九州沖縄農業研究センター

所長室から 地域に根ざした技術開発を目指して

栗原 光規 平成28年度を振り返ると、昨年4月14日と16日には、震度7という極めて大きな地震に熊本県は2度見舞われました。わが国観測史上初めての出来事で、その被害総額は熊本県で3.8兆円と試算され、県民が心の支えとする熊本城や阿蘇神社ほか多方面で甚大な被害が発生しました。この大地震により不幸にも亡くなられた皆様のご冥福をお祈りしますと共に、被害に遭われた皆方々に心よりお見舞い申し上げます。
農林水産業の被害額は九州全体で1,660億円に上りに上り、全国6番目の農業県である熊本県の農業被害額も1,000億円を超えました。田植えに必要なため池や用水路などの農業関連施設から田畑の地割れや液状化などの農地、農業用ハウス、選果場やカントリーエレベーターなどの共同利用施設、畜舎等の損壊などの農地・施設面の被害からメロンやトマトの落果、イチゴやスイカ等の枯死、家畜の死亡や生乳の廃棄などの農畜産物の被害まで広範囲に及んだため、営農再開が強く懸念されました。そのような状況を受け、農研機構九州沖縄農業研究センター(以下、九沖農研)は、農研機構内全組織と連携して復旧に向けた技術情報を提供すると共に、営農再開に向けた緊急調査として、熊本県及び農研機構農村工学研究部門や農研機構農業環境変動研究センターとともに、ドローン等を用いた先進モニタリング手法による農地の基盤構造や土壌・地下水への影響評価、稲や大豆、飼料作、ミカン等の生育への影響を評価し被災地に伝えるなど、今後とも熊本農業の創造的復興に協力を継続していきます。また、被災した東海大学農学部への協力も継続します。

九州沖縄地域は、気温が高く豊富な日照と降雨に恵まれているため農業生産に適しています。そのため、農業産出額は全国の約20%、約1兆8千億円に達しています。全国の10%程度を占める米、麦、大豆、乳用牛から、約30%以上のピーマン、みかん、肉用牛、豚、40%以上のカンショ、荒茶、ブロイラー、100%のサトウキビなど高いシェアーを誇る農畜産物の生産が盛んです。農研機構や九沖農研はこれらの農業生産を技術面から支えたいと日夜技術開発に取り組んでいます。特に優良な農産物による産地形成や、新たな商品開発による6次産業化をサポートすることは重要であり、それらの中核となる品種の育成にも実績があります。
温暖化に強いわが国初の米品種として九沖農研が育成した「にこまる」は当センター近隣の菊池市七城町・古閑正光さんの2015年産が「世界最高米」の原料米に選ばれ、「ぴかまる」は阿蘇市・中山北斗さんの2016年産が同栄誉を獲得しています。小麦では九州で代表的な「シロガネコムギ」や「チクゴイズミ」のほか、わが国初の暖地での栽培に適したパン用小麦として「ニシノカオリ」や「ミナミノカオリ」を育成しています。また、「ミナミノカオリ」は福岡県の「ラー麦」や長崎県の「長崎ちゃん麦」の親にもなっています。大麦の「ニシノホシ」は焼酎用として普及しています。大豆では豆腐加工に適した主力品種の「フクユタカ」や初の暖地栽培に適した大粒の黒大豆「クロダマル」が注目されています。カンショの「コガネセンガン」は、晩酌用から数万円のプレミアム品まで大半の芋焼酎の原料となっている主力品種です。また、紫芋の「ムラサキマサリ」は焼酎用の新顔として、「べにはるか」はしっとり甘い新感覚の焼き芋用として全国に拡大中です。イチゴの全国トップ10は、九沖農研育成か九沖農研のイチゴを親にするなど深い関係にあります。サトウキビでも鹿児島県、沖縄県の主力品種を育成しています。九沖農研は、今後とも皆さんの要望を聞きながら、地域に根ざした先導的品種育成などの技術開発に取り組んでいます。栗原 光規
地域に根ざした技術開発には、地域の生産者や民間、大学、公立試験研究機関、行政・普及機関との連携が不可欠です。私たちは地域のネットワークを大切にし、昨年は地域の要望を把握し技術開発を連携して進めるために水田作、畑作、畜産、果樹、野菜・花き、病害虫などに関係する検討会や研究会を44回開催し、多くの関係者と意見交換しながら技術開発を進めています。また現在、民間企業とも共同研究などを38件取り組み、農水省のプロジェクト研究に延べ33社と参加するなど連携を強化しています。さらに、九州沖縄地域の農業生産者と共に行う現地試験は8県51市町村80カ所で展開中です。九沖農研では、今後とも地域と連携した取り組みを強化しますので、引き続きご支援・ご協力のほど、よろしくお願いいたします。

(NARO3号の巻頭言に加筆転載)

平成29年4月
(国研)農研機構 九州沖縄農業研究センター
所長 栗原光規

法人番号 7050005005207