九州沖縄農業研究センター

所長室から

新年の挨拶

九州沖縄農業研究センター所長 有原丈二

有原丈二皆さん、明けましておめでとうございます。

どうも昨年あたりから日本だけではなく、世界中の人が地球、環境、食料、世界の共存などに危機感を覚え、それを強く考えるようになったと感じます。

農業については危機感だけではなく、実際にも大きな変化が現れています。米国でのトウモロコシによるエタノール生産に端を発したトウモロコシ、小麦、大豆の価格高騰は世界の食糧生産構造に大きな変化をもたらしつつあります。穀物価格の上昇は、バイオエタノール生産や投機的資金のためだけではなく、世界的に穀物が不足しだしたことが背景にあると思います。世界各国の農業生産量は近年大きく拡大しているにも関わらず価格が上昇するということは、需要拡大がそれ以上になっているということでしょう。

1970年代初頭にも米国の大豆輸出禁止措置による一時的な食糧危機があり、日本の援助によるブラジルのセラード地域の開発が行われ、そこで大豆生産を拡大させることができましたが、現在では世界にも開発可能な土地はあまり残っておりません。

食料危機が危惧され、世界各国が農業生産拡大につとめる中、日本ではその低下が続いています。将来、食料が不足するようになったとき、自国でろくな生産もしないで食料の輸入ができるのだろうかと危惧も感じます。我が国の食料生産を向上させることが、非常に重要だと思います。

一方、この農産物価格の上昇は一つの危機なのですが、日本農業のためには良い面もあります。最近、製粉会社の方から「米粉用の米の増産が出来ないか」とか、豆腐会社から「大豆を安定して供給できる生産者がいませんか」などと聞かれるようになりました。国内産のものでも十分商売になるほど、輸入農産物が高くなっており、国産農産物への期待は大きくなっているようです。

もう一つ、国内農産物は安全、安心、品質などで信頼されており、そこをさらに強くしていくことが大事ですが、九州沖縄農研の成果はそれにも貢献できるようです。昨年、12月に中国で「東アジアの食品供給システムと安全性」というシンポジウムがありましたが、九州沖縄農研の成果を中心に環境保全型農業技術、バイオマス、機能性、品種開発などの研究を紹介しました。その中で中国側の参加者には非常に興味を持っていただきましたし、日本GAP(Good Agricultural Practice)協会には、「GAPを実践するうえで役立つ成果なので協力して欲しい」と言われました。我々の研究成果は思っている以上に役に立ちそうで、それを生かす道もいろいろありそうです。九州沖縄農研や農研機構全体の成果を普及させていくには、民間団体との協力も大事ではないかと感じました。

技術の普及というのは、実はこれは大変な仕事です。研究者だけでできるものでもありません。所全体でやろうという意志が大事だと思います。これも中国でのシンポジウムでの話ですが、農研機構から大学に移った先生から、「農研機構はすごい実力がありますよ」、と言われました。私はてっきり研究のことかと思ったのですが、そうではなく、「総務部門が新しい活動に積極的に協力してくれ、その対処能力が高い」ということでした。また、生産現場への技術普及には、優秀な技能専門職員によるデモンストレーションで生産者を納得させることが鍵となります。

技術を研究、開発し、それを現場に持ち込むには、関係するスタッフが同じことを見て、同じ言葉で理解できるようにすることが大事です。それにはスタッフ全員が開発現場を見、興味を共有し、仲間となることが大事です。私も、そのようなことができる九州沖縄農研になるよう、私自信も努力したいと思っておりますので、よろしくお願いいたします。