生物機能利用研究部門

先進作物ゲノム改変ユニット

役割

ゲノム編集技術は、標的遺伝子を計画的に改変する技術として期待されています。当ユニットではゲノム編集技術の高精度化・効率化を図るとともに、ゲノム情報に基づいた有用遺伝子の改変技術や複数遺伝子の改変による有用形質の集積技術を開発し、新たな育種素材を作出します。

主な研究テーマ

標的変異技術の開発・改良

人工制限酵素によって標的とする遺伝子を切断し、切断部位に変異を導入する技術を標的変異と呼びます。私達は人工制限酵素を植物細胞において効率的に働かせる為の研究を行っています。

(人工制限酵素CRISPR/Cas9を用いたイネの標的変異の実験系)

Cas9タンパク質/ガイドRNAを効率良く発現させるベクター系を開発 し、イネの培養細胞に導入し、さらに植物体を再生させたところ、 標的遺伝子がペアで壊れたときに期待される形質(形態+性質) が見られる植物体を5割以上の効率で得ることが出来ました。 この実験系は、遺伝子の機能解析や、農業・産業上不要な遺伝子の機能を失くすのに有効です。

標的組換え技術の開発・改良

標的遺伝子をお手本となるDNAを用いて改変する技術を、標的組換え(ジーンターゲッティング)と呼びます。標的組換えは標的遺伝子を設計図通りに正確に改変できる技術であることから、非常に有望な技術ですが、植物では未だ汎用的な技術になっていません。私達はイネをモデルにこの技術の開発を行い、その成果を他の重要作物に適用する研究を行っています。

(イネにおいて必要な変異のみを正確に導入する技術を開発)

標的組換えが生じた細胞を選抜するのには、ポジティブ・ネガティブ選抜法という手法が使われます。この方法は、ノックアウトマウスの作成にも使われている有名な方法ですが、ポジティブマーカー遺伝子が標的遺伝子上に残ります。私達は昆虫の動く遺伝子piggyBacが植物でも動くことを発見しました。すなわち、piggyBacを利用して標的遺伝子からポジティブマーカー遺伝子を完全に除去し、最終的に必要な変異のみを標的遺伝子上に導入する技術を植物で初めて開発しました。

ゲノム編集技術を活用した育種素材の開発

標的変異技術や標的組換え技術の活用により、農業・産業上有用な育種素材の開発を行っています。

(標的組換えによる除草剤耐性イネの開発)

標的組換えを利用して、イネのアセト乳酸合成酵素(ALS)遺伝子に除草剤(BS剤)耐性を付与する2点変異を導入することに成功しました。この2点の変異はイネのBS耐性培養細胞で見出されたのですが、培養細胞は再生能力を失っており、標的組換えを行うことで初めてBS剤耐性の植物体ができました。得られたイネは高濃度のBS剤に耐性を示し、耐性のレベルは、除草剤耐性型のALS遺伝子を過剰発現させたイネよりはるかに高く、内在性遺伝子に耐性変異を直接導入することの有効性を示しています。

(標的組換えによるトリプトファン高蓄積イネの作出)

アントラニル酸合成酵素(OASA2)はトリプトファン合成系の鍵酵素であり、トリプトファンによるフィードバック制御を受けます。標的組換えによりフィードバック制御に対して感受性を下げる変異と酵素活性を向上させる変異を導入したところ、お米の中のトリプトファン蓄積量を230倍に高めることに成功しました。お米を飼料にする場合、トリプトファンが不足していますが、この技術を飼料米に活用することで、トリプトファン添加の必要の無い飼料米の育成が期待されます。


メンバー

ユニット長
土岐精一
主席研究員
小川泰一
廣瀬咲子
主任研究員
宮原研三
雑賀啓明
遠藤真咲
任期付き研究員
横井彩子

メンバーの主要成果 (プレスリリースした成果など)

*「作物の遺伝子を思い通りにピンポイントで改変することに世界で初めて成功ーデザイン通りの品種改良が可能にー」
2007年9月13日プレスリリース、2007年度農林水産分野の研究10大成果10位
*「植物の特定の遺伝子を狙って働きをなくす新技術を開発ー育種の効率を画期的に向上する技術として期待ー」
2010年9月6日プレスリリース、米国科学アカデミー紀要(PNAS)にBreaking Newsとして紹介される。
*「不要な配列を残さない遺伝子改変技術をイネで開発ー植物では世界で初めて実現ー」
2014年12月25日プレスリリース 植物で必要な変異のみを導入する普遍的な技術を初めて開発

Highly specific targeted mutagenesis in plants using Staphylococcus aureus Cas9. Kaya H, Mikami M, Endo A, Endo M, Toki S. Sci Rep. 2016 26;6:26871.

Precision Targeted Mutagenesis via Cas9 Paired Nickases in Rice. Mikami M, Toki S, Endo M. Plant Cell Physiol. 2016 57(5):1058-68.

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A Defect in DNA Ligase4 Enhances the Frequency of TALEN-Mediated Targeted Mutagenesis in Rice. Nishizawa-Yokoi A, Cermak T, Hoshino T, Sugimoto K, Saika H, Mori A, Osakabe K, Hamada M, Katayose Y, Starker C, Voytas DF, Toki S. Plant Physiol. 2016 170(2):653-66.

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A Universal Positive-Negative Selection System for Gene Targeting in Plants Combining an Antibiotic Resistance Gene and Its Antisense RNA. Nishizawa-Yokoi A, Nonaka S, Osakabe K, Saika H, Toki S. Plant Physiol. 2015 169(1):362-70.

Parameters affecting frequency of CRISPR/Cas9 mediated targeted mutagenesis in rice. Mikami M, Toki S, Endo M. Plant Cell Rep. 2015 34(10):1807-15

Multigene knockout utilizing off-target mutations of the CRISPR/Cas9 system in rice. Endo M, Mikami M, Toki S. Plant Cell Physiol. 2015 56(1):41-7.

Whole-genome analysis of herbicide-tolerant mutant rice generated by Agrobacterium-mediated gene targeting. Endo M, Kumagai M, Motoyama R, Sasaki-Yamagata H, Mori-Hosokawa S, Hamada M, Kanamori H, Nagamura Y, Katayose Y, Itoh T, Toki S. Plant Cell Physiol. 2015 56(1):116-25.

Precision genome editing in plants via gene targeting and piggyBac-mediated marker excision. Nishizawa-Yokoi A, Endo M, Ohtsuki N, Saika H, Toki S. Plant J. 2015 81(1):160-8.