果樹研究所

一押し旬の話題

2015年8月13日

青い果実

ネオマスカット
「ネオマスカット」

ブドウの品種で、「ネオマスカット」(以下、ネオマス)という品種が、かつて世の中に出回った。
今では、ほとんど見かけることがなくなったが、私が果樹試験場に就職した1970年代後半には、普通に市場に流通していた。研究室の先輩から、「完熟ネオマスは美味しいぞ」と言われて、試験材料としてポット栽培していたネオマスだったが、その美味しさを堪能した。
農林水産省の統計(平成24年度特産果樹生産動態等調査)によると、今でも全国で46ha栽培されており、最も多いのが山梨県の28haだ。

この品種は、岡山県の広田氏が、「マスカット・オブ・アレキサンドリア」(以下、アレキ)×「甲州三尺」の交雑で育成した品種であり、1932年に世の中に送り出された。
果粒の大きさは、今、人気の「シャインマスカット」(以下、シャイン)より小ぶりだが、果皮は黄緑色で完熟すると乳黄白色になる。果実は、甘くてマスカット香があり、肉質と風味がアレキに似ている。ヨーロッパブドウに属するが、アレキと違い露地栽培が可能なことから、アレキより栽培しやすいとして普及が期待された品種だ。

果物の品種は、最初に食べた時の印象が大事だ。
モモ、リンゴ、ウンシュウミカンなど、最近は非破壊光センサーで糖度保証されている果実も出回っているが、全ての果物・果実が光センサーを通っているわけではなく、たまに低糖高酸の果実にあたることがある。
その品種の味を知っていれば、「今回は、外れ(はずれ)だ」とは思うものの、その品種をまた購入することに抵抗感はない。しかし、その品種を初めて買って外れの果実にあたった場合は、この品種はこんなものだとの思い込みが心に残り、果実売り場でその品種を見ても、もう手にすることはない。

シャインマスカット
「シャインマスカット」

ネオマスを早取りすると、外観は綺麗だが、当然、品種本来の味とはなっておらず、味はのっていない。そのような果実もネオマスとして出回ったため、「スイマス(酸いマス)」というありがたくない名前で呼ばれたりして、消費者が離れていってしまった。低品質果実の流通が、品種本来の評価を下げてしまった例である。
シャインには、この轍を踏んで欲しくない。
産地では、シャインの出荷に一定の基準を設け、低品質な果実が出回らないように規制していると聞いているが、年々生産量が増えている現状を考えると、早出しの果実が出回らないという保証はない。
生産者の皆様には、「消費者の期待を裏切らない果実を出荷して下さい。」とお願いしたい。
消費者の皆様には、「運悪く美味しくないシャインを購入しても、それがシャインの味だと思わず、次の出会いを期待して下さい。」とお願いしたい。

果皮が緑色の果物には、青の冠が付く。
代表的なのは、ニホンナシであり、幸水、豊水が赤ナシと称されるに対し、二十世紀は青ナシと称される。このほか、青リンゴ、青ウメ、青ユズなども普通に使われる。緑が青と呼ばれることは、ほかにも多々あり、青菜や青ジソ、青葉などがあるし、信号も青信号だ。
また、青は、中国の五行思想では、季節でいえば春に割り当てられる。そこから、青春という言葉が生まれ、これから萌え出(い)ずる若くて未熟な時期を示すようになった。青には、このような意味もある。

今回のタイトルを見て、私と同年代の方なら山口百恵さんの『青い果実』を思い浮かべた方がいるかもしれない。「あなたが望むなら・・・」で始まるあの曲だ。 自分の妹と同い年の少女が歌うこの曲を聴いて、どきどきしたことを覚えている。
若いということはやっぱりどこか一途で未熟なことで、後先見ずに大胆なことをしても許されたりして・・・。

青春の未熟さは許されるとしても、未熟な果実はいただけない。