九州沖縄農業研究センター

九州沖縄農業試験研究の成果情報

全量基肥施肥から移植までの日数が長くなると、窒素肥効および水稲生育量が減少する

要約

水稲に対する全量基肥の施肥日が移植の14日前となるような早い場合、3日前施肥に比較して移植後の土壌中無機態窒素は低下するとともに、被覆尿素の窒素溶出は早くなり、水稲の茎数、穂数ならびに窒素吸収量は少なく推移する。 

  • キーワード: 水稲、施肥日、全量基肥施肥、窒素肥効、被覆尿素、窒素溶出
  • 担当: 熊本農研セ・生産環境研・土壌肥料研究室
  • 代表連絡先: 電話096-248-6447
  • 区分: 九州沖縄農業・生産環境(土壌肥料)
  • 分類: 技術・普及  

背景・ねらい

熊本県内の農家の水稲基肥は、入水前に乾田状態で施肥する方法が一般的となっている。適正な施肥を推進するためには移植日に対する基肥施肥時期の早さを含めて検討することが必要であるが、生産現場での認識は乏しい。このため、普及率が高い全量基肥施肥体系を主な対象に、水稲の施肥時期から移植日のに数について農家実態を把握し、水稲の生育や施肥効率に及ぼす影響を解明する。 

成果の内容・特徴

  • JA指導員の把握では熊本県内の農家の水稲基肥施肥から移植日までの日数は平均6.6日であるが、各地域に14日以上という長い間隔の農家が存在する。このような理由として、兼業農家で休日しか作業ができないこと、水稲作付面積が広いこと、高齢化や梅雨時期である(図1)ためにほ場の作業性の良い日に施用している(データ省略)ことなどが挙げられる。
  • 被覆尿素の窒素溶出は、入水の有無にかかわらず施肥日が起算日となるため、早い時期に施用することで溶出は早くなる。日数が短いタイプと同様になる(図2)など、本来意図した溶出となりえない。
  • 水稲の移植14日前に全量基肥施肥すると、移植3日前施肥に比較して分げつ期の土壌中無機態窒素が少なくなり、水稲の葉色が薄く、茎数や穂数が少なくなる(表1)。
  • 速効性窒素の施肥から代かき移植までの乾田状態の期間が長くなるほど水稲の生育前半の乾物重は軽くなり、窒素吸収量は低下する(表1、図3)。ただし、施肥後に代かきを行い湛水で経過すると乾物重や窒素吸収量の減少は認められない(図3)ため、早い時期の施肥の窒素肥効低下の原因は、速効性窒素が硝酸化成により消失している可能性が高い。

成果の活用面・留意点

  • 以上の結果より、施肥効率向上のためには基肥施肥を移植日に近づけることが望ましい。移植同時施肥機や苗箱施肥等の技術も活用できる。施肥時期を変更する場合は施肥量等を考慮する。
  • 土壌中無機態窒素、水稲の生育量ならびに収量の低下の程度は、土壌や気象の条件によって異なる。

具体的データ

図1

図2

表1

図3 

 

その他

  • 研究課題名: バイオマス利活用フロンティア推進事業
  • 予算区分: 県単
  • 研究期間: 2007~2009年
  • 研究担当者: 松森信、開田和歌子(JA熊本経済連)