動物衛生研究部門

豚コレラ

疫学

世界における豚コレラは、アジア、ヨーロッパ、中南米の各地域で発生がみられ、2004年以降の発生は韓国、中国、台湾、韓国、インド、インドネシア、マレーシア、ネパール、フィリピン、タイ、ベトナム(以上アジア)、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ブルガリア、マケドニア、ルーマニア、セルビア・モンテネグロ、スロバキア(以上ヨーロッパ)、ブラジル、ベネズエラ、キューバ、ホンジュラス、ニカラグア、ペルー(以上中南米)、そしてアフリカのマダガスカルで報告されている(図1)。わが国においては豚や豚肉等の輸入を認めている国、いわゆる豚や豚肉等に関する第3清浄国(豚コレラ、口蹄疫、牛疫についての清浄国あるいは地域)が定められており、2005年11月現在で32ヶ地域国である。中でもベルギー、フランス、メキシコについては地域を限定してそこからの輸入を認めており、韓国の済州島も清浄地域であった。しかし、2004年11月に済州島において豚コレラウイルス抗体が検出され、しかも豚コレラウイルス(韓国政府の見解では韓国本島で使用のワクチンウイルス)も分離されたために2006年2月現在も当該島からの輸入を一時的に停止している。

わが国では、豚コレラは明治21年(1888年)にアメリカ合衆国から北海道真駒内に輸入された豚において発生した事例が最初とされる。以来、平成4年(1992年)の熊本県での最終発生まで100余年間悩まされることとなった(表1及び図2)。そのアメリカ合衆国では1,000頭は発生がみられる段階にもかかわらず1965年から精力的に撲滅計画が進められ、1976年に豚コレラの撲滅を達成している。豚コレラの伝播は一見健康にみえる感染豚の導入によることが多く、繁殖農場が汚染されると急速に拡大する。感染は感染豚自身の移動の他、ウイルスに汚染された車両や物品、または人の移動による。撲滅前のアメリカ合衆国ではウイルス汚染された食品残さを介した発生が汚染拡大の主な原因とされている。豚の生体、豚肉やその加工品など食品、精子や受精卵、そして食品残さは流通によって遠隔地まで移送されることから、時として国境をも越え、豚コレラ清浄国に脅威をもたらすこととなる。一方、近距離の汚染拡大には人以外にも犬や猫などのペット、鳥類、ネズミ類による生き物による機械的伝播によることもある。野生いのししや野生豚(ヨーロッパでは狩猟のために豚を放獣したり、逃げ出して野生化した豚がいる)で感染環が維持される場合もあり、1993年ドイツではその対策に経口生ワクチン接種、いわゆるベイトワクチネーションを実施した経緯がある。いずれにしても防疫には感染環を断ち切ることが重要であるものの、多くの発生において4割程度は感染源や感染経路が特定されず、また、野生動物でのウイルス防除が問題となっている。

また、牛の病原体である牛ウイルス性下痢(BVD)ウイルスは豚にも感染し抗体を生じさせうる(図3)。豚コレラ清浄国であるオーストラリア、アイルランド、英国、デンマークといった国々でもBVDウイルス抗体は1.6~43.5%の豚で検出されている。牛で使用された器具器材、牛舎に出入りした人との接触、ホエー(乳清)や生乳の豚への給与、BVD生ワクチン接種後の牛との接触等BVDウイルスとの直接あるいは間接感染が指摘されている。今後、わが国でもBVDウイルス感染豚の存在が顕著となってくることから、抗体検査だけといった単一検査に基づく診断をしないよう注意が必要である。

図1.世界における豚コレラ発生国と清浄国(2005年11月)

図1.世界における豚コレラ発生国と清浄国(2005年11月

表1.豚コレラ初発生からの主なできごと

表1.豚コレラ初発生からの主なできごと

図2.日本での発生状況とワクチン接種率

図2.日本での発生状況とワクチン接種率

図3.BVDウイルス実験感染豚の血清中和抗体

図3.BVDウイルス実験感染豚の血清中和抗体

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