イベント・セミナー

第280回鶏病事例検討会 講演要旨

  • 開催日時: 平成28年6月17日(金曜日) 13時00分~
  • 場所: 農林水産技術会議事務局 筑波産学連携支援センター本館2階、農林ホール
       茨城県つくば市観音台2-1-9(交通案内)
  • プランナー:橋本 信一郎(株式会社ウェルファムフーズ 宮城産業動物診療所)
  • 司会者: 高橋 一郎(栃木県県央家畜保健衛生所)

テーマ: 食鳥検査と農場の衛生対策

1. 食鳥処理場と食鳥検査の紹介(45分)

橋本 信一郎(株式会社ウェルファムフーズ)

食鳥は農場から食鳥処理場に出荷される。
【生体検査】とさつ前に、その食鳥の生体の状況について望診が行われる。
【脱羽後検査】生鳥はオーバーヘッドコンベアに懸鳥され、スタナー、放血、湯漬の工程を経て羽毛が除去され、とたいの体表の状況について望診及び触診が行われる。
【内臓摘出後検査】内臓を摘出(中抜き)した後、一羽ごとに、その内臓及び食鳥中抜とたいの体壁の内側面の状況について望診及び触診が行われる。
(製品化の工程)食鳥検査に合格した食鳥とたい、可食内臓はそれぞれ、チラーによって冷却され、解体、脱骨等の加工を経て計量包装され、冷蔵または冷凍で流通する。処理工程の機械化が進み、大規模食鳥処理場では1時間あたり約4千羽~1万羽が処理される。
(検査廃棄の傾向)ブロイラーの大腸菌症と腹水症による全廃棄がやや増加し、近年、胸筋の変性が問題となっている。趾蹠皮膚炎(FPD)の観察では病変スコアともも肉の歩留との間に負の相関が認められ、FPDによる鶏の運動量の低下が示唆された。
(精密検査)カンピロバクター属や大腸菌の薬剤耐性などの調査研究が食鳥検査員によって進められている。
(農場の衛生対策)飼養衛生管理基準の遵守と食品安全とを連携させる仕組みがHACCPと思われる。

2. 鶏肉および鶏肉における食中毒汚染の現状と課題(60分)

岡村 雅史(北里大学 獣医学部 獣医学科 人獣共通感染症学研究室)

サルモネラおよびカンピロバクターは、先進国における食品由来胃腸炎の最も一般的な原因である。これらの菌に汚染された鶏肉がヒトの主な感染源であることから、両菌による農場の鶏群汚染および処理場の鶏肉汚染の減少は、ヒトの食中毒事例数の減少に不可欠である。鶏群の汚染に至る汚染源や経路はいまだ明確ではないが、近年では野生動物や昆虫の関与が注目されている。鶏舎外や農場外に存在する様々な潜在的汚染源と鶏群の間を隔てるためのバイオセキュリティの強化は、農場での鶏群汚染リスクを低減する対策として有効と考えられている。一方、食鳥処理場に入荷された鶏群における盲腸内容物1gに含まれる菌数は、サルモネラで103CFU以下、カンピロバクターで106CFU以上である。処理過程を経ることで最終製品における菌の濃度は大きく低下するものの、ヒトの最小感染菌量とされる102CFU程度は保持される。一方、と体の交差汚染が進むことによって汚染率は上昇してしまうため、ヒトが汚染鶏肉に曝露される機会は増加すると考えられる。その後の消費段階における生食や加熱不十分なままの喫食が重なると、必然的に食中毒発生リスクはさらに増大する。これらのリスクを管理するうえで不可欠なのがフードチェーン全体での取り組みであり、各段階における設備・施設等の充実・改善といったハード面のみならず、実際にこれらを使用する従事者に対する教育・啓発を含むソフト面にも注目することが求められる。

3. ブロイラーにおけるカンピロバクター属薬剤耐性株の出現状況(15分)

宮城県食肉衛生検査所 井上 奈奈*,○後藤 郁男 *現:宮城県北部保健福祉事務所栗原地域事務所

【はじめに】キノロン系薬剤耐性株の出現状況の把握を目的として調査を実施した。また gyrA遺伝子のキノロン耐性決定領域(QRDR)の解析を行った。
【材料および方法】管内食鳥処理場に搬入された8農場(A~H)160羽の盲腸内容物を分離培養した。また平成25年度に食鳥輸送かご内の糞便から分離した保存株35検体を使用した。薬剤感受性試験はディスク法で行った。gyrA遺伝子QRDRの解析を行い, 16SrRNAを用いた系統解析を実施した。
【結果】2農場(D,E)から菌が分離されたが,他の6農場からは菌は分離されなかった。継代培養中に死滅した検体を除く86検体を分離した。薬剤感受性はD農場の48検体で耐性を示したが,平成25年度の検体は全て感受性であった。gyrA遺伝子については, DとE農場の検体はすべて同一の塩基配列でC257Tの変異が認められ,86番目のアミノ酸がThrからIleに変異していた。平成25年度の検体はアミノ酸の変異は認められなかった。16SrRNA遺伝子系統解析でD農場と平成25年度の検体はカンピロバクター属菌と99%以上,E農場の分離株はHelicobacter pullorumと約97%の相同性を示した。
【考察】本調査により,汚染農場と非汚染農場の存在が確認された。D農場の検体は薬剤耐性で,これはgyrA遺伝子QRDRのアミノ酸の変異によると考える。E農場の検体はH.pullorumと高い相同性を示したが,gyrA遺伝子は257番目の変異を除きすべてC.jejuniの配列と一致していた。カンピロバクター目の菌において接合伝達や伝達性キノロン耐性遺伝子の報告もあることから,遺伝子の水平伝達が起こった可能性がある。

4. 大規模食鳥処理場における食鳥肉からのESBL産生大腸菌の分離(15分)

菊地 利紀(宮城県食肉衛生検査所)

現在,人の医療現場において薬剤耐性菌が大きな問題となっているが,その中でも,広域な薬剤耐性を持つ基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生菌が特に注視されている。β-ラクタマーゼはグラム陰性菌に抗菌作用を示すペニシリン等のβ-ラクタム薬を分解する酵素であるが,ESBLは遺伝子の変異・アミノ酸配列の変化により,第3世代セフェム系薬剤の分解能を獲得した酵素である。ESBLはプラスミドにより種々の細菌に伝播し,特に食鳥のESBL産生大腸菌検出率が高いため,宮城県内大規模食鳥処理場での調査を実施した。全部廃棄食鳥と体の浅胸筋およびその近位の皮膚を検体として供し(8農場12鶏舎;計120検体),ESBL産生大腸菌の検出状況,O抗原血清型およびESBL遺伝子等を調査した。ESBL産生大腸菌の検出率は全体で65.8%となったが,農場によって大きく異なる結果(0~100%)となった。また,O抗原血清型は農場によって主流となっている株が異なっており,検出されたESBL遺伝子も農場によって異なる結果となった。これらの結果から湯漬け槽における各農場間の交差汚染の可能性は低く,ESBL産生大腸菌は各農場の保菌状況を反映していると考えられた。

5. ブロイラーの浅胸筋変性症の発生に影響を及ぼす農場の鶏舎型および鶏舎内温度(15分)

佐藤 良市、佐々木 保、渡邉 一生(岩手県獣医師会食鳥検査センター)

1.目的:我々が浅胸筋変性症について2013年4月から10月までの発生状況と発症要因の検討を報告した。その後、翌年3月まで追加調査し、発症要因として示唆された温度要因の検討をした。
2.材料及び方法:2013年4月から1年間の検査を行った4,020,289羽のブロイラーを対象にチャンキー(CH)種604ロットと国産鶏種278ロットをデータ分析した。このCH種604ロットを農場の鶏舎型毎に開放二階建て型、開放平屋型、ウインドレス型に分類し、540ロットについて発症状況を調査した。更に同一農場の高発生率鶏舎と低発生率鶏舎での鶏舎内温度を比較検討した。
3.成績:1)浅胸筋変性症の発生率は、CH種の農場発生率は80.8%、個体別の発生率はCH種0.081%(一般鶏0.096%、銘柄鶏0.051%)、国産鶏種0%の順で低くなった。2)鶏種別の搬入ロット(食鳥処理当日の農場数を1ロットとした)について、平均日齢体重(搬入時体重/搬入時日齢)を調査した。CH種では58.3g、発生率0%の国産鶏種は45.3gと発生率の高い順位と符合した。3)鶏舎型別発生率;開放二階建て型71%、開放平屋型62%、ウインドレス型56%。4)月別CH種の発生ロットの割合:夏場の7月から10月が70%以上、しかも0.4%以上のロットは、9月14ロット、10月6ロット7月5ロットでした。5高発生率鶏舎の鶏舎内温度の推移は、2013年7月25日入雛群でT農場4号舎では、24日齢から約2日連続26°Cから35°Cの範囲で。2014年7月12日入雛群でH農場1号舎では、24日齢から4日連続27°Cから33°Cの範囲でヒートストレスが確認された。
4.考察:1)鶏舎型では、開放型の換気システムには、ばらつきが多く特に二階建て型では、二階部分は、発育が良く、また、一階からの温度と外気温の影響を受けやすくその条件によって年間発生が多いものと思われた。2)鶏舎内は、高発生率鶏舎に共通して4週齢時に27°C以上の連続のヒートストレスが確認された、4週齢前後は、換羽期に当たり体温調節機能が未熟で温度感作の影響を受け易いとされる。3)今回の調査で浅胸筋変性症は、速い発育速度(増体要因)と高い温度感作(温度要因)として夏季の高温多湿、鶏舎内の高温多湿部分、4週齢の換羽期の鶏の関与が示唆された。

6. ブロイラーにおけるHACCP(60分)

中原 学(共立製薬株式会社PA営業推進部)

日本の畜産物を取り巻く環境は、今まさに大きな転換期を迎えている。背景として、まずTPPを契機として、政府は2020年までに輸出農産物1兆円、2030年には5兆円という「攻めの農業」を成長戦略として掲げている。また、2020年に開催される東京オリンピックまでに、国際標準に適合した生産システムに基づく国産食材の調達が強く求められている。一方厚生労働省は、食品安全の国際標準であるHACCP方式を、食鳥処理場を含めた食品企業に対して、段階的に義務化する方向を目指している。しかしながら、現状の国内における畜産物のHACCP認証は非常に少なく、気が付けば日本の畜産業界はHACCP後進国になっていた。我が国の畜産物は世界に誇れる品質と安全性を有している。しかし、それを証明する手段を有していなければ、もはや通用しない。世界標準として国連の食品規格(コーデックス)委員会が発表したHACCP方式が国際的に推奨されている。HACCP方式は一般的衛生管理が基盤にあり、さらには飼養衛生管理基準の遵守が大前提であり、これらは全て連動している。これからの畜産生産指導者はHACCPを学び、生産現場に教育・指導することも重要な役割であると思われる。