果樹研究所

一押し旬の話題

2015年12月18日

大きい果実をどう思いますか

この前、愛媛産のカキ「太天」を食べる機会があった。優に600gを超える大きなカキだった(ちなみに、「富有」は300g前後)。篤農家が栽培すると、こんなに大きくなるんだとつい感心してしまったが、それほどまでに見栄えがする大きい果実だった。フルーツキャップに大事に包まれ、化粧箱の中で3個の大きいカキが仕切り板で綺麗に収納されている姿は、見事というほかない。

カキ   「太天」
カキ   「太天」

「太天」は、果樹研が育成し、2009年に品種登録した品種だ。大果のカキということがセールスポイントの一つである。「太天」は、「黒熊」✕「太秋」の交雑で育成された品種であり、同じ組み合わせで「太月」も同年に品種登録されている。
「太天」は、「富有」とほぼ同時期に成熟する晩生の渋ガキで、大果で(果樹研のデータでは500g弱)肉質が軟らかく、すこぶる多汁で食味が優れている。収量性が高く、10aあたり3t以上の生産が見込まれる。
また、「太月」は、「平核無」とほぼ同時期に成熟する中生の渋ガキで、大果(「太天」より少し小ぶりで果樹研のデータでは450g弱)で肉質が軟らかく、多汁で食味が優れている。単為結果性(受精しなくとも果実が発達する性質)があり、結実は安定しており栽培しやすい。

昨年の小欄で紹介したように、甘柿は枝変わりを含めても20品種にも満たない。それらを親に使って甘柿の品種改良を進めると、近交弱勢という現象が生じる。近交弱勢とは、「近親交配により個体の近交度が高まると生物としての適応性が低下し、繁殖性、強健性、発育性などの能力が低下する現象」のことをいう(農業技術事典(NAROPEDIA)、平成18年3月、農山漁村文化協会)。
つまり、特定の品種やその血を引く後代を交雑親として多用すると、その後代では遺伝的な均一性(近交度)が高くなる。その結果、樹勢が弱くなり、生物としてはマイナスの現象が現れてくる(自植性の作物はその限りではありませんが・・)。その近交弱勢を避けるためには、新たな血の導入が必要であり、渋ガキの「黒熊」を交雑の片親に使って樹勢の強いカキの品種を育成した。
「太天」、「太月」ともに、片親は甘柿の「太秋」であるので、甘柿の遺伝子も持っており、「太天」、「太月」に甘柿を交配すれば、その子供には一定の確率で甘柿が生じる。
近交弱勢は、他の果樹でも生じている。例えば、ニホンナシでは軟らかい肉質への改良を進めるため、「二十世紀」の血を受け継ぐ品種・系統が親に使われることが多い。そのため、同様の現象が現れている。

カキ   「太月」
カキ   「太月」

果樹研では、平成25年11月に『カキ新品種開発に向けた育種戦略と新品種「太天」の紹介』をテーマに、フルーツセミナーを開催した。
そのアンケート結果によると、「太天」について言えば「大きさにインパクトある(ジューシ果肉色きれい.柔らかめの果肉に好感もてる)」、「大きさにビックリ!」という感想や、「家族2人で食べるには大きすぎる」、「美味しいが、少し大きすぎか・・?」という感想が寄せられている。

大きい果実を、どう思いますか?
流通関係の人と話すと、大きい果実は魅力的だとの声を聞くことが多い。それは、果実が今でも贈答用として重宝されていることの証(あかし)だと思う。贈答には、どうしても大きくて見栄えのする果実が好まれる。
日本人の心に根付いている進物(しんもつ)の文化。各種お祝いやお中元・お歳暮に見られる、他者への祝意や感謝の心。季節の折々の果物を贈るという行為も、当然その範疇にある。

おすそ分け。
他者からいただいた品物を、近所の人や知人に渡すことは、日常生活ではままあることである。
このおすそ分け行為を果物販売に積極的に活用すべき、と農研機構東北農業研究センターの研究者が提唱している。それは、消費者調査の中で明らかになった「おすそわけ行為の試食つきクチコミ効果」に着目し、商品の特徴や生産者の連絡先などの情報を記載した「おすそわけ袋」を果実の箱に同封し、おすそ分けにはその「おすそわけ袋」を利用してもらうというやり方だ。これだと、おすそ分けされた人が、その果物を美味しいと思えば、今までなら接点のなかったその生産者に、直接注文することができる。
おすそ分けが海外でどの程度行われているかわからないが、少なくとも日本では普通に行われている。直販を行っている生産者の方には、この「おすそわけ袋」の活用をお勧めする。また、美味しい果物を箱でいただいたのなら、是非、その果物をおすそ分けして、みんなでその果実の美味しさを共有していただきたい。
「おすそわけ袋」の詳細は、こちら

ちなみに、ネットでカキ販売のページをみると、「太天」、「太月」の親が「黒熊」ではなく「黒龍」や「黒能」との表記があった。品種を育成した機関としては、品種の親は間違って欲しくないと思う。情報は、正しく伝えていただきたい。