北海道農業研究センター

所長室

令和4年度

令和4年4月1日付けで、農研機構北海道農業研究センターの所長を拝命しました。就任にあたり一言ご挨拶申し上げます。

北海道は、全国の1/4の耕地面積を有し、同14%の農業産出額、カロリーベースの自給率216% (2020年度) を誇る日本最大の食料生産基地です。都府県の13倍もの経営面積で専業的な農業経営が展開され、技術的にも日本の農業を先導していると言えます。北海道の農業や関連産業を発展させる上で、農業技術開発に大きな期待が寄せられており、我々農研機構の職員が果たすべき役割は大きいものと、改めて自覚する次第です。

このように盤石に見える北海道農業ですが、農業・農村を取り巻く情勢は北海道においても大きく変化しています。経済のグローバル化の進展をはじめ、離農や高齢化による担い手不足、人口減少による集落機能の低下や国内食市場の縮小、消費者ニーズの多様化など、さまざまな課題への対応に迫られています。加えて、2020年から始まった新型コロナウイルス感染症拡大に伴う飲食産業への打撃、2022年から始まったロシアのウクライナ侵攻に伴う穀物市場の混乱と資材高騰は北海道農業にも大きな影響を与えています。さらに、2050年カーボンニュートラルの実現に向け、地球温暖化対策と持続可能な農業への転換など、待ったなしの対応が迫られています。

政府は、我が国の農業を巡るこうした状況の中、強い農林水産業を実現していくため、農業・食品の生産・流通に変革をもたらすイノベーションを創出する研究開発を推進しています。また同時に、食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現する「みどりの食料システム戦略」を策定し、生産者、事業者、消費者等の連携による、環境負荷低減に資する調達・生産・流通・消費の促進を掲げています。

農研機構には、つくばにある司令塔である本部と、つくば地区を中心とした専門性の高い研究所・部門、および5地域 (北海道、東北、中日本、西日本、九州沖縄) をそれぞれ担当する地域農業研究センターがあります。我々北海道農業研究センターは、この農研機構の一員である強みを生かし、これら北海道農業を取り巻く諸問題の解決に全力で取り組みます。そのため、北海道の畑作、酪農、野菜水田作複合経営の3分野をターゲットに、農業人口が減少する状況でも、農作物・酪農生産の自給力が向上し、かつ農業生産者の所得が10%向上する生産技術の開発を目標に掲げました (2021年から5年後の達成目標) 。

この目標達成のため大きな力となるのが、ロボット技術やICT等の先端技術を活用し、超省力化や高品質生産等を可能にする「スマート農業」の普及拡大です。これまで北海道農業研究センターは、様々なスマート農業技術を開発し、現地実証や現場への実装を進めてきました。また民間では、農業用ドローンや自動走行トラクターに代表されるスマート農機が販売され、農業現場への導入が進んでいます。一方でこれら技術の導入には、初期コストが割高、規格の不統一、サポート体制不十分などの問題もあります。今後は、スマート農業の本格普及に向け、「稼げる経営モデルの確立」を目標にこれら問題の解決に取り組みます。

これら研究・技術開発のアプローチとして、我々は人員や予算、施設・機械などを、無制限に投入することはできません。そこで、引き続き北海道地域の研究機関、大学や民間企業などとの連携を強化してまいります。これら機関の皆様とチームを組み、共同研究も含めて戦略的に課題に取り組むことで、スピードや質、波及性が大幅に高まることを期待します。さらには、行政や農業界、産業界ともタッグを組み、日本の食料生産基地である北海道の地位の維持拡大をめざします。そして、全国への食料安定供給、食品産業規模の拡大、農薬・化学肥料・温室効果ガス排出の少ない農業・食品産業を基軸とする地域創生に貢献します。

以上、職員一同一丸となって、技術開発および技術の社会実装に取り組んでまいりますので、皆様には、今後とも北海道農業研究センターに対するご指導とご協力を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

令和4年4月
農研機構北海道農業研究センター
所長 奈良部 孝 (ならぶ たかし)