農村工学研究部門

地下水資源ユニット

担当研究概要

わが国の年間の農業用地下水利用量は28.7 億m3(農林水産省:2011)に上ります。農地の持つ多面的機能のうち地下水かん養機能は、かんがい水や雨水が農地から地下浸透して地下水に付加され、これが水源として利用されるものですが,気候変動による気象,水象の変化によりこの機能が劣化した場合,農村地域を越えた広い流域へその影響が及びます。このため,当ユニットでは,健全な水循環システムの維持を図るために,広域的な地下水流動系についての調査・研究を行い,気候変動の影響評価や対策技術の開発、地下水流動機構解析手法の開発を行っています。

また,2011年3月11日に発生した東日本大震災によって引き起こされた福島第1原子力発電所の損傷により環境中に放射性物質が放出され、東北、関東地方の一部では土壌や農産物に放射性物質が検出されており、その対策は急務とされています。当ユニットではこれまで空間ガンマ線による地盤の風化度評価法や車載型γ線スペクトロメトリーによる広域U-Th-K濃度分布マッピング手法等を開発してきており、蓄積した技術を応用して放射性物質の環境中の分布状況の把握、モニタリング手法の確立、農地土壌からの除去技術の開発を行ってきました。

研究のキーワード:地下水、水資源、水循環、気候変動、地下ダム、淡水レンズ、扇状地、地すべり、湿原、放射性物質モニタリング、除染

1)地下水の流動機構解明・保全に関する研究

 写真1  水頭拡散率を推定
1本の井戸による二重揚水技術。2つの異なる深度から同時に揚水し、帯水層内の水質の良い領域と、良くない領域の両者の混合を抑えることが可能。 潮位の伝播により変動する地下水位を観測し、透水係数などの帯水層の性質を表す指標の一種である水頭拡散率を推定。
 貯水量・水質予測モデルの概要  地下水の滞留時間を推定
地下ダム流域を対象とした貯水量・水質予測モデルの概要。水の挙動をタンクモデルで表現し、窒素の移動や化学変化に関する計算を組み込んだモデルを組み合わせている。 六フッ化硫黄、放射性トリチウムを指標とし、中山間地域斜面の地下水流動場において、現代から数十年程度の近年の地下水の滞留時間を推定。
 貯水量・水質予測モデルの概要
CSMT(人工送信源地磁気地電流)法による高効率地下水探査システムの概要。1回の送信に対し複数点で受信することで効率的な電磁探査が可能になるとともに、ノイズ対策を強化し適用範囲を拡大している。 開発したシステムによって塩水化した地下水の分布を推定した結果。上記の面積375ha、深度300mの範囲は最短で4日間で電磁探査可能(送信源の設置・撤収にそれぞれ1日、測定に2日)。

2)農地における放射性物質モニタリング・除染技術に関する研究

 測定装置  除染後の測定例
農地やその周辺に含まれる放射性物質からのガンマ線を離れた位置で検出し、空間線量率に換算する測定装置。従来の携帯用空間線量率計に比べ高感度であり、短時間で測定を行うことが可能。 除染後の測定例:代かき除染区、削り取り除染区ではそれぞれ除染試験を実施。除染方法の違いにより、空間線量率の低下度が異なる様子をモニタリング(福島県内 除染実験圃場)。

スタッフ

ユニット長 石田 聡
(理学博士,第一種放射線取扱主任者)

Tel:029-838-7200

除染技術・放射能測定技術の開発、地下ダム、淡水レンズ、扇状地、湿原、地すべり地などの地下水流動に関する研究と気候変動の影響評価

主席研究員

中里 裕臣
(理学博士)

Tel:029-838-7539

地すべり地、関東平野などの地下水流動に関する研究、物理探査による地下水調査技術の開発

主任研究員

白旗 克志
(理学修士,第一種放射線取扱主任者)

Tel:029-838-7539

気候変動や潮汐が島嶼の淡水レンズ等の地下水資源に与える影響の評価技術の開発、除染技術・放射能測定技術の開発

主任研究員

土原 健雄
(農学博士)

Tel:029-838-7200

広域的な水循環過程における地下水の流れ・地表水と地下水の交流現象の評価、除染技術・放射能測定技術の開発

研究課題名

1)

極端現象が地下ダムや淡水レンズに及ぼす影響評価法の開発【農水省委託プロ】

平成25~29年度

2)

広域地下水流動系を考慮した地すべり地の豪雨に対する脆弱性評価【農水省委託プロ】

平成25~29年度

3)

淡水レンズ地下水の流動マントル構造の高密度水温観測による解明【科研費】

平成26~28年度

4)

島嶼域における淡水レンズ地下水の塩水化とその回復に関する研究【科研費】

平成27~29年度

5)

酸素同位体の異常値を指標とした新たな地表水・地下水の起源推定法の開発【科研費】

平成27~29年度

6)

津波被災農地の地下水利用と除塩の両立を目指す二重揚水技術の開発【住友財団環境研究助成】

平成27~29年度

7)

沿岸域地下水の水位・水質の変動機構の解明と効率的な取水・管理技術の開発【交付金】

平成28~32年度

8)

同位体等の環境指標モニタリング技術や地下探査技術を用いた地下水の動態・賦存状況解明手法の開発【交付金】

平成28~32年度

9)

ガンマ線測定技術を用いた環境中の放射性物質検出手法の開発【交付金】

平成28~29年度

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 研究成果

<成果情報>

1)

帯水層の塩水化を抑制可能な単孔式二重揚水技術

平成26年度農村工学研究成果情報,5-6.

2)

地下水位の潮汐応答の分析による帯水層の水頭拡散率推定手法

平成26年度農村工学研究成果情報,7-8.

3)

六フッ化硫黄を用いた中山間地域斜面における地下水の年代推定法

平成26年度農村工学研究成果情報

4)

高能率深層地下水調査のための同時多点受信CSMT探査システム

平成26年度農村工学研究成果情報,43-44

5)

環境同位体を用いた閉鎖性湖沼の蒸発及び地下水流出割合の推定法

平成25年度農村工学研究成果情報,51-52

6)

農地土壌の放射能分布を推定する空間ガンマ線測定技術

平成25年度農村工学研究成果情報,69-70

7)

淡水レンズ地下水厚の経時変化を把握する深度別電気伝導度測定法

平成24年度農村工学研究成果情報,7-8

8)

気候変動下における地下ダム貯水量および硝酸性窒素濃度を予測するモデル

平成24年度農村工学研究成果情報,9-10

9)

耕起した放射能汚染水田を除染するための水による土壌攪拌・除去技術

平成24年度農村工学研究成果情報,79-80

10)

水田土壌における深度別および粒径クラス別の放射性セシウム濃度

平成23年度農村工学研究成果情報,79-80

11)

用水を用いた土壌攪拌工法による水田の除染

平成23年度農村工学研究成果情報,81-82

12)

環境同位体を用いた水田主体扇状地における地下水の涵養源分類法

平成22年度農村工学研究所研究成果情報,5-6

13)

複数の物理探査手法を用いた島嶼部における淡水レンズ調査法

平成22年度農村工学研究所研究成果情報,7-8

14)

電磁探査による効率的な地下水塩淡境界深度測定法

平成21年度農村工学研究所成果情報,11-12

15)

簡易モニタリングを用いた農地から地下水への農薬負荷推定法

平成20年度農村工学研究所成果情報,11-12

16)

琉球石灰岩帯水層における浸透水の挙動特性

平成19年度農村工学研究所成果情報,1-2.

17)

複合トレーサーを用いた亀裂性岩盤における地下水流動調査手法

平成19年度農村工学研究所成果情報,41-42.

18)

河川水基底流の安定同位体比を用いた湿原湧水の影響圏調査法

平成19年度農村工学研究所成果情報,43-44.

19)

地下ダム流域における地下水質変動の予測法

平成19年度農村工学研究所成果情報,45-46.

20)

排水河川の湿原への影響を評価する簡易水収支モデル

平成19年度農村工学研究所成果情報,47-48.

21)

木曽川から濃尾平野への誘発涵養現象

平成18年度農業工学研究所成果情報,65-66.

22)

亀裂性岩盤を流れる地下水汚染物質の流動特性

平成17年度農業工学研究所成果情報,37-38.

23)

洪積台地上の畑地からの浸透する卓越流の動態解明

平成17年度農業工学研究所成果情報,39-40.

24)

ため池の地下水涵養機構の解明

平成17年度農業工学研究所成果情報,41-42.

研究論文等

1)

吉本周平,浅井和由,土原健雄,白旗克志,石田 聡(2016):琉球石灰岩分布地域における淡水レンズ中の地下水滞留時間の推定 ―地下水中の六フッ化硫黄の濃度,硝酸イオンの安定同位体比の測定による検討―,農業農村工学会論文集(印刷中)

2)

Shirahata, K., Yoshimoto, S., Tsuchihara, T., Ishida, S. (2016): Digital filters to eliminate or separate tidal components in groundwater observation time-series data, JARQ, 50(3)(印刷中)

3)

Shirahata, K., Yoshimoto, S., Tsuchihara, T., Ishida, S. (2016): Improvements in a simple harmonic analysis of groundwater time series based on error analysis on simulated data of specified lengths, Paddy and Water Environment, Doi: 10.1007/s10333-016-0525-3.

4)

石田 聡,有田智也,曹 英傑,唐 常源,白旗克志,土原健雄,吉本周平(2016):模擬帯水層内に淡水レンズを再現する室内実験,農村工学研究所技報,218(印刷中)

5)

石田 聡,吉本周平,白旗克志,土原健雄(2015):沖縄県宮古島砂川地下ダムにおける地下水中の硝酸性窒素濃度分布と地下水流動に関する一考察,地下水学会誌,57(4),pp.515-532.

6)

吉本周平,土原健雄,白旗克志,石田 聡(2015):琉球石灰岩を帯水層とした塩水侵入阻止型地下ダムの貯留域における残留塩水塊の分布と挙動,土壌の物理性,131,pp.37-43.

7)

石田 聡,吉本周平,幸田和久,小林 勤,白旗克志,土原健雄(2015):トンガ王国ババウ島およびリフカ島における淡水レンズ地下水塩水化の要因と課題,農村工学研究所技報,217,pp.13-28.

8)

吉本周平,澁谷達也,酢谷 岳,黒田清一郎,土原健雄,白旗克志,石田 聡(2015):浸透型洪水調整池における湛水時の浸透水の地下水環境への影響 ―地下水中の主要イオン組成とラドン濃度を指標としたモニタリング方法の検討―,農村工学研究所技報,217,pp.1-10.

9)

土原健雄,奥山武彦,吉本周平,白旗克志,石田 聡(2014):六フッ化硫黄を指標とした山形県七五三掛地すべり地における地下水の年代推定,農業農村工学会論文集,294,pp.65-74.

10)

石田 聡,白旗克志,土原健雄,吉本周平(2014):帯水層の塩水化を抑止する深度別揚水手法,地盤工学会誌,62-11/12,pp.682-683.

11)

白旗克志,石田 聡,吉本周平,土原健雄(2014):地下水位の潮汐応答の分析による淡水レンズ帯水層の水理定数推定手法,農村工学研究所技報,215,pp.141-154.

12)

Yoshimoto, S., Tsuchihara, T., Ishida, S., Imaizumi, M. (2013): Development of a numerical model for nitrates in groundwater in the reservoir area of the Komesu subsurface dam, Okinawa, Japan, Environmental Earth Sciences, 70(5), pp.2061-2077.

13)

石田 聡,吉本周平,白旗克志,今泉眞之,土原健雄(2013):深度別電気伝導度連続測定による淡水レンズ動態把握手法,農村工学研究所技報,214,pp.163-173.

14)

石田 聡,吉本周平,小林 勤,幸田和久,中里裕臣 (2013): 小島嶼での淡水レンズ地下水調査における物理探査の適用性について,地盤工学会誌,61(6),pp.2-5

15)

石田 聡,白旗克志,吉本周平,今泉眞之 (2013): 淡水レンズ地下水厚の経時変化を把握する深度別電気伝導度測定法, 農村工学研究所技報, 214, pp.163-173

16)

吉本周平,今泉眞之,石田 聡,小倉力,奥島修二 (2013): NaI(Tl)シンチレーション検出器による屋外測定での放射性セシウム計数の解析法, 農村工学研究所技報, 214, pp.175-196

17)

中達雄,若杉晃介,原口暢朗,奥島修二,塩野隆弘,石田聡,吉本周平,今泉眞之 (2012): 農地の物理的除染対策技術の開発, 水土の知, 80(7), pp.19-22

18)

奥島修二,塩野隆弘,石田 聡,吉本周平,白谷栄作,濵田康治,人見忠良,樽屋啓之,今泉眞之,中達雄 (2012): 浅代かき強制排水による水田土壌中の放射性物質除染法の有効性に関する事前検討, 土壌の物理性, 121, pp.43-48

19)

Yoshimoto, S., T. Tsuchihara, S. Ishida, T. Masumoto and M. Imaizumi (2011): Groundwater flow and transport and potential sources of groundwater nitrates in the Ryukyu Limestone as a mixed flow aquifer in Okinawa Island, Japan, Paddy and Water Environment, 9(4), pp.367-384

20)

増本隆夫,石田 聡 (2011)::気候変動が水・土地資源に及ぼす影響評価と対策技術の開発研究,農業農村工学会誌,79(12),pp.15-18

21)

土原健雄,吉本周平,石田 聡,今泉眞之(2011),環境同位体から見た沿岸湖沼群の閉鎖性の検討とその水文特性,農業農村工学会論文集, 257,pp.23-32

22)

石田 聡,土原健雄,吉本周平,皆川裕樹,増本隆夫,今泉眞之(2011):沖縄県多良間島における淡水レンズ賦存量の推定, 農業農村工学会論文集,9(4),pp.367-384

23)

土原健雄,吉本周平,石田 聡,今泉眞之(2011),環境同位体を指標とした扇状地地下水の涵養源の分類,水と土,164,pp.87-89

24)

石田 聡,土原健雄,吉本周平,今泉眞之(2011):電磁探査法を用いた地下水塩淡境界測定, 水と土,163,pp.73-75

25)

石田聡,吉本周平,小林勤,幸田和久,土原健雄,中里裕臣,増本隆夫,今泉眞之(2011):物理探査手法を用いた地下水中の塩淡境界測定, 農村工学研究所技報, 211, pp.9-20

26)

土原健雄,吉本周平,石田 聡,今泉眞之(2011):水田主体扇状地における地下水質及び同位体分布特性と涵養源の分類, 農村工学研究所技報, 211, pp.21-34.

27)

吉本周平,土原健雄,石田 聡,今泉眞之(2011):ラドン吸収フィルムによる地下水ラドン濃度測定の適合性, 農村工学研究所技報, 211, pp.35-43

28)

Ishida, S., S. Yoshimoto, T. Tsuchihara and M. Imaizumi (2011): Sustainable use of groundwater with underground dams, JARQ, 45(1), pp.51-61

※以前の論文,口頭発表等につきましては「その他」をご覧下さい.

特許

1)

パイプラインの流体漏洩探査システムとその探査方法

第3848948号

2)

プラスチックシンチレータを検出器とした放射能探査装置

特開2009-198365

3)

農地土壌に含まれる汚染物質の除去方法および除去装置

特願2012-115080

4)

地表の放射線計測装置およびその装置を用いた放射線計測手法

特願2014-101659

5)

地下水揚水システムおよびそのシステムを用いた揚水方法

特願2014-212060

プレスリリース

1)

沿岸地域の広域地下水調査のための高能率電磁探査システムを開発

2015年
10月14日

2)

地下水質を保全する二重揚水技術を開発

2015年
3月24日

3)

農地や環境中の放射線を迅速に測定する装置の開発

2015年
2月5日

その他