高め,血糖の恒常性に異常をきたし,低血糖症を誘発した可能性がある。
約1年半後にイギリスからの輸入に変更し,この鶏群に高照度点灯しても,血糖に異常が認められなかった。しかし,低血糖を伴う鶏アデノウィルス(FAdV)の血清2型による封入体肝炎の発生が2農場で確認された。これまでの低血糖症はFAdVが陰性であることから,これと明らかに原因が相違すると考えられる。

5. 低血糖を呈したブロイラーの死亡事例

大竹 祥紘(栃木県県央家畜保健衛生所)

約44,000羽を飼養するブロイラー農場で平成25年2月から4月にかけて、13日齢の雛320羽が震え、脚弱、嗜眠等を呈して死亡した。発症鶏16羽を剖検したところ著変は認められなかったが、細菌学的検査で1羽の主要臓器から大腸菌を分離した。ウイルス及び病理組織学的検査では有意な所見はなかった。生化学的検査では発症鶏20羽中13羽が低血糖(血糖値150mg/dL以下)を呈し、症状が強いほど血糖値が低い傾向がみられた。以上のことから、低血糖症と診断した。畜主によると、同様の症例は数年前から散発的に発生していたとのことであった。光線管理は常時点灯、発症群は全て若齢種鶏(33~36週齢)由来であった。死亡数の多いロットでは餌切れも発生しており、既報では発症要因として、不適切な光線管理、餌切れ、若齢種鶏由来の雛等が挙げられ、本症例と共通していた。過去約1年間の管理台帳から12~14日齢の死亡羽数と上記発症要因との相対リスクを検討したところ、餌切れが4.28倍と高リスクであった。飼養管理の徹底を指導後、本症の発生は認められなくなった。今後、若齢ブロイラーの病鑑時には本症の考慮も必要と考えられる。

6. ブロイラーのHypoglycemia-Spiking Mortality Syndrome発生事例

大場 浩美(群馬県家畜衛生研究所)、須藤 慶子(群馬県畜産課)

Hypoglycemia-Spiking Mortality Syndrome (HSMS;低血糖-突然死症候群)は主に7~21日齢のブロイラーで、顕著な低血糖と一過性の死亡率上昇を特徴とする原因不明の疾病である。2013年6月から11月までの間、ブロイラーを飼養する4農場7鶏群で9~29日齢の雛の死亡羽数が急増したため、25羽について病性鑑定を実施した。その結果、18羽が低血糖症と判定される血糖値150mg/dlより低値で、HSMSと診断した。18羽の血糖値は68±37(平均±標準偏差)mg/dlと顕著な低値であった。共通臨床症状は元気消失、沈鬱で、一部に特徴的な橙色水様~粘液便を認めた。低血糖を呈した2羽の主要臓器からEscherichia coliが分離されたが、他の16羽からは有意な細菌およびウイルスは分離されなかった。組織学的所見では筋胃びらん、肝臓の出血を伴う多発性巣状壊死を一部で認めるほか、特徴的な所見は認められず、低血糖のみが特徴的所見であった。今後、ブロイラーの死亡羽数増加時の病性鑑定では、高病原性インフルエンザ等の感染症のほか、臨床症状と血糖値の結果から本疾病の可能性を考慮する必要がある。