要約
耐凍能の低い個体において精漿を除去し、凍結することで精子運動性向上を可能にするが、早期の受精能獲得が誘起され人工授精による受胎率が低い。しかし、融解液に10%精漿を添加する2ステップ凍結融解法を用いた人工授精により高い受胎率と繁殖成績が得られる。
- キーワード: ブタ、凍結精子、精漿、2ステップ凍結融解法
- 担当: 大分農林研セ・畜産試験場・中小家畜環境担当
- 代表連絡先: Tel:0974-22-0673
- 区分: 九州沖縄農研・畜産・草地(家畜)
- 分類: 技術・普及
背景・ねらい
ブタ射出精子の凍結融解後の受精能には個体間で大きな差が存在し、凍結精子による人工授精の普及の妨げとなっている。したがって、全ての雄個体で凍結可能にする技術が望まれる。耐凍能の低い個体の精巣上体精子を凍結保存すると、融解後の運動率は射出精子のそれと比較して有意に高いことから、耐凍能の低い個体の精漿が凍結融解精子の機能性及び受胎率に及ぼす影響を明らかとし、耐凍能の低い個体においも受胎率を向上する凍結融解技術を開発することを目的とする。
成果の内容・特徴
- 個体における耐凍能の区分は,20頭の雄ブタから採取した精液を、精漿を暴露する一般的な凍結融解方法により処理し、作製された精液を1頭の雄ブタ当たり3頭以上の雌ブタに人工授精し、全く受胎しない雄ブタを耐凍能の低い個体(PF;n=7)とする。採取した精液を精漿に暴露する方法を「常法;C」、採精後15分以内に遠心分離により精漿除去する方法を「除去法;rSP」とする。PFにおいて、精漿除去により凍結融解精子の運動率が有意に向上するが受胎率は改善しない(表1)。一方、耐凍能の高い個体(GF)では運動率は両区に差はないが、rSP処理することで受胎率は低下する。
- 精漿除去法により作出した精子は、受精能獲得(精子活性化)の指標となるチロシン残基のリン酸化が融解直後から検出され、低受胎の原因となる(図1)。融解液へ10%精漿(遠心分離にて完全に精子と分離後、-20°Cで凍結保存したもの)を添加することで早期の受精能獲得を抑制できる。
- 精漿除去法による融解後精子運動性向上と融解時精漿添加による早期の受精能獲得抑制を組み合わせた2ステップ凍結融解処理法を確立し(図2)、これによって作出したGF及びPF個体の精子を過排卵未処理の自然発情中の雌豚に人工授精することで高い受胎率及び繁殖成績が得られる(表2)。
成果の活用面・留意点
- 開発した2ステップ凍結融解処理法は、耐凍能の優劣にかかわらず活用できる。
- 添加する精漿は自然交配あるいは人工授精での繁殖成績が良好な雄から採取すること。
- 添加する精漿に精子が混入しないよう十分遠心分離(採取した精液を700xg、5分間条件で遠心分離後、上澄みを回収し、さらに1500xg、30分間条件で遠心分離)すること。
- 精漿の衛生条件にも留意すること。抗生物質添加も可能である。
具体的データ
その他
- 研究課題名: 豚凍結精液を用いた人工授精技術の開発
- 予算区分: 県単
- 研究期間: 2007~2009年度