理事長メッセージ

理事長 堀江 武

農研機構の任務と目標

この度の東日本大震災では、多くの尊い命が失われ、家屋やライフラインは原型をとどめないほどに破壊され、田畑は瓦礫や塩水に覆われ、さらには原子力事故の影響にさらされるなど、想像を絶する被害が東日本の広範囲に及んでおります。被災された皆様には心よりお見舞い申し上げます。

独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)は、大震災直後より農林水産省の要請に応じ、農業土木の専門家の派遣などの対応を行ってまいりました。引き続き、被災された地域の農業・農村の復興に向け、研究機関として持てる力を最大限発揮し、行政組織との連携のもとに技術的な面から貢献してまいります。

この度の大震災により、命の安全に直接関わる防災や食料、水などの基本的物資とエネルギーの安定的確保がいかに大切であるか改めて思い知らされました。私ども農研機構は、こうした課題に関する技術開発を担う研究機関としての任務の大きさを一層強く自覚して研究を進めてまいります。

農研機構の任務

私ども農研機構は国民の皆様の命や生活に密接に関わる研究開発を任務としており、農村地域の防災や生産基盤の整備・保全技術、農作物・家畜の品種改良とそれらの生産・加工・流通技術、食品や動物の安全を守る技術、バイオ燃料の生産・利用技術など、農と食に関する一切の研究開発を行っています。これらについて農研機構はその前身の国立農業研究機関時代も含めて数多くの技術を開発してまいりました。それらの技術は、農業、食品加工・流通業、農機具や農業資材の製造業、行政組織や安全性の検査機関などで広く利用され、他国では類をみないほどに高品質な農畜産物や食品の安定供給につながっております。

農研機構の第三期の中期目標

農研機構は今年4月1日より、第三期中期目標期間として新たな5年間の研究開発をスタートさせました。政府から第三期の中期目標として、1食料安定供給のための研究開発、2地球規模の課題に対応した研究開発、3新需要創出のための研究開発、4地域資源活用のための研究開発の4つの大目標を与えられ、その達成に組織の総力をあげて取り組んでまいります。

食料安定供給のための研究開発では、世界人口の増加、新興国の経済発展、食料のバイオ燃料利用などにより食料需要が増大する一方で、食料生産に不可欠な水、土地などの資源制約が強まり、世界の食料需給が逼迫しつつある今日、食料の安定供給は人類共通の課題となっています。私どもは食料自給力の高い日本農業の構築を中心に据えて技術開発研究に取り組みます。わが国の狭小な国土のもとで海外からの安価な輸入食料に抗して、食料自給率を高めるには土地生産性と労働生産性の両者が高い「第二の緑の革命」とよべるような革新的な生産技術の開発が求められます。そのために、画期的に高い収量性と病害虫抵抗性をもつ農作物の品種開発と高度集約的な輪作技術の開発、輪作を支援する高度作業機械と情報利用技術の開発、および農業の基盤となる圃場の整備・管理技術の開発を一体的に推進し、農業技術革新につなげます。さらに最近世界的に拡がりつつある口蹄疫、鳥インフルエンザなど家畜重要伝染病の診断・防除技術および病原菌や有害化学物質による食品汚染の防止技術などを開発し、食品の安全確保に貢献してまいります。

地球規模の課題に対応した研究開発では、地球温暖化の農業への影響予測、温暖化に適応できる農業生産技術、および温室効果ガスの排出抑制など温暖化防止技術の開発研究に取り組みます。このところ温暖化の影響とみられる異常高温、旱魃、洪水などが世界的に多発し、世界の食料に大きな影響が及んでいます。このような異常気象がわが国各地域の農業に及ぼす影響を予測し、技術対応を支援する早期警戒情報システムを開発します。また、農耕地、畜産施設からの二酸化炭素、メタンなどの温室効果ガスの排出抑制技術、バイオマス資源作物の生産技術とその効率的な変換技術など、低炭素・循環型社会形成を先導する技術開発を行います。

新需要創出のための研究開発では、食物のもつ健康機能性を解明し機能性成分を強化した食材・食品、および地域特異性の高い高品質な農畜産物とそれらの加工・流通技術を開発し、農畜産物の新需要創出につなげます。「医食同源」が示すように、食物には免疫機能を高めたり、いろいろな機能障害を緩和したり、高血圧を予防したりする成分が含まれています。それら健康機能性成分を医農連携により科学的に解明し、それらを強化した食材・食品の開発を行います。さらに地域ブランドとなりうる高品質な農畜産物とそれらの加工・流通技術を開発し、農業の6次産業化を通じた地域活性化に貢献してまいります。

地域資源活用のための研究開発では、水利施設、農道、圃場など農業・農村の基盤となる地域資源の保全管理技術、農村地域の防災・減災技術および鳥獣害の防止技術などの開発研究を行います。特に、この度の東日本大震災では農業用ダム、灌漑排水施設などが破壊され、圃場は塩水と瓦礫に覆われるなど、被災地の農村地域には激甚な被害が広範囲に及んでいます。今期は被災地域の農業・農村基盤の復興を最優先課題として、現地調査、試験研究、復興の技術支援と防災・減災技術の開発に取り組んでまいります。

農研機構はこれらの研究開発を、専門分野や対象地域を異にして全国に所在する14の内部研究所を横断する総数124のプロジェクト研究として、総勢1600余名の研究職員を配置して一体的に推進します。
また、農業者大学校を運営して農業後継者の育成教育を行うとともに、大学や他法人で行われる生物系特定産業に関する基礎的研究と民間企業等の実用技術開発研究への資金提供を通じた支援なども行います。

日本社会の持続的発展と安全・安心への貢献

食料、環境ともに不確実性を増す21世紀にあって、私ども農研機構は、以上の開発研究と業務を着実に行うことで、震災被災地の農業・農村の復興と、高い自給率のもとでの食料の安定供給と安全確保、農村環境や国土資源の保全などを支える技術を開発し、日本社会の持続的発展と安全・安心に貢献してまいります。皆様のご支援・ご協力をお願い申し上げます。

 

平成23年4月1日
農業・食品産業技術総合研究機構 理事長 堀江 武