果樹研究所

一押し旬の話題

2015年11月16日

口の中でとろけるあの食感

私は、秋田生まれなので、子供の時からセイヨウナシ(以下、洋梨)は、身近な果物として周りにあった。その頃食べていたのは、たぶん、「バートレット」だっだと思うが、汁を垂らしながら皮を剥いて、手を汚して食べていた記憶。
農林水産省の統計では、「バートレット」は平成24年度の栽培面積全国3位(93.5ha)で、まだまだ健在だった。ちなみに、第1位は「ラ・フランス」(1028.9ha)、第2位は「ル・レクチェ」(134.0ha)だった。

多様な形と色の洋梨
多様な形と色の洋梨

先日、第16回西洋なしフォーラム(主催:西洋なしフォーラム実行委員会)が大阪で開催された。このフォーラムは、洋梨に惚れ込んだ人達がボランティアで運営しており、実行委員会のメンバーは、大学の先生、果樹研や公設試験研究機関の研究者、流通・販売関係者、生産者、果物に詳しい野菜ソムリエの方など多彩な顔ぶれだ。共通しているのは、みんな洋梨大好き人間である。
特定の果樹について、情報交換の場をボランティア運営でこのように全国規模で開催している事例は、寡聞(かぶん)にしてほかに知らない。洋梨について何時間でも熱く語る人達がいて、その人達の情熱が洋梨の生産を牽引する。
私は、今年で4回目の参加となるが、毎年テーマ・趣向を変えて開催する実行委員会の企画と実行力には、まったくもって感謝するしかない。

今年は、第16回目にして初めての関西圏での開催だった。コールドチェーンの発達で、日本全国どこでも同じ食材が入手できるようになってはいるものの、それでも洋梨は、東日本に比べ西日本では馴染みの薄い果物ではないだろうか。
フォーラムでの講演によると、大阪での入荷は自分が思っていたよりも多くて、果物では11月で6位、12月で7位の入荷量とのことだった。しかし、まだまだ大阪の人には馴染みが薄く、認知度アップが最重要課題とのこと。
西日本の方々にも、もっと洋梨を食べてもらいたい。

洋梨の醍醐味、それはなんと言ってもあの果肉の滑らかさに尽きると思う。口の中でとろける食感。それと、口内に広がる芳醇な香り。ニホンナシと違い追熟が必要なので、追熟のタイミングにより食べ頃ドンピシャの果実に出会えないこともままある。それでも、やっぱり洋梨を食べたい、と思わせる魅力があの果実にはあるような気がする。
もっとも、かって小欄で「硬いモモが好きな人も意外と多いと聞く」と書いたが、洋梨でも同様の嗜好を持つ人がいそうな気がする。上記の好みは、人それぞれということになるだろうが・・・。

今、我が国で流通している洋梨の品種は、ほとんどが昔に海外から日本に導入された古い品種だ(「果樹園芸大辞典」(養賢堂、1984)によると、早いものでは明治初年に導入されている)。
それでは、我が国で育成された品種はないかというと、農林水産省品種登録データベースによると、11品種が品種登録されていた。内訳は、公設試や法人による登録が4品種、民間育種が2品種、海外育成品種が5品種となっている。また、種苗法施行前にも、山形県が1品種を育成している。
果樹研では洋ナシの品種育成を行っていないが、農研機構では北海道農業研究センターが早生で大果の「ジェイドスイート」 を、今年の3月に品種登録した。 この品種は、甘みが多く極多汁で食味が優れる。交配親は、「マルゲリット・マリーラ」と「ブランディワイン」である。前述した「バートレット」は早生の主要品種であるが、「バートレット」と比べ糖度が2~3%高く、北海道が主産地の「ブランディワイン」と比べ果実が大きいという特徴を持つ。

「ジェイドスイート」の果実
「ジェイドスイート」の果実
 

「ジェイドスイート」の収穫・追熟時の果皮色の変化 左:追熟前(収穫時)、中央:適熟、右:やや過熟
「ジェイドスイート」の収穫・追熟時の果皮色の変化
左:追熟前(収穫時)、中央:適熟、右:やや過熟

小欄で、本当に美味しいと思った果実に出会えた時の感想を「言葉にならない至福の時」と表現したことがあったが、過去に何回かそう感じた事があった。もちろん、その感覚というのは、そのときの体調やらお腹(なか)の空(す)き具合やら精神状態やら諸々(もろもろ)の要因が絡むので、たとえ同じ果実を食べたとしてもその時々で美味しさの感じ方は違ってしまう。そのため、あの感動がなかなか再現せず、大部分は、単なる「美味しい」で終わってしまう。
「言葉にならない至福の時」を一度経験してしまうと、その時に心に響いた想い(感動から来る高揚感)とその味が、記憶に刻(きざ)まれてしまう。あの味にもう一度出会いたい、という希求心がいつもある。どうしても、あの時の味と比べてしまう。
なかなか会えないからこその募(つの)る思いが、待ち侘(わ)びる心を大きくする。何となく、それは男女の仲にも似ているような・・。

洋梨を使用したLEDランタン
洋梨を使用したLEDランタン

どの果物・品種にその感覚を覚えるかは人それぞれだろうが、私で言えば、リンゴのあの品種とマンゴーとそして洋梨だった。
盛岡に単身赴任でいたことがあり、産直で買った果物を朝食でよく食べていた。その時に、「言葉にならない至福の時」を感じる洋梨に出会ったことがある。あの時は、洋梨の品種もあまり知らず、買う時に品種名を見はするもののただ食べていただけなので、今となってはどの品種だったかは覚えていない。もっと品種の勉強をしておくべきだったと、今頃になってから反省している。