動物衛生研究部門

家畜における生化学病性鑑定のための臨床生化学的検査マニュアル

X. セルロースアセテート膜電気泳動法による血清タンパク分画測定

測定原理

セルロースアセテート膜を支持体として用いる電気泳動法で、タンパク質をアルブミン及びα、β、γの各グロブリン分画に分離する。これらの分画をセルロースアセテート膜上で染色し、デンシトメーターで各分画の比率を求める。

参考文献
・電気泳動実験法, 21-40, 1989, 文光堂

目次

1.準備物

(1) 装置

  • 泳動槽(セルロースアセテート膜専用)
  • 定電流装置
  • デンシトメーター

(2) 器具

  • 前処理、染色、脱色用容器
  • 試料用ピペット(0.4 μL×10の目盛のガラス製毛細管ピペット)
  • ピンセット
  • 透明化容器
  • ろ紙(大型(60×60 cm)のものを用意し、前処理用、仕上げ用、ブリッジ用など目的に応じて必要な大きさに切る)
  • セルロースアセテート膜
  • はさみ、カッター、鉛筆、定規

(3) 試薬

  • 0.06~0.07Mベロナール・ベロナールナトリウム緩衝液(pH8.6)
  • ベロナール
  • ベロナールナトリウム
  • ポンソー3R
  • トリクロロ酢酸
  • 酢酸
  • デカヒドロナフタレン
  • Bromphenol Blue
  • 蒸留水

2.試薬調整法

(1) 緩衝液

  • 市販の0.06~0.07Mベロナール・ベロナールナトリウム緩衝液(pH8.6)を用いる。
  • 自分で調合する場合は、ベロナール1.62 gとベロナールナトリウム12.38 gに蒸留水を加えて1,000 mLとする。調整後は短期間で使いきる。

(2) 染色液

  • ポンソー3R 0.4~0.8 gとトリクロロ酢酸 6.0 gに蒸留水を加えて100 mLとして、0.4~0.8%のポンソー3R染色液を作成する。

(3) 脱色液

  • 1~3%の酢酸水溶液を作成する(蒸留水で希釈)。

(4) 透明化液

  • デカヒドロナフタレンを使用する。

3.操作手順

(1) 試料

  • 血清を用いる。血漿はフィブリノゲンを析出するので避けたほうがよい。

(2) セルロースアセテート膜の準備

  • 市販のセルロースアセテート膜は各種あり、膜によって試料塗布位置が異なるため注意が必要(各製品の説明書を参照)。
  • 膜を適当な大きさに裁断して、あらかじめ鉛筆で試料塗布位置を記す。この時、膜の上下1 cmは、膜の内部より乾燥の状態が激しいため泳動像に歪みを生じることがあるので使用しない。また、試料成分の拡散を考慮して試料間は少なくとも2 mm以上あけておく必要がある。
    試料塗布位置
  • 準備できた膜を前処理用の緩衝液に浸して十分湿らせる。この時、膜を液面に浮かせ片面から均一に液を染み込ませた後、静かに端から液中に沈める。一気に膜を沈めると膜の気孔中の空気放出が悪く、白斑が生じ泳動像に乱れが生ずるようになるため注意が必要。
    十分湿らせる 一気に膜を沈める

(3) 泳動槽の準備

  • ベロナール緩衝液を泳動槽の両極槽に入れる。市販の縦横23 cm、深さ4 cmの透明アクリル製の泳動槽では、電極槽の目盛り線までそれぞれ約200 mLの緩衝液が必要である。
    泳動槽の両極槽
  • 支持板のセルロースアセテート膜と電極槽の緩衝液をつなげる(ブリッジ)ため、ろ紙2組を用意する。ろ紙を電極槽の中の緩衝液で湿潤させたのち、支持板の表面の端にきっちりと揃えて貼り付ける。このとき支持板とろ紙との間に気泡が入らないように注意する。
    電極槽の緩衝液をつなげる 気泡が入らないよう
  • 準備したセルロースアセテート膜を支持板の上に通電方向に正しく掛け渡す。支持板上の膜をさらに上から押さえ板で固定する。このとき押さえ板は静かに置く程度にする。
    通電方向に正しく掛け渡す

(4) 試料の塗布と電気泳動

  • 血清塗布量は血清タンパク濃度が正常(6~8 g/dL)の場合には、膜幅1 cmあたりデンシトメトリー用には0.4~0.8 μL、抽出用には0.6~1.2μLである。しかし、低タンパク血症あるいは高タンパク血症のような、血清中のタンパク濃度が異なるときは、塗布量を適当に加減する必要がある。
    あらかじめ塗布位置を記入してある膜に、試料塗布用の毛細管ピペットあるいはマイクロピペットを用いて、膜面に対してピペットを垂直に立て軽く先端を膜面にあてて、均一な速度で直線上に塗布する。試料の塗布時、泳動槽の蓋を定規代わりに、また腕の台にすると手が安定して、直線上の塗布に便利である。塗布が終了したら直ちに泳動槽の蓋を閉める。
    先端を膜面にあて
  • 電気泳動の条件であるが、通電は膜幅1 cmに対して0.4~0.8 mAの定電流で、展開距離は膜長5 cmのもので約3cm程度に展開するまで通電する。通電時間は膜幅1 cmあたり0.8 mAの通電量で約45分、0.4 mAで約90分である。なお、泳動時間は緩衝液のイオン強度やpH、温度などによっても影響を受け、高温ほど短縮する。
    泳動時にBromphenol Blueを加えた血清を泳動距離の目印として用いると、展開距離が確認できる。
    泳動距離の目印

(5) 染色、脱色、乾燥

  • 通電が終了したら、膜を直ちにポンソー3R染色液に入れ1分30秒から3分間染色する。染色と同時に固定が行われるので、泳動が終わったまま膜を放置すると、せっかく分離されたタンパク質が拡散し、分離の悪い泳動像となる。
  • 染色が終わった膜は手早く脱色液の中に移す。脱色液は1~3%の酢酸水溶液で、1~2分ずつ3~5回行う。通常、脱色液約200 mLを入れた容器を3個用意し、膜の一端をピンセットでつまみ、膜を静かに揺り動かしながら脱色し、膜を次々と隣の容器に移し、バックグラウンドが白色になるまで脱色を行う。
  • 脱色を終了した膜はろ紙にはさみ軽く押さえて余分の脱色液を除いてから、室温に放置して自然乾燥させたり、60°C以下の加熱で乾燥させる。膜は完全に乾燥させる。
    膜はろ紙にはさみ

(6) デンシトメトリーによる定量

  • 膜をデカヒドロナフタレンに浸して透明化する。透明化はよく乾いた膜を前処理および染色同様に、一度液面に浮かせてから、膜の片面より均一に透明化がゆき渡るようにする。
  • 透明化した膜をガラス板にはさみ、デンシトメトリーを用いて測定する。このとき、膜とガラス板との間に気泡が入らないように注意する。
  • デンシトメトリーは波長490~540 nmで幅1 mm以下のスリットを用いて、各分画帯の中央部で測定する。
    デンシトメトリー 気泡が入らないよう
    中央部で測定

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