北海道農業研究センター

所長室

平成25年年頭の挨拶

年頭の挨拶

謹んで初春のご挨拶を申し上げます。

おかげ様で北海道の昨年の作柄は久しぶりに、甜菜の糖収量が秋の高温で低かった以外は、おしなべて良いものでした。ただ、春先の大雪による春作業の遅れや観測始まって以来という残暑、そして12月には一転して大雪と寒波と、めまぐるしく気象が変動しました。世界的に見ても合衆国の50年来といわれる大干ばつの発生など、このところ気象変動が激しくなっていくというIPCC4次報告を思い起こさせるような年が続いています。

長期的に見て国際的に食料需給がタイトになりつつある中で、このような攪乱要因は、食料供給の不安定性をさらに高めるものです。FAOでは昨年も食料価格が高騰していることを報じていますが、2008年の食料価格暴騰が一過性のものではなかったことを物語るものでしょう。わが国においても食料供給力を確保していくことの重要性が再確認されるところです。

ただ、わが国農業の置かれている状況はあいかわらず厳しいものです。貿易自由化の流れは依然として強く、その与える影響は食料基地である北海道にとってとても大きいものです。

このような状況の中で北海道農業研究センターは、地域農業を革新する先導的な技術開発をミッションとしています。もちろん研究機関ですから、その基礎にはサイエンスの追求があります。ただわれわれに与えられているミッションはそれに止まるものではありません。イノベーティブであることが必要です。そのためにはこれまで想定されていなかったような技術と技術、技術とシステムの結合が必要であると考えます。

われわれ北海道農業研究センターでもそのようなイノベーションにつながるような研究の成果が現れてきています。昨年を振り返ってみますと、濃厚飼料依存というわが国の酪農の体質を転換する端緒となるイアーコーンサイレージの研究プロジェクトが農研機構内の年間の優れた成果のひとつとしてNARO RESEARCH PRIZE 2012に選定されました。また、今後の農法革新のキーテクノロジーの一つと期待される情報関連技術については、大規模IT農業プロジェクトで提案したトラクタと作業機間の通信方式をもとに、日本農業機械工業会の規格が制定され、ITの農業現場利用の基盤が整備されつつあると考えます。さらに、国産小麦生産を飛躍させる品種と期待される超強力小麦品種「ゆめちから」は順調に普及しており、育成への貢献で小麦育種の担当者が農林水産省の若手農林水産研究者表彰を受けました。ただ、地域農業の革新を図る上ではわれわれはさらに進んでいかなければなりません。本年も研究所が一丸となって取り組んでいく所存でございます。

農業生産においては従来、研究機関や指導機関が技術開発の役割を担っている部分が多かったと思います。しかし、真にイノベーティブな技術開発に向けては営農現場やマーケットの視点からユースラディカルな技術を開発していく必要があります。今日では企業的な発想を持つ農業生産者も増えていますし、多くの企業が農業との連携を模索しています。北海道農業研究センターは農家の皆さんをはじめ、関係研究機関や関連企業、行政や指導機関の皆さんの紐帯となり、一体となってイノベータの役割を果たしていく所存ですので、引き続き、格段のご支援・ご指導をお願いし、年頭のあいさつとさせていただきます。

平成25年1月
(独)農業・食品産業技術総合研究機構
北海道農業研究センター所長
天野 哲郎