食品研究部門

非破壊計測ユニット

役割

非破壊計測ユニットでは、食品および食料に係る資源の分光学的・物理学的手法による非破壊評価技術に関する試験研究を行っています。具体的には遠紫外領域から赤外領域の光吸収、ラマン散乱、蛍光指紋等を用いた計測手法、およびケモメトリックスやデータマイニングなどの多変量データ解析手法を組み合わせた定量・判別法を開発しています。また、旧食品総合研究所、非破壊評価研究室の流れを汲む当ユニットでは、近赤外分光法の食品への応用について定期的に講習会を開催するなど、技術の普及に努めています。

主な研究テーマ

可視・近赤外分光法による農産物品質の非破壊計測法の開発

「近赤外分光法を用いるメロン品質(糖度、水浸状果肉)の非破壊計測法」、「可視・近赤外分光法を用いるトマト品質(糖度、リコペン等)の非破壊計測法」を開発し普及しています。トマト等では直接普及作業(非破壊計測法のインストールおよび機差補正、一部の機種に限る)を実施しています。その他、タマネギの内部障害(芯腐れ)、10 g未満のトマトの品質の非破壊計測法、イチゴ糖度の非破壊計測法等の普及も可能です。また、新規に野菜中硝酸イオンの非破壊計測法や非破壊計測機器の小型化に取り組んでいます。

(写真)光の拡散反射を利用したトマト品質の非接触非破壊計測
光の拡散反射を利用したトマト品質の非接触非破壊計測

蛍光指紋と多変量解析による食品の非破壊品質評価手法の開発

蛍光指紋は励起蛍光マトリックス(Excitation Emission Matrix: EEM)とも呼ばれ、試料に照射する光(励起光)の波長を変化させながら、各励起波長における蛍光スペクトルを3次元的に重ね合わせたデータを指します。蛍光指紋の等高線上のパターンは成分に固有であり、複数の成分を含有する食品試料について、特定成分の含量を推定したり、特定の品質を評価したりするのに適した計測法です。現在までに、マンゴーの産地判別、チーズの熟成期間推定、パイ生地中の成分分布可視化などの成果を挙げています。

(画像)蛍光指紋計測の概要
蛍光指紋計測の概要

(画像)マンゴーの産地判別例
マンゴーの産地判別例

生体の非侵襲計測手法の開発

近赤外分光法等を用い、生体の応答を非侵襲、もしくは低侵襲で計測する手法を開発しています。食品の食後血糖値変動の指標であるグリセミックインデックス(GI)は、120分間に7回の採血を要するため、これを軽減する目的で非侵襲血糖値推定法の開発に取り組んでいます。また、近赤外分光法を用いてヘモグロビン関連の血液検査を迅速化する手法を構築したこともあります。

(写真)(画像)自己血糖計で実測した食後血糖値変動と、近赤外スペクトル(非侵襲法)の変動
自己血糖計で実測した食後血糖値変動と、近赤外スペクトル(非侵襲法)の変動。

新しい化学分析手法の開発

非破壊ではなく破壊分析に属しますが、少ない前処理行程で分析可能な分光分析手法の開発を行っています。FT-IRで利用される減衰全反射(ATR)法を遠紫外領域(120-200 nm)にも展開し、溶液中の塩化物イオン、硝酸イオンやアミノ酸、有機酸等の検出を簡便かつ高感度にする研究を進めています。また、金属表面の自由電子と光の共鳴である表面プラズモン共鳴(SPR)が化学センサーとして普及していますが、これを分光技術と組み合わせ、より多くの情報が得られる方法などを開発しています。

(写真)(画像)ATR遠紫外分光装置の光学系、およびアミノ酸の遠紫外分光スペクトル
ATR遠紫外分光装置の光学系、およびアミノ酸の遠紫外分光スペクトル

データマイニングによる品質評価技術の高度化

近赤外分光法等の非破壊計測手法は、特に農業・食品産業分野において原理的な裏付けが不十分なまま現場実装されてきた経緯があります。非破壊計測ユニットではLC/MSやNMR等の機器分析を専門とする内外のチームと連携し、非破壊計測の原理を確立することにも注力しています。データマイニング手法による網羅的解析から指標成分を特定し、生理学的、また物理化学的に妥当と考えられる変数(波長)を選択することで、これまで以上の非破壊計測技術の実現を目指します。さらなる分析精度の向上のため、ネットワーク相関解析やディープラーニングといった、先進的なデータ解析手法の導入にも積極的に取り組んでいます。

非破壊計測法の利用・実装をご希望の方や、データ解析手法(検量モデル、判別モデル作成等)にご興味のある方は、随時お問い合わせ下さい。

メンバー

研究職員:

ユニット長

池羽田晶文(いけはた あきふみ)/物理化学、分析化学

上級研究員

伊藤秀和(いとう ひでかず)/食品化学

上級研究員

蔦 瑞樹(つた みずき)/食品工学

主任研究員

源川拓磨(げんかわ たくま)/ 農業環境工学(主にポストハーベスト分野)

研究員

瀬角 美穂(せすみ みほ)

農研機構特別研究員

李 心悦(り しんゆえ)/食品工学、機能解析

農研機構特別研究員

中島周作(なかじま しゅうさく)/食品工学、微小重力