果樹研究所

一押し旬の話題

2015年10月19日

カラムナーリンゴ


カラムナーリンゴ
「カラムナーリンゴ」

自然界では、突然変異が一定の頻度で起こる。突然変異とは、本来の遺伝では生じ得ない異なった形質が現れることであり、その仕組みはいろいろある。私が学生の頃は、おおよそ1/100万の確率で突然変異が生じると教わった。
この変異は、いろいろな形質で起こりいろんな方向に生じるが(この場合の方向とは、人間にとっての有用なものも無用なものも不要なものも全て生じるという意味)、人類はそれらの変異のなかから自分たちにとって有用な変異を選び出し、積極的に利用してきた。果樹で言えば、元の品種に比べ、熟期が早くなった、糖度が上がった、着色が良くなったなどの変異は重宝された。その変異が枝全体に見られた場合は『枝変わり』と呼ばれ、接ぎ木により維持・増殖されてきた。

リンゴでも、いろいろな枝変わりが見つかっており、例えば「ふじ」では着色が良くなったものや早生になったものが多数見つかっており、品種として登録されている。早生化したいろいろな枝変わり品種は、早生ふじと称されて販売されていることが多い。
樹姿でも、枝垂れ姓などの変わりものが見つかっている。1960年代にカナダで見つかった、『カラムナー(columnar)タイプ』と呼ばれる円筒形の樹形を示す変異は、なかでも特徴的な樹形を示す。枝が横に広がらずにしかも節間(葉と葉の間の長さ)が短く余り伸びないため、単純な樹形となることから、せん定や収穫が容易にでき、省力的な栽培が可能になる。
この変異は、1遺伝子支配の遺伝であり、カラムナー性が通常の樹形に対して優性を示す。つまり、カラムナー性のリンゴと通常型のリンゴを交雑すれば、理論的にはカラムナー性の系統が一定の確率(100%または50%)でその子供に出現する(学生の時に習ったメンデルの遺伝を思い出して下さい)。
カラムナータイプの変異が見つかった品種は、「McIntosh(マッキントッシュ)」(カナダ原産であり、明治時代に日本に導入されて「旭」と呼ばれた)であり、この枝変わりは、「Wijcik(ウィジック)」と名付けられた。

しかし、「ウィジック」の果実は「旭」と同じであることから、日本の消費者がリンゴ果実に求める基準に比べると果実品質が劣り、その改良が必要であった。農研機構果樹研究所(以下、果樹研)では、「ウィジック」の後代4代目で、ようやく実用品種並みの果実品質を備えた系統を選抜することができた。
この系統は、今年度から系統適応性検定試験に供せられ、リンゴ生産県の公設試験研究機関で試作してもらっている。関係者の間で「系適」と呼ばれる「系統適応性検定試験」とは、新品種候補の系統を全国のいろいろな生産環境で試作してもらい、その系統が品種となりうるかどうかを判定するシステムである。
樹種により、参画する都道府県の数は異なるが、リンゴでは北海道および東北・関東などの13県がこの試験に参画している。


カラムナーリンゴ
「カラムナーリンゴ」

皮ごと食べられるブドウ「シャインマスカット」、渋皮が剥けるニホングリ「ぽろたん」、赤果肉のウメ「露茜」など、果樹研で育成した品種のほとんどがこのステップを経ており、都道府県の評価で優良な系統と認められた結果、品種登録に至っている。
上述のように、リンゴのカラムナータイプの系統も、今年から系適が始まった。この系統が、系適でその有用性が評価され、品種登録できることを期待している。 なお、果樹研では、カラムナー性選抜のためのDNAマーカーを開発し(2009成果情報および2013成果情報)、カラムナータイプリンゴの育成の効率化を図っている。

果物を食べると、アレルギー症状の現れる人がいる。リンゴも例外ではなく、リンゴを食べると、唇や喉(のど)が痒(かゆ)くなる口腔アレルギー症候群を発症する人がいる。
先日、果樹研主催で開催した果樹バイテク研究会で、秋田県立大学の先生から、リンゴのアレルゲン(アレルギーの原因となる物質)についての発表が、あった。その発表によると、日本の栽培リンゴ17品種のアレルゲン遺伝子型を解析した結果、その遺伝子型に基づき交雑親を選択すれば、低アレルゲンのリンゴ開発が可能というものだった。
あんなに美味しいリンゴが、アレルギーのため味わうことができないなんて、残念だと思う。低アレルゲンリンゴを開発し、そのような人達にもリンゴを味わってもらいたい。低アレルゲンリンゴ開発への道が拓けたことは、喜ばしいことだ。