農村工学研究部門

農村工学研究部門メールマガジン

メールマガジン第5号(2010年8月号)

目次

1)トピックス

■高校生の底力サマー・サイエンスキャンプ2010を振り返る

当所が今年のテーマに掲げた「バイオマスの力~輝くまちづくり、そして地球を守る~」(7月28日~30日)に、全国から高校生6名が集まりました。最初のうちは声も小さく、遠慮がちでしたが、全員が何かを掴んでいこうとする意欲に溢れていました。

最終日の報告会は、発表の方法や進め方を彼らに任せました。彼らは私たちの提案にとまどいながらも、自分たちが何を感じ何を考えたかを、自分たちの言葉と身振りで見事に表現しました。彼らの内に秘めたパワーに触れることができ、私たちも充実感を味わうことができました。

農村総合研究部 資源循環システム研究チ-ム長 柚山義人

(関連URL)http://www.naro.affrc.go.jp//publicity_report/pr_report/laboratory/nkk/028341.html
※当該HP上で、キャンプ2日目の動画をご覧頂けます。

■つくばをバイオマスタウンのメッカにワークショップの開催

8月4日に、つくば市役所会議室において、つくばバイオマスワークショップ2010が開催されました。筑波研究学園都市交流協議会「つくば3Eフォーラム委員会」バイオマスタスクフォースが主催し、学生や一般市民ら44名が参加しました。

バイオマスタウンの実現には、行政、研究者、市民の協働が必要です。つくば市におけるバイオマス利活用を進めるため、市民目線での取り組みと、5~10年後に先端技術を実用化する社会実験という2本立てで、アイデアや情報を出し合いました。この活動の成果が、つくば市の施策につながるように、私は座長として運営に当たっています。

農村総合研究部 資源循環システム研究チ-ム長 柚山義人

(関連URL)

■第19回世界土壌科学会議に参加

8月1日~6日に、オーストラリアのブリスベンで開催された第19回世界土壌科学会議に、私と同室の亀山幸司主任研究員が参加し、土壌中の肥料成分のモニタリング手法やバイオマスを活用した土壌改良方法についてポスター発表を行いました。

この国際会議は、4年に一度、世界中の土壌科学者が集う大会です。今回の会議では、食料安全保障、気候変動、生物多様性の確保という地球規模の問題に対し、土と水の保全管理の面から土壌科学がどのように貢献できるかが議論されました。

農地・水資源部 農地工学研究室 主任研究員 宮本輝仁

(関連URL)http://www.naro.affrc.go.jp/nire/mail_magazine/files/mm05_01-03.pdf

■農工研オリジナルのWeb気象台を開設

当所敷地内で観測している気象観測データを、インターネットを介してリアルタイムで配信するサービスを開始しました。気象庁などで観測していない蒸発量、地温、土壌水分量、4成分放射量などの貴重なデータを得ることや、地表面の熱収支を詳細に把握し農地からの実蒸発散量を推定することができます。

この気象観測システムは、水文研究に必要な基礎データを安定的に継続して収集することを目的として、昨年度に整備(更新)されました。長期間のデータ蓄積により、気候変動研究への貢献も期待できます。今般、観測データを利用させてほしいという多方面からの要望に応え、表示を工夫して公開することにしました。

農地・水資源部 水文水資源研究室 研究員 吉田武郎

(関連URL) http://150.26.59.72

2)イベントのご案内

■農業農村整備のための実用新技術説明会の開催(第2報)

9月29日の13時00分~16時30分に、全国町村会館(東京メトロ永田町駅から徒歩1分)において、農業農村整備の現場ですぐに使える当所の研究成果を紹介します。

オープニングセッションとして、「農村工学分野における開発力の強化と技術経営の考え方」と題する基調講演(13時10分~14時30分)を設けました。講演は、研究開発領域の経営コンサルタントとして30年の実績をお持ちの(株)コンサルテイメント代表取締役高橋昭夫氏にお願いしました。お誘い合わせの上お越し下さい。

(担当)技術移転センター 移転推進室長 丸茂伸樹

(参加申し込み・お問い合わせ先) E-mail:iten◎ml.affrc.go.jp
※メールを送信する際は「◎」を「@」にしてください

■農工研が開発した防災技術の展示・「防災週間」

防災週間の取組として、食と農の科学館(茨城県つくば市観音台3-1-1)において、当所が対応してきた災害支援と独自に開発した防災技術を展示(8月30日~9月30日)します。是非お立ち寄りください。

農研機構は、災害対策基本法に基づく指定公共機関です。農林水産省、県等から被災調査や対策指導等の技術支援要請を受け、農村工学研究所が機動的に対応しています。

企画管理部 防災研究調整役 木下勝義

<一口メモ>
防災週間とは、毎年9月1日の「防災の日」を含む8月30日から9月5日まで1週間の運動期間。1982年5月11日に閣議了承され、政府、地方公共団体等防災関係諸機関をはじめ、広く国民が災害についての認識を高めることなどを目的としています。9月1日が防災の日として選ばれた理由は、関東大震災(1923年)が発生した日を忘れないためです。

3)新しい技術や研究成果の紹介

■古いフィルダムをリニューアル新工法のPR

我が国には古いフィルダム(堤高15 m以上)が約1、800 箇所あり、堤体の安定性不足や漏水等の問題を抱えています。フィルダム(filldam)とは、ダムの型式の一つで、土砂や岩石を盛り立てた構造物です。その中で、水を通し難い材料を主体に築造したものを均一型として分類しています。ため池の多くは均一型です。

近年、フィルダム現場の近くで、改修に必要な良質の土を入手できなくなってきました。その一方で、フィルダムには、池に流れ込む土が厚く堆積し、貯水容量の減少や水質の悪化などの問題を起こしています。フィルダムの適切な維持管理のためには、浚渫して捨土する必要がありますが、捨てると周辺の環境が悪化するため、どの地区も処理に困っています。

そこで私たちは、池の底に堆積した土を一度固め、そして所要の強度と遮水性をもつ良質な土に変換し、フィルダムの改修工事を可能にする「砕・転圧盛土工法」を開発しました。これまでため池の改修に適用し、その効果は実証済みです。均一型フィルダムの改修と底泥土の堆積でお悩みの現場はご相談下さい。

施設資源部 土質研究室長 堀俊和

(関連URL)

■「水路の改修方法(特許第4536702)」の発明

本発明は、老朽化した水路トンネルや開水路に、所定の長さの新管を順々に挿入・接続しながら、全く新しいパイプライン(水路)を形成し、劣化した水路の機能を改善する工法です。新たに挿入したパイプラインと既設水路トンネルや開水路との隙間にはグラウト材を充填して、管の安全性を高めます。

グラウト材は、パイプの内側に設けた注入口から充填します。通常必要なパイプの中間部仕切り壁は必要なく、新配管の端部から他方の端部に向かってグラウト材を注入することが可能です。また、水中不分離性のグラウト材を用いれば、既設管に溜まり水が残っている場合でも安定して充填できます。

施工性と安全性に優れ、工事期間を短縮できます。また、高圧の水路にも適用できます。詳細は、以下に紹介する文献をご覧いただくか、直接お問い合わせ下さい。

施設資源部長 毛利栄征

<補足>
グラウト(grout)とは、空隙目地、ひび割れなどの細かい隙間を充填するために、注入用材料として用いるセメントペースト又はモルタルのこと。

(関連URL)

4)メッセージ

■水土里ネット愛谷堰菅波孝光様より「食料自給率の向上を下支えする農業水利施設と革新的技術開発」

食料自給率を高め、国民に良質の食料を供給することが、我が国の繁栄の基盤として重要であるということを、国民にもっと理解してもらう努力が必要ではないだろうか。

担い手に農地を集積させ、直接支払いにより担い手を支援し、その結果として食料自給率を向上させようとする施策を、私は評価するし賢明の選択と思っている。新たな農政への転換はその第一歩と思うが、土地改良事業費の削減により、老朽化した農業水利施設の更新や維持管理が困難になるという事態が起きることは絶対あってはならない。

なぜなら、かんがい用水の安定供給や排水機能の確保は農業に必須であり、重要なライフラインでもあり、農業水利施設が本来の機能を発揮し続けなければ、将来に展望のもてる農政の実現はあり得ないと考えるからである。

ただし、農業収入に比較して、農業水利施設の維持や補修・更新費用が嵩むというのも事実である。この分野において、抜本的な技術革新が必要ではないか。農工研には、低コストで長持ちする技術開発を期待したい。一方、土地改良区は、食料を生産するためになくてはならない水路や農地の整備と、豊かで美しい農村の維持形成という使命を高い志をもって果たさなければならない。昨今では、地域住民に農業水利施設の多面的機能や役割を啓蒙することも重要な使命と考えているところである。

(関連URL)http://www8.plala.or.jp/aiya/

5)水土里のささやき

■農業用パイプとしてポリエチレン管の適用性を教えて下さい

北海道T社太田雅文様

水田の田畑輪換耕地化を進めるためには、用水路体系のパイプライン化が有効です。現在採用されている管種は強化プラスチック複合管(FRPM管等)及び硬質塩化ビニ-ル管ですが、これからのパイプラインの管種としてポリエチレン管が最適と考えています。

私の経験では、軟弱泥炭質に有効で、構造物の前後への可とう管や曲部のスラストブロックが不要、耐摩耗性が大きく、流速係数の経年変化も他管種と比べて少ない。また、阪神淡路大震災・中越地震などでもその有効性が報告されており、耐用年数も優れています。貴所の研究対象としてどのようにお考えでしょうか。

□お答えします。(施設資源部長 毛利栄征)

ご指摘のポリエチレン管は、優れた特性を活かし、農業用パイプラインとして実績があります。ただし、クリープ変形(一定の荷重下で時間とともに進行する永久変形)にどのように対処するかなどの検討が必要です。詳細は以下のURLをご覧下さい。

(関連URL)http://www.naro.affrc.go.jp/nire/mail_magazine/files/mm05_05-01.pdf

■埋設管の漏水箇所を発見する最新の調査方法を教えて下さい

関東農政局神流川沿岸農業水利事業所冨田泰賢様

例えば、道路の下に埋設した管で漏水が発生した場合に、掘削せずに、漏水(破損)箇所等を特定できるでしょうか。管の内側からカメラによって破損箇所を見つける方法や、外側から超音波を使って見つける方法は聞いた事があります。ただし、管内の水を抜いたり、掘削を伴うと、管理や補修において不都合です。

□お答えします。(施設資源部長 毛利栄征)

漏水箇所を特定するため、様々な技術が開発されています。ただし、いずれも一長一短あり、その適用に当たっては、調査現場の条件の他に、調査距離、漏水量、水圧などを勘案し、慎重に検討して下さい。詳細は以下のURLをご覧下さい。

(関連URL)http://www.naro.affrc.go.jp/nire/mail_magazine/files/mm05_05-02.pdf

6)最新の「農工研ニュース」より

■農地を守れ!耕作放棄が土壌侵食を誘因

土壌侵食とは、降雨や風の作用で土壌が流れ出てしまうことであり、農地の表層の土が失われ続けると、作物収穫量がどんどん減少してしまいます。また、流出した土壌が、下流の河川や湖沼・貯水池に堆積すると、洪水の原因となったり、土壌と一緒に流出する栄養分が原因で水質汚濁を引き起こしたりします。日本は雨が多く、傾斜した土地も多いなど、土壌侵食が起こりやすい自然条件におかれています。また、農家の高齢化等が原因で耕作を断念し、放棄される農地が増えているため、このままでは荒れた農地から大量の土砂が流出すると考えられます。

そこで私は、現時点の農地の土壌侵食量と、仮に中山間地の農地が耕作放棄された場合の土壌侵食量を、広域で算出する評価方法を開発しました。土壌侵食量が増大する恐れのある地域において、耕作放棄地の拡大を抑止し、将来の土壌侵食による被害を未然に防ぐ有効な対策を講じるなど、地方公共団体の計画立案に役立つと考えています。

企画管理部 業務推進室長 小川茂男

(関連URL)http://www.naro.affrc.go.jp/nire/mail_magazine/files/mm05_06-01.pdf

7)農村工学研究所の動き

■インターンシップ技術講習生(第一期)のつぶやき

第一期(7月26日~8月6日)の募集で採用された大学3年生6名の技術講習が終了しました。指導に当たった研究者から実務の一部を任され、農村工学研究という職業を体験しました。彼らが社会人になっても、農村工学分野との関わりの中で応援していきたいと思います。提出されたレポートの中から一部抜粋しました。

技術移転センター 移転推進室 交流チーム長 高梨典子

(関連URL:感想)http://www.naro.affrc.go.jp/nire/mail_magazine/files/mm05_07-01.pdf

8)ズームイン

■耕作断念の現実に向き合い再生を目指す補助金から補助人へ

福島県喜多方市が、集落支援員制度を導入(H20.8月)し、農山村で高齢化の進む10集落の現状把握(集落カルテ作成)と維持活性化(再生)に取り組むため、農村地域計画に関わる専門家の助言と指導を当所に要請してきました。

集落支援員とは、総務省の過疎問題懇親会が提言したもので、これを制度化するため、同省が財政措置を講じ、都道府県に設置を通知(H20.8月)しました。喜多方市は、いち早くこの制度を導入し、5名の支援員と専任の市職員が協働で取り組む態勢をつくりました。その活動が今、全国から注目されています。

研究で取り組んでいる、「耕作放棄地の発生を防止するための土地利用計画手法」や「農村コミュニティの衰退によって維持管理が困難になった地域資源の管理手法」を実証的に深化させるためにも、私は講師として当市の試みに積極的にかかわっているところです。

農村計画部 地域計画研究室 主任研究員 遠藤和子

(関連URL:写真)http://www.naro.affrc.go.jp/nire/mail_magazine/files/mm05_08-01.pdf

<補足説明>
消滅の危機にある集落は「限界集落」と定義されていますが、否定的な印象を与えます。そのため、平成19年11月に、全国水源の里連絡協議会が発足し、限界集落を「水源の里」と読み替えて活動を開始しました。(会長:大分県佐伯市長、副会長:喜多方市長他、平成21年11月現在170市町村が加盟)。

<一口メモ>
ラーメンで有名な喜多方市は、会津の北方(きたかた)に在るというのが名称の由来です。

9)研究チーム・研究室等のご紹介

◇農村総合研究部資源循環システム研究チーム

バイオマスが積極的に利用されている地域をバイオマスタウンと呼んでいます。あるべきバイオマス利活用の姿やその実現方法は地域によって様々です。本格的なバイオマスタウンの構築には、(ア)地域活性化、(イ)エネルギーの地産地消、(ウ)物質・エネルギー収支の持続性、(エ)地域環境の保全と地球温暖化の抑制、(オ)創意工夫による成長、といった要素が必要です。

私たちのチームでは、バイオマスの利活用を通して新しい資源循環型の社会システムをつくることを目指しています。そのために、それぞれの地域での取り組みを支援できるよう、地域バイオマス利活用診断ツールの開発や資源の地産地消につながるメタン発酵システムの実証を、産学官連携、農工協働のもとで進めています。

10)研究ウォッチ

■水田に必要な水量はどうやって測るの?

水田を潤すには、川などから水を引いてこなければなりません。その水量を決めるには、田に張った水の減水深(蒸発散量+降下浸透量で、普通1日当たりのmmで表示)を測定することが必要です。その測定には、一筆水田の平均減水深(畦畔からの漏水含む)を求める方法と、一筆内の特定地点における減水深を求める方法の二つがあります。

このような測定は、水田用水量(貯水池容量を含む)の決定や、その水田が水稲の生育にとって適当か否かの判定を行うために不可欠であり、農村工学分野の技術者であれば、知っておくべき調査技術の一つです。そのため、中堅技術研修の科目の中に実習として組み込んでいます。その様子を覗いてみましょう。

農村総合研究部 水田汎用化システム研究チーム 主任研究員 若杉晃介

(関連URL:写真)http://www.naro.affrc.go.jp/nire/mail_magazine/files/mm05_10-01.pdf


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