中央農業研究センター

所長室より 新年のご挨拶

農研機構 中央農業研究センター 所長 梅本 雅umemoto190108_D75_8815.png

   新年明けましておめでとうございます。

   農研機構は、昨年4月に新しい体制となり、農業・食品産業分野におけるSociety5.0の実現を中心に、理事長が掲げる組織目標に向けて重点的に取り組むことになりました。組織面でも、7月から中央農研に那須研究拠点の飼養管理技術研究領域が加わり、水田の畜産的利用を中心に、都府県型酪農の強化に関わる研究を一体的に推進することになりました。また、ロードマップの作成を進め、到達目標を明確化した上での研究成果のスピーディな実用化に向けた取り組みを強化するとともに、年末には、スマート農業加速化実証プロジェクトの推進に当たっての説明会、技術・体系提案会を開催するなど、各種のイベントを実施してきました。

   この中で、中央農研では、研究面、総務・企画・連携広報・研究支援の場面で積極的に取り組んできました。
    まず、労働安全についてです。昨年度は、偶発的な虫刺されが1件あったものの、それ以外に職場で事故や怪我はなく、安全衛生対策の趣旨がきちんと理解されてきているように思います。今年度も、職員が、安全な職場で、元気で仕事できるよう、改めて、労災ゼロに向けた取り組みの徹底を図っていきます。

    事務管理や企画面では、一つ一つ課題の解決を進めてきました。外部資金の応募も、科研費を始め多くの資金獲得へのチャレンジがなされています。産学連携室では、マッチングフォーラム、シンポジウム、アグリビジネスフェアなど各種イベントや、サイエンスカフェ、プレスリリースなどに積極的に取り組んできました。

    研究面でも、病害虫に関するAIプロジェクトの推進や、機械学習による農業経営体予測、トラクターの自動操舵、ドローンによるセンシングなど、新たな研究分野へのチャレンジとともに、SIP、委託プロジェクト、イノベーション創出事業といった研究の推進を通して、天敵利用や、麦大豆の多収阻害要因の解明、効率的施肥技術等に関する多くの成果が得られてきています。AI、ICT、RTに関わるテーマは、組織目標においても重点化が求められている事項ですが、このような新たな分野に対して早い段階から知見を積み重ねていたことが、課題への迅速な対応につながっていると思います。
    一方、新品種では水稲の「あきあかね」、「亜細亜のかおり」、「にじのきらめき」をプレスリリースするとともに、もち性を持つ大麦「はねうまもち」については、積極的な普及活動を通じて長岡市や新潟市など各地で栽培面積が拡大しています。また、鳥獣害や畦畔管理など、必ずしも生産活動に直結しない分野での技術開発への要望も大きく、北陸及び関東でのマッチングフォーラムではこれらをテーマに開催しましたが、いずれの会場も100名を超える多数の皆さんに参加頂き、活発な質疑が行われました。

    社会実装に向けた取り組みについても、天敵利用に関するシンポジウム、施肥コスト削減に関わる東海マッチングフォーラム、三重県でのイネホールクロップサイレージ生産体系に関する現地検討会の開催など、多くの取り組みを実施するとともに、毎年恒例となっている興農会も多数の農業者の方の参加を得ることが出来ました。
    私たちには、営農現場、農村、さらに、消費者・実需者からのニーズに対応した研究を推進するとともに、それらの成果を早期に実用化していく責務があります。これまでも実施してきていることですが、よりいっそうの取り組みの強化を図っていきたいと考えています。

    最後に、現在、農政の最重要課題の一つとなっているスマート農業の推進に関する研究面からの対応方向について私見を述べたいと思います。

    昨年の8月に関東・水田作でのアドバイザリーボードを開催しました。そこでは、これまで実施してきた方式である農業者から意見を聴く、すなわち営農現場のニーズを把握するというやり方から転換し、我々研究機関の側から、将来(約15年先)の地域農業及び農業経営の姿と、そこにおいて必要となる技術開発課題について現段階の構想を述べ、それに対して農業者の皆さんの意見をお聞きすることとしました。そこでポイントとなったことは、少子高齢化社会のもとで、日本の人口は、今後、大きく減少し、高齢者の割合が急速に増大していくこと、また、農村はその先端を進んでおり、農業就業人口はこれまで以上のテンポで減少していくと予想されるのであり、そのような状況にどう対応していくかという点です。
    農業経営研究領域では将来の農業労働力数の動向や、高齢化と後継者の不在により農業生産から離脱して農地の貸し出しを希望する農業者の農地面積を推計するとともに、耕作放棄地の発生を避けるためにそれらを全て耕作してもらうと仮定した場合に担い手に求められる耕作面積を計算しています。その結果を見ると、2030年には、家族経営を前提として、経営面積は現状(24ha)の約5倍の120ha、主たる従事者1人当たりの耕作面積では約50haとなると予想されています。これは、ドイツやイギリスとほぼ同等の経営面積であり、これまで規模の零細性を前提にしてきた日本農業の姿は、これからは大きく変わっていくことが予想されます。
    もちろん、従業員を増やすことが出来れば、作業面だけを考えるのであれば規模拡大への対応は可能です。しかし、それは人件費の増加を招くとともに、人材育成も適確に実施する必要があります。さらに、これは、昨年末、売上高が10億円を超えるある大規模な農業経営の経営者が話されていたことですが、従業員を採用しようとして内定を出したらその後辞退されてしまったとのことであり、雇用型法人経営における労働力の確保そのものも難しくなっているようです。この点を考えれば、今後は、作業効率を飛躍的に拡大し、限られた人員で必要な作業を確実にこなしていくことが求められます。

    一方、規模拡大が進んだとしても、収量や品質が低下してしまっては意味がありません。日本農業は、1980年代以降、ややもすれば、収量向上よりは品質の確保を、また、効率性よりは作業の確実さを重視してきたように思います。しかし、これらはどれを優先するかという問題ではなく、真に競争力を高めるためには、本来は、収量性、品質、作業効率、作業精度のいずれも向上させていく必要があります。

    アドバイザリーボードではこのような状況に対して技術開発の観点からどのように対応していくべきかを議論した訳ですが、そこでの中核においてITC、AI、RTを中心とするスマート農業に関する技術展開は不可欠となっています。
    特に、上述した規模を、限られた労働力で、多数の圃場や作物・品種を対象に作業しながら、収量性、品質、作業効率、作業精度を維持・向上させていくとすれば、様々なデータを収集・解析し、その結果を経営判断、栽培・作業管理の遂行に活かしていくことが求められます。そして、そこでは、収集したデータを活用するための栽培ノウハウなど、まさに中央農研においてこれまで蓄積してきた生産管理に関わる知見が不可欠であり、それがあって始めて、未来投資戦略2018に示された「ほぼ全ての担い手によりデータを活用した農業が実践される」ことが可能になると考えます。この点では、スマート農業の本質は、これまで私たちが構築してきた技術的・科学的知見を、形式知として、農業者の方に広く使ってもらえる状態にしていくことにあると言えるでしょう。

    但し、スマート農業は、上記のICT、AI、RTの活用だけでなく、既存の技術体系や品種選択の改善・高度化を伴って始めて実現されるものであるという点にも注意が必要です。個々の技術、品種、そして、技術体系も、現状のままでいいとは思われません。先端技術の活用と同時に、これまでの土地利用のあり方や、作業方法、栽培管理、土壌管理、病害虫・雑草制御を含む技術体系そのものの再編を図っていく必要があります。

    この1月からスマート農業加速化実証プロジェクトに関わる公募も開始されることになり、これらスマート農業への対応は今年度の主要なテーマになっていくと思われます。この取り組みが日本農業における新たな技術革新につながっていくよう、しっかり考え、取り組んでいきます。
    本年もどうかよろしくお願い致します。