動物衛生研究部門

家畜における生化学病性鑑定のための臨床生化学的検査マニュアル

I.原子吸光法による血清中 銅、亜鉛、鉄の測定

測定原理

血清に塩酸を加え加熱すると、セルロプラスミンなどの金属結合蛋白質から金属が解離する。

その後トリクロロ酢酸を加え、蛋白を沈殿させる。遠心分離後、上清を原子吸光分光光度計で測定する

参考文献

  • 医化学実験法講座,臨床化学II, 1973, 中山書店
  • 野本昭三:生体試料中微量金属の測定法, 微量金属代謝, 7:1-10, 1979

目次

1.準備物

(1)機械

原子吸光分光光度計(フレーム型)

(2)試薬

  • 金属標準液(原子吸光分析用)
    銅標準液(1000 mg/L)
    亜鉛標準液(1000 mg/L)
    鉄標準液(1000 mg/L)
  • 塩酸(精密分析用)
  • トリクロロ酢酸(特級)

(3)器具

  • ボルテックスミキサー
  • 小試験管

2.試薬調整法

(1)標準液

  • 銅、亜鉛、鉄 三種混合高濃度標準液
    メスフラスコに各金属標準液を1.0 ml取り、蒸留水で全量を100 mlにする(表-1)

(表-1)

市販品標準液蒸留水濃度
銅標準液
(1000 mg/L)
1.0 ml 全量を100 mlにする 各金属の濃度は1000 μg/dl
亜鉛標準液
(1000 mg/L)
1.0 ml
鉄標準液
(1000 mg/L)
1.0 ml
  • 銅、亜鉛、鉄 三種混合測定用標準液
    高濃度標準液を所定量取り、蒸留水で全量を10.0 mlにする(表-2)

(表-2)

標準液高濃度標準液
(ml)
蒸留水
(ml)
全量
(ml)
最終濃度(μg/dl)
Blank 0.0 10.0 10.0 0
Std 1 0.5 9.5 10.0 50
Std 2 1.0 9.0 10.0 100
Std 3 2.0 8.0 10.0 200
Std 4 3.0 7.0 10.0 300
Std 5 4.0 6.0 10.0 400

(2)試薬

  • 1N 塩酸
    濃塩酸を蒸留水で12倍する
    酸塩基試薬の調整法
  • 20%トリクロロ酢酸溶液
    20 g のトリクロロ酢酸を蒸留水で溶解し、全量を100 mlにする

3.操作手順

(1)サンプル処理

  • 清浄な小試験管に血清 1.0 mlを静かに入れる
  • 1.0 N 塩酸を0.5 ml静かに加える
    直ちにボルテックスミキサーで混和
  • 80~95°Cの温浴(沸騰後火を止めた状態)で2 分間加温
  • 放冷
    室温放置
  • 20%トリクロロ酢酸を 0.5 ml加える
    直ちにボルテックスミキサーで混和
    混和しすぎない
  • 30 分間室温放置
  • 3,000 回転、10 分間遠心する
    蛋白が浮遊しているときは軽く振り再度遠心する(3,000 回転、5 分間)
    上清に蛋白浮遊物があると測定時に吸引チューブを詰まらせる
  • 上清を別の試験管に移す
  • 処理液を原子吸光分光光度計(フレーム型)で測定
    銅は324.8 nm 、亜鉛は213.9 nm 、鉄は248.3 nm の吸収波長を測定する

(2)標準液(濃度 0~400 μg/dl)も血清同様に処理する

標準液は標準曲線の再作成や補正をするので多めに作成する

左側から
1. 血清
2. 血清に 1.0 N 塩酸を 0.5 ml加え混和した試料
3. 20%トリクロロ酢酸を 0.5 ml加え混和した試料
4. 3,000 回転、15 分間遠心分離した試料
5. 上清液
標準液の様子

上清液の移し方

20%トリクロロ酢酸を 0.5 ml加えた後、3,000 回転、15 分間遠心した試料の上清を別な試験管に移す
上清液の移し方

各金属標準液の吸光度

銅標準液(0~400 μg/dl)亜鉛標準液(0~400 μg/dl)鉄標準液(0~400 μg/dl)
銅標準液 亜鉛標準液 鉄標準液

4.補足説明

(1)標準液の吸光度からスタンダード曲線を作成し、サンプルの定量を行う。定量演算機能が付いている機種であれば自動的に測定値を打ち出してくる

(2)試料を10検体測定するごとにスタンダードを測定し検量線の補正を行う

(3)比色法との相関

比色法との相関図

比色法との相関図

比色法との相関図

(4)正常値(当研究所調べ)

ホルスタイン育成牛

  • Cu 70~105 μg/dl
  • Zn 115~160 μg/dl
  • Fe 130~190 μg/dl