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第200回つくば病理談話会演題

363)豚のMycoplasma hyopneumoniae抗原を伴う豚インフルエンザウイルス(H1N2)による壊死性細気管支炎および気管支間質性肺炎、肺の巣状壊死 [Mycoplasma hyopneumoniae感染を伴う豚インフルエンザ]

  • 提出者(所属): 関口 真樹(千葉県中央家畜保健衛生所)
  • 動物種: 豚
  • 品種: 雑種
  • 性別: 去勢雄
  • 年齢: 108日齢
  • 死・殺の別: 輸送中死亡(死後1時間)
  • 解剖日時: 2014年8月19日
  • 解剖場所: 千葉県中央家畜保健衛生所

発生状況および臨床所見

母豚70頭規模の一貫農場。70~140日齢の肥育豚を飼養する豚舎で、8月11日から発咳、腹式呼吸がみられた。その後、豚舎全体に急速に伝播し、日齢に関係なく約半数が発症したが、9月初旬に鎮静化した。死亡豚は少なく、他豚舎での発生はなかった。ワクチンはマイコプラズマ(3日齢)、PCV2(21日齢)、App(60-70日齢)、AD(70-80日齢)。

病原検索

ウイルス学的検査で、肺から豚インフルエンザウイルス(H1N2)分離。肺の一部でPRRSウイルスの特異遺伝子検出。細菌学的検査で、肺からMycoplasma hyopneumoniae (Mhp)とMycoplasma hyorhinis(Mhr)の特異遺伝子検出。全身臓器から有意菌の分離なし。

血液・血液生化学検査

ヘマトクリット値の低下(12%)、フィブリノーゲンの上昇(0.7g/dl)、低血糖(32mg/dl)

剖検所見

体温41°C。発育良好。肺では、左右の前葉・中葉・後葉前縁・副葉の一部が境界明瞭に赤紫色を呈した。その他の部位は退縮不全で、点状出血が多発していた。全体に小葉間水腫がみられた。気管には白色泡沫液が充満していた。気管リンパ節および肺リンパ節は充血、腫大していた。その他の臓器に著変はみられなかった。

組織所見(提出標本: 肺(右肺前葉))

肺では、気管支から細気管支にかけて上皮細胞の扁平化、壊死、脱落がみられ、内腔に細胞退廃物、マクロファージ、好中球が貯留していた。周囲組織ではリンパ球浸潤とリンパ濾胞形成がみられた。赤紫色部では、肺胞で漿液、マクロファージ、好中球、細胞退廃物の貯留と出血、一部の細気管支で周囲組織まで及ぶ壊死がみられた。また、充血と血栓形成を伴う壊死巣が散在していた。小葉間結合組織は水腫性に拡張していた。
その他、気管リンパ節および肺リンパ節では、血液吸収を伴う洞カタルがみられた。胃では、無腺部の潰瘍がみられた。
A型インフルエンザウイルスマトリックス(AbD serotec社)、Mhp、MhrおよびPRRSウイルス(いずれも動物衛生研究所)の抗血清を用いた免疫組織化学的検査では、細気管支上皮細胞と肺胞上皮細胞にインフルエンザウイルス抗原、細気管支と肺胞の貯留物中にMhp抗原が多量に、Mhr抗原が少量確認された。PRRSウイルスは陰性だった。

討議

  • 肺の巣状壊死には、インフルエンザウイルスの抗原は認められなかった。肺病変には全体的にサイトカインの影響がみられたが、巣状壊死もサイトカインによるものか、意見を伺いたい。
  • 細気管支内にMhpの抗原が多量に確認されたことから、Mhpの先行感染があったと考えてよいか。

診断

  • 組織診断:豚のMycoplasma hyopneumoniae抗原を伴う豚インフルエンザウイルス(H1N2)による壊死性細気管支炎および気管支間質性肺炎、肺の巣状壊死
  • 疾病診断: Mycoplasma hyopneumoniae感染を伴う豚インフルエンザ

364) 鶏の頭部皮膚における好酸性細胞質内封入体(ボリンゲル小体)を伴う有棘細胞の腫大と増生および化膿性皮膚炎 [鶏痘]

  • 提出者(所属): 水野 剛志(群馬県家畜衛生研究所)
  • 動物種: 鶏
  • 品種: ボリスブラウン
  • 性別: 雌
  • 年齢: 224日齢
  • 死・殺の別:鑑定殺
  • 解剖日時:2014年11月21日
  • 解剖場所:群馬県家畜衛生研究所

発生状況および臨床所見

採卵鶏6400羽を飼養する採卵鶏農場で、11月20日に顔面腫脹、沈鬱、食欲不振を呈する鶏がみられ、2羽が死亡した。翌21日には発症鶏ともに増加したため、発症鶏3羽について病性鑑定を実施した(提出症例はその内の1羽)。鶏痘ワクチンは導入元の農場で初生と60日齢に接種されていた。

病原検索

提出症例について、細菌学的検査では眼窩下洞粘膜からStaphylococcus aureusStaphylococcus hyicusが分離された。また、腎臓からS. aureusが、肺からS. hyicusが少量分離された。ウイルス学的検査は、気管スワブとクロアカスワブについて実施し、鳥インフルエンザ簡易検査およびウイルス分離検査はともに陰性であった。

剖検所見

沈鬱で開眼困難であり、頭部、頸部、胸部および総排泄腔周囲の皮膚において痂皮形成がみられた。内部所見では黄色卵胞は認められなかったが、諸臓器に著変はみられなかった。

組織所見(提出標本: 頭部皮膚)

頭部皮膚において有棘細胞の風船様の膨化を伴った増生がび漫性にみられた。有棘細胞の細胞質には、好酸性で微細顆粒状のものから上皮細胞核の大きさを超える大型のものまで、大小様々な類円形封入体(ボリンゲル小体)が多数形成されていた。また、角質層において偽好酸球を含む細胞退廃物の付着がみられ、病変部では全体に多数の球菌塊が認められた。これらの所見は、総排泄腔周囲の皮膚においても同様に認められた。
また、脾臓の莢組織周囲において線維素の析出がび漫性にみられ、心臓の心筋線維間にリンパ球の浸潤が散見された。その他の臓器に著変は認められなかった。

討議

鶏痘ワクチン接種鶏での発症原因や、死亡羽数増加の原因についてご討議願います。また、同様の事例を経験されている方がいらっしゃいましたら、ご意見をお願いします。

診断

  • 組織診断: 鶏の頭部皮膚における好酸性細胞質内封入体(ボリンゲル小体)を伴う有棘細胞の 腫大と増生および化膿性皮膚炎
  • 疾病診断: 鶏痘

365) 牛のProteus mirabilisによる壊死性化膿性腎盂腎炎 [牛のProteus mirabilisによる尿毒症]

  • 提出者(所属): 阿部 祥次(栃木県県央家畜保健衛生所)
  • 動物種: 牛
  • 品種: 黒毛和種
  • 性別: 去勢
  • 年齢: 20カ月齢
  • 死・殺の別:斃死(死後約4時間)
  • 解剖日時:2014年6月19日
  • 解剖場所:栃木県県北家畜保健衛生所

発生状況および臨床所見

黒毛和種約600頭を飼養する農場で、2014年6月19日に肥育牛1頭が左側横臥し、四肢の痙攣を呈して斃死した。当該牛は1マス5頭で飼養されており、同居牛を含め呼吸器症状や下痢等の症状はなく、斃死1時間前に給餌した際は異常を認めなかった。餌に興味は示したが食いつきは悪く、左後肢跛行が認められた。なお、治療歴はない。

血液生化学的検査

BUN:>140mg/dl、CRE:>24mg/dl(死後採血)。

病原検索

細菌学的検査で肝臓、脾臓、腎臓、肺および尿からProteus mirabilisが分離された。

剖検所見

腎臓は肥大および退色し、砂粒からピンポン玉大の結石が多数観察され、腎周囲脂肪に割を入れた際に強烈な尿臭を知覚した。尿管を切断した際に多量の赤紫色尿が噴出した。その他、多量の腹水貯留と肺水腫が認められた。

組織所見(提出標本: 腎臓)

尿細管間質は、髄質から皮質にかけて広範かつ重度に線維化し、尿細管の変性、萎縮が観察された。
皮質は、楔状又は放射状に多発性巣状から融合性の融解壊死が形成され、残存する糸球体はびまん性中等度から重度に萎縮していた。融解壊死は好中球で構成されており、内部の尿細管は拡張し、管腔内に桿菌塊や変性した細胞を含む好酸性のコロイド様物が充満していた。また、周囲の尿細管では、上皮細胞および管腔内に散発性から多発性に好酸性コロイド様物が観察された。融解壊死は髄質外帯外層に及び、内層では尿細管管腔内への好中球浸潤が観察され、髄質内帯はびまん性に線維化し、尿細管は概ね萎縮・消失していた。
観察された桿菌は、グラム陰性を示し、抗P.mirabilis免疫家兎血清(abcam)を用いた免疫染色で、菌塊に一致して多数の抗原が検出された。
その他、肝臓における小葉辺縁性の散在性巣状壊死、肺におけるびまん性重度のうっ血水腫、壊死性出血性化膿性膀胱炎、組織球性漿膜炎が観察された。

討議

P.mirabilisは尿石症を誘発、悪化させると考えられている。本症例では菌塊が多数観察され、病変も慢性と考えたが、雄であることから尿石症が先行していたと考えるべきか。また、症例報告は少ないようだが、典型的な病変像と考えてよろしいか。御教授願いたい。

診断

  • 組織診断: 牛のProteus mirabilisによる壊死性化膿性腎盂腎炎
  • 疾病診断: 牛のProteus mirabilisによる尿毒症

366) ニホンカモシカの大腸菌による肺胞壁毛細血管の硝子血栓形成、肺虫寄生による化膿性組織球性気管支肺炎 [ニホンカモシカの大腸菌による敗血症(DIC)、肺虫症]

  • 提出者(所属): 大泉 卓也(長野県松本家畜保健衛生所)
  • 動物種: カモシカ
  • 品種: ニホンカモシカ
  • 性別: 雄
  • 年齢: 不明(幼獣)
  • 死・殺の別:斃死
  • 解剖日時:2013年9月17日

発生状況および臨床所見

2013年8月17日に母親と思われる死亡したニホンカモシカと一緒にいるところを保護された。 9月10日に動物飼育施設へ引き取られた。9月11日から2日間下痢が続き、9月12日夕方より発熱、解熱剤を投与した。9月17日早朝に死亡を確認し、病性鑑定を実施した。

病原検索

細菌学検査では心臓、肺、肝臓、腎臓および脾臓から大腸菌が分離された。定量培養では十二指腸内容から大腸菌が1.6×109個/g検出され、Clostridium perfringensは検出されなかった。寄生虫検査では盲腸内容から虫卵は検出されなかった。

剖検所見

肺は左右後葉に赤色肝変化が認められた。気管腔内に泡沫液が認められた。その他、著変は認められなかった。

組織所見(提出標本: 肺)

肺では中等度のうっ血および出血、肺胞壁毛細血管に硝子血栓形成、グラム陰性桿菌塊が認められた。一部の気管支、細気管支および肺胞腔内に軽度の好中球、マクロファージ浸潤、線虫の成虫、仔虫および虫卵が少数認められた。赤色肝変化部では、高度のうっ血および出血、肺胞腔内に好中球およびマクロファージ浸潤、漿液の貯留、まれに多核巨細胞がみられ、線虫の仔虫および虫卵が中等数認められた。腎臓の糸球体毛細血管、肝臓の類洞にそれぞれ硝子血栓形成およびグラム陰性桿菌塊が認められた。大脳、心臓、脾臓においてもグラム陰性桿菌塊が確認され、抗Escherichia coli LPS家兎血清(動物衛生研究所)を用いた免疫組織化学的染色では菌塊が確認された各臓器で陽性反応が認められた。

討議

ニホンカモシカにおける肺虫感染はProtostrongylus shiozawaiによるものが多いとされているが、本症例にみられた虫体もP. shiozawaiと考えてよいか。また、この病変の形成機序についてご意見をお聞かせ下さい。

診断

  • 組織診断: ニホンカモシカの大腸菌による肺胞壁毛細血管の硝子血栓形成、肺虫寄生による化膿性組織球性気管支肺炎
  • 疾病診断: ニホンカモシカの大腸菌による敗血症(DIC)、肺虫症