動物衛生研究部門

家畜における生化学病性鑑定のための臨床生化学的検査マニュアル

VIII. HPLCによる生体材料中 水溶性ビタミン(チアミン)の測定

測定原理

チアミンは、遊離チアミン(FT)・チアミン1リン酸(TMP)・チアミン2リン酸(TPP)・チアミン3リン酸の形で組織中に存在している。
試料中のチアミンは酸性ホスファターゼによりチアミンリン酸エステルを加水分解し、すべて遊離チアミンにして測定する。
チアミン自体は蛍光を吸収・放出しないため、ポストカラム法を用い、カラム通過後にフェリシアン化カリウムと反応させ、蛍光を検出する。

測定原理

参考文献
・Kimura, M., Fujita,T., and Itokawa, Y. 1982. Liquid-Chromatographic determination of the total thiamine concent of blood. Clin. Chem. 28:29-31
・Horino,R., Itabashi, T.,and Hirano,K.1994. Biochemical and pathological findings on sheep and calves dying of experimental carebrocortical necrosis. J.Vet.Med.Sci.56(3):481-485
・日本ビタミン学会編. 1985. ビタミン学実験法(II)P59-111

目次

1.準備物

(1) 器具・機械

  • HPLC
  • 遠心機
  • ボルテックスミキサー
  • インキュベーター
  • 0.45μmフィルター
  • BCG試験紙
  • 1.5mlエッペンドルフチューブ
  • 1mlシリンジ
  • 試験管
    ※臓器のみ
  • ホモジナイザー
  • 25ml目盛付試験管

(2)試薬

  • 酢酸ナトリウム・3水和物
  • 酸性ホスファターゼ
  • フェリシアン化カリウム
  • NaOH
  • 塩酸チアミン
  • 活性ビタチェンジ(和光純薬)
  • リン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4)

2.試薬調整法

(1)4M酢酸ナトリウム・3水和物

  • 54.43gの酢酸ナトリウム・3水和物にD.Wを70ml程度加え、加温しながら溶解する。
  • 自然冷却後100mlにメスアップする。
  • 室温で保存する。

(2)1%酸性ホスファターゼ溶液

・酸性ホスファターゼ溶液の作成
  • 100mgの酸性ホスファターゼを薬包紙を用いて10mlメスフラスコに入れ、DWを加える。DWは薬包紙内を洗いながら加える。
  • メスフラスコに蓋をし、激しく振って溶解させる。
  • 完全に溶解したら泡が消えるまで4°Cで静置する。
  • 泡が消えたら10mlにメスアップし、転倒混和する。
・パームチットカラムの準備

酸性ホスファターゼに含まれるチアミンを除くため。チアミンは活性ビタチェンジ(パームチット)に吸着される。
※プラスチックカラム使用の場合

  • プラスチックカラムの蓋を開けてフィルターを入れ、底に押し付ける。
  • カラムにDWを満たす。
  • 活性ビタチェンジ約2gをカラムに入れ、底部に沈下させる。
  • 活性ビタチェンジが沈んだらカラムの先端を切り、DWをビタチェンジ層の上1cmほどを残して蓋を閉める。

ガラスカラム使用の場合

  • 活栓付ガラスカラムにひとつまみのガラスウールを丸めて入れ、ガラス棒で底に押し付ける。
  • カラムを洗いながら活栓を閉じ、DWを満たしておく。
  • 活性ビタチェンジ約2gをカラムに入れ、カラムの底部に沈下させる。
  • 活性ビタチェンジが沈んだら活栓を開き、DWをビタチェンジ層の上1cmほどを残して活栓を閉める。
プラスチックカラム

プラスチックカラム
・酸性ホスファターゼの通過
  • 活栓を開いてDWを捨てる。
  • 1%酸性ホスファターゼを少量(カラムが黄色くなるまで)入れる。
  • 2. の溶液を捨てる。
  • 活栓を閉じ、1%酸性ホスファターゼ溶液を入れる。
  • 活栓を開いて1%酸性ホスファターゼ溶液を1滴/3~5秒の速さで滴下させ、容器に入れる。
  • 1~2mlに分注して、冷凍保存する(2~3ヵ月使用可能)。凍結融解は繰り返さないこと。

(3)TCA溶液

全て用時調整。TCAおよびTCA溶液は冷蔵保存する。作成時は手袋使用。

(4)移動相

  • 0.2Mリン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4)
    NaH2PO4・2H2O 31.202g/l

(5)反応液

・15%NaOH
  • 500mlビーカーにNaOHを150g入れ、DWを注ぎ、すぐにガラス棒でかき混ぜる。
  • ラップかパラフィルムで封をして放冷後、1lにメスアップする。
・0.05%フェリシアン化カリウム-15%NaOH
用時調整。ブランクとして15%NaOHを用いる。
  • フェリシアン化カリウム0.4g/800ml15%NaOH
  • 褐色瓶にいれる。
・2%フェリシアン化カリウム-15%NaOH
  • カラムが新しいときや、長期間使用しておらずカラムにDWが入っているときにカラムにフェリシアン化カリウムを吸着させるために使う。
    フェリシアンカリウム4g/200ml15%NaOH

※フェリシアン化カリウム溶液作成に用いたビーカーは水道水ですすぎ、黄色いすすぎ液はそのまま流さず廃液として処理する。

3.操作手順

(1) サンプル処理

・全血

  • 抗凝固剤としてへパリンナトリウムを使用した全血を-20°Cで凍結し、溶血させる(写真1)。
  • 0.7mlの全血を試験管に移し、ボルテックスミキサーにかけながら0.7mlの15%TCAを加え、混合する(写真2、3)。
    タンパク質を取り除く。
  • サンプルをエッペンドルフチューブに分注する(写真4)。
  • サンプルを12,000rpm4°C15 分間遠心する(写真5)。
  • 上清を1mlシリンジを用いて0.45μmフィルターに通す(写真6)。
  • 400μlの上清に75μlの4M酢酸ナトリウムを加え、混合する。pHが4.6~4.8になっていることをBCG試験紙で確認する(写真7)。
    通常pHは4.6~4.8の範囲内であり、調整の必要はない。
  • 1%酸性ホスファターゼ25μlを加え、ボルテックスミキサーで混合する。
  • 37°Cで8時間~10時間反応させる(写真8)。
    チアミンリン酸エステルを遊離チアミンに分解する。
  • HPLCに注入するまでサンプルはアルミホイルでおおって遮光しておく。
写真1
へパリン加全血は-20°Cで凍結し溶血させる。
写真2
ボルテックスミキサーで混和した全血0.7mlを試験管に分注する。測定精度が狂うため、凝固した血液の 塊を吸わないようにする。
へパリン加全血 ボルテックスミキサー
写真3
全血をボルテックスミキサーで混合しながら0.7mlの15%TCAを加える。
写真4
サンプルをエッペンドルフチューブに分注する。
全血をボルテックスミキサー サンプル
写真5
サンプルを12,000rpm、4°Cで15 分間遠心する。
写真6
サンプル上清を0.45μmフィルターに通す。
サンプル サンプル上清
写真7
BCG試験紙でサンプルのpHを確認する。
写真8
37°Cで8~10時間酵素を反応させ、チアミンリン酸エステルを遊離チアミンに分解する。
BCG試験紙 10時間酵素

・臓器(大脳・肝臓・心臓)
脳はホモジナイズする前に紫外線(365nm)で自家蛍光を発するかどうかを確認する。

  • ホモジナイザー容器におおよそ1gをはかりとる。このとき、正確な重量を記録しておく。
  • 10%TCA4mlを加え、ホモジナイズする。
  • ホモジネートを25ml目盛付試験管に移す。5%TCAを加えて25mlにメスアップする。
  • ホモジネートをよく混和したのち、1ml~1.5mlをエッペンドルフチューブに移す。
  • 12,000rpm4°C15分間遠心する。
  • 上清を0.45μmフィルターに通す。
  • 400μlの上清に75μlの4M酢酸ナトリウムを加え、混合する。pHが4.6~4.8になっていることをBCG試験紙で確認する。
    通常pHは4.6~4.8の範囲内であり、調整の必要はない。
  • 1%酸性ホスファターゼ25μlを加え、ボルテックスミキサーで混合する。
  • 37°Cで8時間~10時間反応させる。
    チアミンリン酸エステルを遊離チアミンに分解する。
  • HPLCに注入するまでサンプルはアルミホイルでおおって遮光しておく。
ホモジナイザー ステンレスビーカー ホモジネートしたサンプルは氷上に置く。 25mlにメスアップしたのち、よく混和する。
ホモジナイザー ステンレスビーカー 氷上に置く メスアップ

(2) HPLC

・条件

  • カラム: Shim-pack
  • ガードカラム: shim-packODS(4)1cm×4cm(島津製作所)
  • 移動相: 0.2M/L NaH2PO4
  • 反応液: 0.05%フェリシアン化カリウム-15%NaOH
  • 蛍光検出器(Ex375nm、Em450nm)
  • 流量: 移動相 1ml/min 反応液 0.5ml/min
  • 注入量: 50μl

(3) 検量線の作成方法

・検量線はその都度作成する。

  • 塩酸チアミン(粉末)を5%TCAで溶解し、10,000ng/mlの原液を作成する。原液は遮光ビンに保存する。
  • 原液を5%TCAで希釈し、50ng/ml、20ng/ml、10ng/ml、2.0ng/ml、1.0ng/ml、0.5ng/mlの標準液を作成する。
  • 標準液400μlに4M酢酸ナトリウム溶液75μlとDW25μlを加え、HPLCに注入する。
  • ピーク面積又は高さから検量線を作成する。

(4) 濃度の計算方法

・全血のチアミン濃度(ng/ml)=検量線から算出した値×2
・臓器のチアミン濃度(μg/g)=検量線から算出した値×25×1/1000×1/臓器重量(g)

4.補足説明

(1) ポストカラム法は、HPLCでチアミンとそのリン酸エステルを分離後、別ポンプで送り込んだ反応液により移動相中のチアミン及びその誘導体をチオクロム化し、蛍光検出器で検出する方法である。

ポストカラム法模式図
図:ポストカラム法模式図

(2) 鉛中毒との鑑別診断が必要になる場合がある。
(3) 赤血球に多くチアミンが含まれるため、血液サンプルは全血が最適である。
(4) 検体の処理および測定は、コンタミネーションを防ぐため、欠乏が疑われるものから先に行うこと。
(5) チアミンのクロマトグラフ(※矢印がチアミン)

標準液 10ng/ml 標準液 10
標準液 5ng/ml 標準液 5
正常牛の全血 正常牛の全血
チアミン欠乏牛の全血 チアミン欠乏牛の全血

(6) 大脳皮質壊死症の脳に365nmの紫外線を照射すると、自家蛍光を発する(下写真)。


自家蛍光

(7) 臓器及び血液のチアミン正常値

大脳皮質壊死症 正常値
大脳皮質 <0.3μg/g 0.7~1.5μg/g
大脳髄質 0.3μg/g 0.3~1.0μg/g
肝臓 1.0μg/g 1.0~4.0μg/g
心臓 1.0μg/g 1.0~7.0μg/g
全血 13ng/ml 20~50ng/ml

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