九州沖縄農業研究センター

所長室から

新しい農業を支える研究組織を作りたい

山川 理職員の皆さん(この言葉も今年限りになることでしょう。来年からは社員の皆さん?)、明けましておめでとうございます。今年は新年の挨拶のテーマ選択に大変に苦労しました。昨年中に次期中期計画策定に向け機構の改革案がほぼ固まっていれば、私のテーマは選択の余地のないものとなっていたことと思います。日本の景気が昨年秋口から急速に回復し、やれ賃上げだ、増員だという言葉が飛び交うようになった中で、私達の組織は現在「予算や定員の削減」という全く異なる方向へと舵を取ることが求められています。私達は何やら「一周遅れのランナー」のように思われます。これは、世の中はすでに厳しい変革を経験しつつあり、その結果ようやく調子が上向きになったということでしょう。農業の現場でも今年から思い切った変革が進んでいくでしょう。食料生産を行う農業においても、他の一次産業と同様に経済原理の基でしっかり利潤を生み出していくことが求められています。これまで高齢者福祉政策や環境あるいは国土保全政策と農業政策が渾然一体となっていたことが日本農業の自律的発展を妨げていたものと思われます。私達の組織態勢も相当に古い体質をまだ持っています。私は全共闘世代です。昭和44年、大学紛争の真っ直中で、大学の古い体質を問い、大学教授をトップとした講座制の解体を叫んでいました。その大学の現在を見て下さい。すでに講座制は過去の遺物となり、連合研究勢力からなる新体制が着々と構築されています。一方私達の場合は部科室制を長いこと守ってきました。部や研究室が専門領域別に細分化されており、専門的な基礎研究を深化するには適当な組織かもしれません。しかし、大きく変わっていく農業を支えるための現場技術を開発するにはこのような硬直した組織構造は適していません。本来なら5年前の法人化の時に組織を見直すべきだったと思います。専門分野の枠を超え、研究者が縦横無尽に連携し、現場に必要な技術を速やかに開発する。そのために適しているのは自分の意志で行動できる、自立した研究者からなるフラットな組織です。新技術開発の志を抱く自立した研究者連がチームを作り、お互いに協力してことを為し遂げる、ある人が抜けても必ず他の人がカバーし目標達成に努める、こんな当たり前のことが何のためらいもなく成し遂げられる組織こそが求められていると思います。今日本の企業は諸外国との競争に打ち勝つために必要なのは技術力だと認識しています。農業という産業についても同様です。技術力こそがこれからの日本農業を発展させる基になると確信しています。私達の組織は農業技術を開発するために存在しているのです。基礎研究も農業技術の開発との関わりのなかで行うべきものです。教科書の内容を事細かに詰めていく、真理追求型の研究を行うわけではないのです。ここに大学との明確な違いが認められます。もう一度繰り返します。私達の組織は農業技術を開発するために存在しているのです。そして開発された技術が現場で充分に活用され、農業を営む企業が利益を上げ、地域が発展してこそ、その役割を果たしていると言えるのです。どれだけ厚い成果情報誌を発行しても、数多くの学会表彰者を出しても、農業や地域の発展がなければその組織はたいした仕事はしていないというのが私の評価基準です。ここまで書いてきてはたと考えました。なにやら説教くさい。いやかなり説教くさい。でも私こと本年は研究所で最年長者となる運命。最古参者として、これまでの説教を許して頂けるものと思っています。