農業機械研究部門

緊プロ開発機のご紹介

自脱コンバインの手こぎ部の緊急即時停止装置

(2013年発表)

手こぎ作業時の巻き込まれによる重傷事故を低減

  • フィードチェーンを即時停止、挟まれた手を直ちに解放
  • 手こぎモードで余裕を持って安心作業

1.利用のメリット

本開発装置を搭載したコンバインならば、手こぎ作業中に万が一手が挟まれた場合でも、緊急停止ボタンを押すことで、フィードチェーンが従来よりも速く停止し、さらに、挟まれた手が直ちに解放される、あるいは、手が巻き込まれる危険性を回避できるなど、事故そのものの発生もしくは重傷事故の低減に寄与。

2.開発機の概要

  • 自脱コンバインでは、平成11年度の安全鑑定の改正により、原動機緊急停止装置を装備することが要件とされた。それ以降、手こぎ作業での手腕部の巻き込まれ事故において通院が必要なケガの発生割合が、未装備の場合から約7割低減した。
  • しかし、入院が必要なケガの発生割合は、未装備の場合から約2割の低減にとどまっている。これは、緊急停止ボタンを押した後も、慣性でフィードチェーンが止まるまでにタイムラグが生じるためで、特に、大型コンバインではフィードチェーンの停止距離が1.4mにも及ぶものもあり、挟まれた部位が深いとこぎ胴で損傷を受ける危険性が高まるためと考えられる。
  • また、緊急停止ボタンを押して、機械を停止させた後、挟まれた手を解放するには、こぎ胴カバー開放レバーを操作する必要があるが、女性や高齢者の中には、このレバーが重いため、開けることができない可能性が懸念された。
  • 開発装置は、挟まれた手の重傷化を回避するため、緊急停止ボタンを押すと、挟まれた手がこぎ胴に達する前に即時停止するとともに、挟まれた手を速やかに開放する方式とした。また、手こぎ作業中に手が巻き込まれる危険がない方式も開発した。

3.活用上の留意点

2014年度以降、対応可能な新機種から順次、標準装備される予定である。
手こぎ作業時は、袖口をしっかり締め、手袋は装着しないことが望ましい。

4.共同研究実施会社

井関農機株式会社、株式会社クボタ、三菱農機株式会社、ヤンマー株式会社

5.主要諸元・構造

本装置は、従来通りに手こぎ作業を行う通常作業型(図1、2)と、手が巻き込まれる危険性がない両手操作型(図3)がある。いずれも、手こぎ作業時はフィードチェーン搬送速度が遅くなる手こぎモードに切り替わる。また、緊急停止ボタンは、断線等の故障時にエンジンが始動できないNC(ノーマルクローズ)接点であり、動作後にその場で解除操作しないとエンジンが再起動できない自己保持型を装備している。

通常作業型は、緊急停止ボタンの操作により、エンジンを停止するとともに、フィードチェーンへの動力伝達を遮断し、即時停止するとともに、こぎ胴カバーあるいは挟やく桿を開放する。

両手操作型は、フィードチェーンの機体前方方向に配置した手こぎ操作ハンドルと、手こぎ作業位置左手側に配置した操作ボタンの両方を操作しないと、フィードチェーンが駆動しない。手こぎ作業は、手こぎ部のフィードチェーン上にイネを置き、右手で手こぎ操作ハンドルを降ろしてイネを押さえるとともに、左手で操作ボタンを押して行う。左右どちらかの手を離すとフィードチェーンは即時停止する。

表-開発装置の主要諸元図1-通常作業型 図2-通常作業型 図3-両手操作型

6.作業性能

  • 通常作業型は、フィードチェーンの即時停止とともに、こぎ胴カバーや挟やく桿(フィードチェーンとともにイネを押さえるレール)が開放するため、巻き込まれた手を速やかに抜き取ることができ、重傷化を回避することが期待できる。
  • 両手操作型は、従来の手こぎ作業の8割程度の作業能率ながら、手が巻き込まれる心配がなく、安心して作業することができる。
  • 緊急停止ボタンの位置は、小柄な女性でも手が届くよう配慮した(人体寸法データベースより65~74歳女性の上肢挙上指先端高の95パーセンタイル値を参考に定めた)。

(試験場所:埼玉県さいたま市)