果樹研究所

一押し旬の話題

2016年3月16日

国産果実の優位性

   「JATAFFジャーナル 2016 Vol.4 No.3」(農林水産・食品産業技術振興協会(JATAFF))に、下記の拙文が掲載された。

 

   国産果実の優位性


「ふじ」の原木
リンゴ「ふじ」 の原木
(果樹研究所リンゴ研究拠点:盛岡市)

   私は信じている、生食用果実ではこれからも国産果実が優位性を保ち続けることを。

   我が国の果実は、世界に誇れる最上級の品質だと言い切っていいと思っている。それは、ひとえに、おいしい果実を求める消費者のニーズがあり、それに応える我が国の品種改良能力の優秀性と果樹生産農家の高品質へのこだわりによる努力からくるものだろうと思う。
    かって、1年間過ごしたカリフォルニアは、冬以外はずっと乾期で春から秋までずっと晴天続きだった。こんな環境で果樹を栽培できるな らば、光合成がしっかり行われるため糖度はのるし、湿度が低いため病気の発生も少ない。だから、ある程度粗放的な栽培をしても、それなりの甘さを持った果実が生産できる。
   それに対し、我が国は、果樹生産にとって決してプラスとはならない温暖多雨の気候であり、そのことが高品質果実生産を追求する生産者の工夫・努力を引き出してきた。それに加え、消費者の肥えた舌が新品種に求める食味のハードルを押し上げた結果、世界に類を見ない多様な高品質果実が市場に溢れるようになっている。

   市場に溢れる四季折々の国産果実。その果実の自給率が、いかほどか。
   果樹をめぐる情勢(2015(平成27)年12月、農林水産省)によると、果実の国内需要のうち、国産品の割合は38%で、残りの62%は輸入品となっている(2012(平成24)年の推計)。つまり、果実の自給率は4割にも満たないのが現状である。
   果実需給の38%を占める国産果実のほとんどは、生鮮果実で販売されており(89%)、残りが果汁等加工品である。これに対し、輸入果実では、オレンジやリンゴ等の果汁等加工品が多く(63%)、残りが生鮮果実となっている。輸入生鮮果実では、バナナが多く(輸入生鮮果実 のうちの59%)、次いで、パインアップル、グレープフルーツ、オレンジの順となっている。


カンキツ「清見(きよみ)」
カンキツ「清見(きよみ)」

   今回のTPP大筋合意により、果樹も輸入関税の撤廃が決まった。品目により即時撤廃かあるいは段階的撤廃かの違いはあるものの、当然、今後の果樹産業に影響を及ぼさないわけがない。政府の試算によると、生産額はカンキツ類で21~42億円、リンゴで3~6億円の減少となっている。また,和歌山県が独自に試算した結果では、県のカンキツ産出額が35億円の減少となっている(詳しくは、農林水産省HP 及び 和歌山県HP を参照)。

   その影響を考えてみると、低価格の海外産果実の輸入が増えることによって、果汁等加工品はさておき生鮮果実については、消費者の購入パターンの2極化が今以上に大きくなってくるような気がする。つまり、関税の撤廃により、より低価格な海外産果実の店頭販売の増加が想定されるなかで、それでも高品質な国産果実を引き続き購入する層と、経済的理由等により輸入果実を購入するする層との、分離がより鮮明になってくるような気がする。ただ、それで国産果実購入層から輸入果実購入層へのシフトが増えてしまうようでは、困る。その想いが、冒頭の私の文章につながる。
   思い出すのは、確か、1990年代半ば頃だったと思うが、アメリカのリンゴが輸入解禁になったことだ。それなりの量のアメリカリンゴが輸入され、一時期は市場に並んだ。しかし、数年のうちに、アメリカリンゴは市場から消え、今でも見ることがない。なぜそうなったかの理由は定かでないが、たぶん、食味の違いが大きいのではないかと思っている。いくら価格的に優位でも、食味の劣るリンゴが我が国の市場を席巻することはない、とその時思った。
   また、消費者は、安全・安心の観点から国産農産物への指向は強い。最近は、外食や加工品でも、国産を前面に出して売り出しているケースも多い。それが、消費者へのアピールに有効だからだろう。


ブドウ「シャインマスカット」
ブドウ「シャインマスカット」

   消費者の皆さまには、是非とも国産果実への愛着を持っていただきたい。それが、我が国の果実自給率向上への貢献にもつながるからだ。そのためには、国産果実の購入に際して、あま り価格的な負担感を感じることがない、いわゆるカジュアル・フルーツとなるような価格設定が必要だ。しかし、果樹は手作業が多く、労働集約型の農業であり、高品質化を目指せば目指すほど手を掛けなければならない。果樹の経営を成り立たせるためには、それに見合う価格が必要なことも事実である。
   そのギャップを埋めるのが、技術開発ということになる。果樹栽培における技術開発は、低コスト・省力・軽労が永遠のテーマであり、それに向けた技術もいろいろ開発されている。冒頭に、「我が国の品種改良能力の優秀性」と書いたが、消費者や生産者にとって魅力ある新品種の育成も重要である。例えば、当方で育成したブドウの「シャインマスカット」は、消費者にとっては食べやすいこと(皮ごと食べられる、種なし)と美味しいこと(ヨーロッパブドウのパリパリした肉質で、マスカット香がある)、かつ、生産者にとっては栽培しやすく(病気に強く、花芽の形成も容易)高価格での取引ができること(出荷量は年々増えているが、高価格を維持)ことが特徴だ。つまり、両者のどちらにも魅力的な品種であり、生産量がここ数年で一気に増えている。国産果実の優位性を保つには、このような品種を、これからも開発していかなければならない。


カキ「太天」
カキ「太天(たいてん)」

   「柿が赤くなると医者が青くなる」と言われるように、昔から果物が体にいいのは、経験的に認識されてきた。果物は嗜好品ではなく、毎日の食生活に欠くことのできない健康維持に必要な品であることを、国民の皆さまに意識していただきたい。そのための科学的根拠も、ミカンでは明らかになっている。皆さん、毎日ミカン3個を食べて、健康を維持しましょう。

 

 

- - - - - -   「JATAFFジャーナル 2016 Vol.4 No.3」より転載  - - - - - - 

 

心に浮かんでくる果物へのいろんな想いを、思いつくまま書き散らかした感のある私の文章に、この2年間お付き合いいただき、ありがとうございます。
小生は、この3月いっぱいで定年退職となりますが、これからも、どんどん進化を遂げるであろう日本の果物を、いつまでもご贔屓(ひいき)あれ。

 ( 農研機構果樹研究所    所長   松田  長生 )