九州沖縄農業研究センター

所長室から

2004年1月:新年の挨拶「So what の精神」

九州沖縄農業研究センターの職員の皆さん、明けましておめでとうございます。

今年の年末年始の休みは長かったのでご家族とゆっくりと過ごすことができたのではないでしょうか。否、研究員の皆さんの中には、とてもそんな余裕はない。これから始まる諸会議に向けての準備で大忙しだったという方もいるかもしれません。研究に一年のけじめを付けることは必要とは思いますが、最近のやり方は昔と比べ、ちょっとせわしないかもしれません。会議を減らすなどしてタイムスケジュールを調整し、検討期間にもう少し余裕を持たせることが必要でしょう。

私の年末は、母を亡くした辛いイメージとともにやって来ます。母は1999年12月30日に世を去りました。もうかれこれ5年経つのになかなか思いは断ち切れません。私が九州に就職する時、親戚の人達が静岡駅のプラットホームまで見送りに来てくれました。その時、母はホームの電柱に隠れ、私の乗った列車のそばに寄って来ませんでした。さぞかし寂しかったことだろうと思います。今でもその姿が目に浮かびます。
ふる里の親しい人達と別れ、はるばると職に就く。私たちの職場でもこのような研究者が沢山いると思います。別れを惜しんでくれた人に報いるため、良い仕事をしようと思う心、これはいつの時代でも変わらないのではないでしょうか。

一年間かけて一生懸命になってやった研究をしっかりとまとめること。たとえそれが旨くいかなかった場合でも、そこから何かをつかむことが出来ればそれはそれでりっぱに仕事をしたことになります。研究では目標通りの結果が得られることはむしろ珍しいでしょう。時には思いもよらなかったおもしろい結果を得ることもあります。だから研究は楽しい生業なのです。目標通りの結果を得ることしか認めないという態度では一面的に過ぎます。
もし気に入った結果が得られれば、それを多くの人達に知らせ、出来るだけ早く社会に還元することが必要です。自分の引き出しにデータをいつまでもしまっておくことは論外としても、論文や成果集に書けばそれでお仕舞いというわけには行きません。So what(だから何なんだ)の精神が大切です。常に次を考えて行動することが必要とされています。社会で実際に使われてこそ成果であるとするならば、誰かが社会の入口まで面倒を見なければなりません。従来なら「それは県や市町村あるいは企業の研究者など現場に近い人達」が正解でした。しかし今では私達、研究者自らが積極的にコミットメントすることが求められています。研究者であるからには論文を書くことは極めて当然ですが、今は行動する研究者であることも求められていると理解して下さい。

単に趣味的な研究を行い、自己満足に浸るという生き方ではなく、研究を通じて社会的に役に立つ行動をするという生き方こそ、それが私達を送り出したふる里の人達、あるいは研究を支えている職場の仲間に対する何よりの恩返しであると思っています。特にバイオマスプロジェクトのようにコミュニティを対象とする研究ではSo whatの精神に基づく研究が必要です。ミニプラントを作り、実証し、研究結果を定着させること。今年から九州をバイオマス研究のメッカにしようではありませんか。

所長 山川 理