花き研究所

花の大きさと形を決める仕組みを探る

担当者名:西島隆明・仁木智哉

なぜ花の大きさと形の研究か?

人が花を見て美しいと感動するとき、そして「これはバラの花だ」とか、「これはアサガオの花だな」と花の種類を見分けるとき、何を基準にしているのでしょうか? これには様々な要素が関わっていますが、最も基本的な要素は形と大きさだと考えられます。第1図を見てください。これは、カーネーションの野生種と現代の品種の花を比較したものですが、これを見て同じカーネーションだと即座に判断する人はほとんどいないのではないでしょうか? それほどにわれわれは、右側の花がカーネーションであるという印象を強く持っています。さらに、左側の花も清楚な美しさを持つものの、大部分の人は、右側の花の方をよりインパクトのある魅力的な花と感じるのではないでしょうか?

第1図:カーネーションの野生種(左)と現代品種(右)の花
図1 カーネーションの野生種(左)と現代品種(右)の花

ところで、両者の最大の違いは何でしょうか? それは、大きさと形であることが一目瞭然です。カーネーションの花の場合、野生種では直径1~2cmの一重咲き、対して現代の品種はほとんどが八重咲きで、直径8cmにも達する大輪の品種が数多くあります。園芸花きにおけるこのような花の形と大きさの変化は、キク、バラなど、他の主要な花きにも共通して見られます。このことを逆に言えば、花が大輪に、そして花形が装飾的に変化したものが主要な花きに発展したと考えられます。
ただし、このような花の大きさと形の変化、特に大輪化には長い年月を要するのが普通です。カーネーションの場合、図1の現代の品種のような大輪品種が生まれるまで、最も古い栽培の記録から、実に約1000年かかっています。
一方で、花の形や大きさに大した変化が起こらないまま、主要な地位を占めるに至っていない花きもたくさんあります。もし、花の形や大きさを短期間で改良できる方法が見つかれば、これらの品目の観賞性を高め、花の世界をより多様で豊かなものにできるでしょう。

どんな研究をしているか?

私たちは、植物ホルモン類が花の大きさと形に深く関わっていると考えています。これまでに、サイトカイニンあるいはその代謝阻害剤等をつぼみに与えることにより、ペチュニアで花が著しく大きくなることを見い出しました(図2)。この場合、ペチュニアの大輪品種でみられるのと同様に、個々の細胞が大きくなるのではなく、細胞数が増えることによって花が拡大します。

第2図:サイトカイニンおよびジベレリンによるペチュニアの花の拡大
図2 無処理(左) CPPU 3.2 µmol/l + GA3 100 µmol/l(右)
サイトカイニンおよびジベレリンによるペチュニアの花の拡大

そこで、ペチュニアの大輪品種において、サイトカイニンの生合成系、初期情報伝達系がどのように調節されているのかを調べました。その結果、予想に反して、大輪品種では、サイトカイニンを分解するサイトカイニン酸化酵素遺伝子(PhCKX1PhCKX2)の発現が高まることにより、内生サイトカイニンの濃度が低く保たれていることが分かりました(図3)。また、サイトカイニン初期情報伝達系遺伝子のうち、サイトカイニンシグナルを抑制する働きを持つタイプAレスポンスレギュレーター遺伝子(PhRR1PhRR2PhRR3)の発現が、大輪品種で高まっていることが分かりました(図3)。これらの結果から、ペチュニアの花の大きさは、サイトカイニンの生合成系、初期情報伝達系を通じた複雑なフィードバックループによって制御されていることが示唆されました。これらの知見は、花の大きさの制御に役立つことが期待されます。

ペチュニアの大輪化遺伝子によるサイトカイニン生合成系および初期情報伝達系の調節
図3 ペチュニアの大輪化遺伝子Grandiflora(分子レベルでの実体は未解明)による
サイトカイニン生合成系(緑の背景)および初期情報伝達系(橙の背景)の調節

サイトカイニンには、花を大きくする以外に、花形を変化させる作用もあります。私たちは、サイトカイニンの分解を阻害して植物体内にサイトカイニンを蓄積させるフォルクロルフェニュロン(CPPU)をつぼみに与えることにより、トレニアの花形が変わることを見い出しました(図4)。どの花形が生じるかは、処理するつぼみの発育ステージに依存して規則的に決まっています。このうち、八重の花のように見えるのは、園芸花きによく見られるように雄ずいが花弁化するのではなく、スイセンのラッパの部分のように、雄ずいの托葉に由来する副花冠が発達したものです。

第3図:サイトカイニン代謝阻害剤CPPUによってトレニアに生じる様々な花形
図4 サイトカイニン代謝阻害剤CPPUによってトレニアに生じる様々な花形

CPPU処理によってトレニアに発生する副花冠には、細長い形のもの(図4上段右)と、幅広い形のもの(図4下段中央)があります。この形の違いには、花の基本構造を決めている花器官ホメオティック遺伝子が関係していることが分かりました(図5)。幅広い副花冠では、花器官ホメオティック遺伝子の発現が花弁型、つまり、クラスA遺伝子(TfSQUA)とクラスB遺伝子(TfGLOTfDEF)の発現が高い状態になっています。これに対して、細長い副花冠では、花器官ホメオティック遺伝子の発現が花弁と雄ずいの中間型、つまり、クラスB遺伝子の発現が高く、クラスA遺伝子とクラスC遺伝子(TfPLETfFAR)の発現が低い状態で拮抗しています。細長い副花冠は、肉眼で見る限りは細長い花弁のように見えますが、表皮細胞の形や維管束の配列パターンを詳しく調べると、雄ずいの特徴も併せ持っています。このような特徴は、ホメオティック遺伝子の発現パターンによってもたらされると考えられます。園芸用花きには、様々な花弁や副花冠の形があり、その調節機構の解明、ひいては形の制御に、これらの知見が役立つことが期待されます。

トレニアの副花冠ならびに基本的な花器官の形成に対する花器官ホメオティック遺伝子の発現パターンの影響
図5 トレニアの副花冠ならびに基本的な花器官の形成に対する花器官ホメオティック遺伝子の発現パターンの影響

以上のような知見は、ペチュニア、トレニアにとどまらず、幅広い花き類に応用できる普遍的なものです。今後さらに、植物ホルモンの生合成、情報伝達の観点から研究を進めることにより、様々な花きに応用可能な、花の大きさと形をより魅力的にする育種技術を生み出したいと考えています。

筑波大学連係大学院

研究代表者の西島は、筑波大学連係大学院(先端農業技術科学専攻)を併任しています。この大学院に入学すると、花き研究所で指導を受けながら研究を行い、学位の取得を目指します。また、社会人の方の場合、勤務先で研究を行いながら学位取得を目指すことも可能です。詳しいことは、農研機構連係大学院を参照してください。

研究発表

原著論文・総説

  • Niki, T., M. Hirai, T. Niki, A. Kanno and T. Nishijima. 2012. Role of floral homeotic genes in the morphology of forchlorfenuron-induced paracorollas in Torenia fournieri Lind. J. Japan. Soc. Hort. Sci. 81 (in press).
  • Nishijima, T. 2012. Large flower size: Molecular basis and role of cytokinin. J. Japan. Soc. Hort. Sci. 81 (in press).
  • Nishijima, T., T. Niki and T. Niki. 2011a. Corolla of the Large-flowered petunia (Petunia hybrida Vilm.) cultivars exhibit low endogenous cytokinin concentration through enhanced expression of the genes encoding cytokinin oxidases. J. Japan. Soc. Hort. Sci. 80: 334-342.
  • Nishijima, T., T. Niki and T. Niki. 2011b. The large-flowered petunia (Petunia hybrida Vilm.) genotype promotes expressions of type-A response regulator and cytokinin receptor genes like cytokinin response J. Japan. Soc. Hort. Sci. 80: 343-350.
  • Honda, C., S. Kusaba, T. Nishijima and T. Moriguchi. 2011. Transformation of kiwifruit using the ipt gene alters tree architecture. Plant Cell Tiss. Organ Cult. 107: 45-53.
  • Sasaki, K., R. Aida, H. Yamaguchi, M. Shikata, T. Niki, T. Nishijima, N. Ohtsubo. 2010. Functional divergence within class B MADS-box genes TfGLO and TfDEF in Torenia fournieri Lind. Mol. Genet. Genomics. 284: 399-414.
  • Yamaguchi, H., T. Niki, T. Niki and T. Nishijima. 2009. Morphological Property and Role of Homeotic Genes in Paracorolla Development of Antirrhinum majus. J. Jap. Soc. Hort. Sci. 79: 192-199.
  • Narumi, T., Aida, R., Niki, T., Nishijima, T., Mitsuda, N., Hiratsu, K., Ohme-Takagi, M., Ohtsubo, N. 2008. Chimeric AGAMOUS repressor induces serrated petal phenotype in Torenia fournieri similar to that induced by cytokinin application. Plant Biotechnol. 25: 45-54.
  • Sasaki, K., Aida, R., Niki, T., Yamaguchi, H., Narumi, T., Nishijima, T., Hayashi, Y., Ryuto, H., Fukunishi, N., Abe, T., Ohtsubo, N. 2008. High-efficiency improvement of transgenic torenia flowers by ion beam irradiation. Plant Biotechnol. 25: 81-90.
  • Nishijima, T., H. Miyaki, K. Sasaki and T. Okazawa. 2006. Cultivar and anatomical analysis of corolla enlargement of petunia (Petunia hybrida Vilm.) by cytokinin application. Scientia Horticulturae 111: 49-55.
  • Nishijima, T. and K. Shima. 2006. Change in flower morphology of Torenia fournieri Lind. induced by forchlorfenuron application. Scientia Horticulturae 109: 254-261.

学会発表・講演(2009年以降のみ表示)

  • 西島隆明・仁木智哉・仁木朋子(2012)ペチュニアの花冠の発達過程におけるAINTEGUMENTAの発現と花冠の大きさ. 園学研11(別1): 印刷中.
  • 仁木智哉・平井雅代・菅野明・仁木朋子・西島隆明(2012)トレニアの副花冠におけるホメオティック遺伝子の発現パターンの決定要因. 園学研11(別1): 印刷中.
  • 西島隆明・森田裕将・佐々木克友・中山真義・山口博康・大坪憲弘・仁木智哉・仁木朋子(2011)トレニアにおける易変性変異体の誘発とその形質. 園学研10(別1): 218.
  • 仁木智哉・平井雅代・菅野明・仁木朋子・西島隆明(2011)CPPU処理したトレニアで発生する副花冠の形態的特徴とホメオティック遺伝子の発現パターンの解析. 園学研10(別1): 217.
  • 西島隆明(2010)植物生理活性物質を利用して花の魅力を高める.農芸化学会、園芸学会共催シンポジウム講演. 日本農芸化学会大会講演要旨集 : シ40.
  • 西島隆明・仁木智哉・仁木朋子(2010)ペチュニアの大輪品種における内生サイトカイニン濃度の低下の要因. 園学研9(別2): 268.
  • 西島隆明(2010)花の大きさと形を決める仕組みを探る. 静岡県花き育種推進セミナー講演. 
  • 西島隆明・仁木朋子・仁木智哉(2009)ペチュニアの大輪化におけるサイトカイニン受容体の役割. 園学研8(別2): 291.
  • 仁木智哉・間竜太郎・Taximaimaiti Mahesumu・仁木朋子・西島隆明(2009)サイトカイニン関連遺伝子を導入して花形の変化したトレニアの解析. 園学研8(別2): 289.
  • 西島隆明・仁木朋子・仁木智哉(2009)ペチュニアの大輪品種におけるサイトカイニン初期情報伝達系遺伝子の構造・発現の特徴. 園学研8(別1): 248.
  • 福田直子・牛尾亜由子・西島隆明(2009)短日低照度条件でのトルコギキョウのブラスチングに対するサイトカイニン剤の効果. 園学研8(別2): 342.
  • 西島隆明(2009)花の大きさと形を決める仕組みを探る. 関東地域花き普及振興協議会特別講演会講演.

著書・機関誌

  • 西島隆明. 2007. 花形. 農業技術体系花卉編第5巻「育種/苗生産・バイテク活用」.  追録第9号: 37-43.
  • 仁木智哉. 2007. 草型. 農業技術体系花卉編第5巻「育種/苗生産・バイテク活用」. 追録第9号: 51-54.
  • 西島隆明. 2007. ホルクロルフェニュロン(CPPU)処理によるトレニアの花の形態変化. 植調 41(4) : 11-20.
  • 西島隆明. 2007. サイトカイニンはペチュニアの花を拡大させる作用を持つ. 農園 82(7) : 867-872.