九州沖縄農業研究センター

所長室から

農業は衰退産業か?否!

2月10日、平成16年度の試験研究の成果を検討する「九州沖縄農業試験研究推進会議評価企画会議(第2回)」が九州沖縄農業研究センターで開催されました。参加者は、農林水産技術会議事務局の佐々木首席研究開発企画官、農業・生物系特定産業技術研究機構の岩崎研究管理官、九州・沖縄各県の研究・行政機関の代表者ら、合計51名でした。
今回の所長室ホームページでは、当日の山川所長の挨拶を紹介します。

所長写真皆様ご苦労様です。今日は技術会議、機構本部から2名来ていただき、私どものこの会議を聞いていただきます。この会議で少しでもお土産になるような議論が出来れば結構だと思います。私からは三点ほど話をさせて頂きます。最近の新聞報道でもご存じのとおり農業や農業研究をとりまく環境は、私自身驚くほど大きく変わってきています。具体的には三つの点で大きな変化があると思います。

ひとつはこれまで競争関係にあったJAあるいは県が、「九州はひとつ」を合い言葉にして、九州沖縄農業経済推進機構というものを作りました。JA福岡中央会の花元会長が中心メンバーになっていますが、まさに九州沖縄県知事会が道州制を積極的に考えるということに歩調を合わすかのように、農業団体も同様な動きをしています。JAはこれまで各県でバラバラにブランド化を図っていました。これではとても全国的、世界的な競争に勝てないということで、九州の戦略産物については九州ブランドを作ろうという話になっています。具体的にはまだどういった産品を取り上げるかという議論はありませんが、「九州農業未来セミナー」を作りこれから検討を進めます。このセミナーは九州大学農学部の甲斐先生が座長で、私もメンバーに入っています。私以外に九州農政局長やフンドーキンの社長、イオンや生協の担当部長や理事等の有識者が加わり、いろんなアイデアを出し議論することになっています。私はブランド化の柱として三つのことが条件になると思います。戦略的な生産物は大きなマーケットを対象に出荷をするわけですから、生産量・品質・価格等が安定していなければならないということが、第一条件に挙げられます。二つ目は九州として一定の基準をもとに安全性がチェックされ、安全性について保証されているということ。それから三つ目として、トレーサビリティーがしっかりしていること、即ち産地表示、品種表示、生産者、生産方法などが明確になっていること。この三点セットがブランド化になるための最低限の条件だと考えています。従ってこの三点を確保するために、私ども研究機関が全力を挙げてサポートしていく必要があります。そうしないと九州ブランド確立は出来ないと思っています。出来るだけ早急に戦略農産作物を選定し、作物については九州沖縄農業研究センターが責任を持って品種開発をするということをこのセミナーの中で申し上げています。各県それぞれ思惑があるでしょうが、今こそ、物事がこういう具合に進んでいることを認識して頂きたいと思います。とりわけこれまでJA福岡中央会は、県ブランド推進派でした。他県に負けないよう、県単位で何かをするということを陣頭指揮してきた訳ですが、今回はっきりとそういったやり方、各県ブランド化は成果があがっていなかったと、花元会長はこのセミナーの挨拶の中でお話になっています。従ってこれまでの県間の関係が変わってくると思います。この中でコーディネーターとしての私どもセンターの役割は益々大きくなります。

それから二つ目は農水省関係です。佐々木さんから後ほど詳しいお話があると思います。現在農水省では農業基本法の見直しを行っています。農業は衰退産業ではなく、これから益々発展する生物産業であるということを謳っております。最近の新聞によれば、小泉首相も、農業は必ずしも衰退産業ではないとはっきりと言っておられます。衰退産業であると一般的には思われている農業が、実は衰退産業ではないということをしっかり担保するためには、日本農産物の安全性の保証と実需者の要望に応じた高品質の確保、それから高収益性、つまり農業経営としての安定性、この三つの点を重視する必要があると思います。安全性については先ほどJAのところで申し上げましたブランド化とも関連します。収益性の確保というのは農水省の政策としても非常に大事だと思いますので、法人化・企業化をメインとして、いろんなやり方を考えていく必要があると思います。また九州の農業経営のあり方と東北や北海道とは全く異なると思います。大規模単作の経営ではなく、面積は小さいがいろんな物を組み合わせて効率的に、人・土地・資金をフル回転させ収益をあげていくという九州独自の方向があると思います。このような点を重視した研究をこれから強力に推進する必要があると思います。

最後に経済産業省の関係です。九州経済産業局が、九州経済の3本目の柱としてフードインダストリーを取り上げ、いわゆるフードアイランド九州という構想を打ち出しました。これまで経済産業省は地域の産業活性化のために都市エリア構想や産業クラスター構想を打ち出し、そこに予算をつぎ込んできています。ところがこの都市エリア構想、クラスター構想の核となる産業とは何か。九州として他の地域に比べて特徴的な産業は何かとなったとき、これまでの車(カー)と半導体(シリコン)以外の第三の極として農業があるということに気づきました。それで今、経済産業省は、農工連携ということを盛んに言っております。私も農業研究の専門家という立場で、経済産業省や県の産業振興局に呼ばれ意見を聞かれています。私たちもこれから農業だけでなく工業と一緒になって地域を活性化するという発想を持つ必要があると思います。そのために工業分野で挙げられている成果の活用、例えば品質を調べたり、トレーサビリティを確保するために必要なセンサーなどの先端技術をうまく使うこと、工業が開発した新素材を新しい農業資材として使っていくこと、逆に私どもが作った農産物から機能性のある食品や新素材を作っていくという具合に、農工連携を益々深めていく必要があると思います。農産物はバイオマス資源であると位置づけ、広い視野から捉える必要があると思います。バイオマス資源には食料としてのバイオマス、エネルギー、医療、住居としてのバイオマスなど、新しい色んな使い方が出てくると思います。工業が作った先端技術の農業への導入と我々が作った農産物を変換加工して、付加価値を深めるような農工連携といった双方向から農工連携のあり方を追求していくことが必要です。以上の観点から今後の研究の連携のあり方、プロジェクトの組み方を含めて新しい方向を打ち出せれば幸いかと思います。是非とも皆さんもお帰りになった後、このような発展方向を見据えたうえでの議論が深まりますようご努力をお願い致したいと思います。