中日本農業研究センター

所長室より -【雇用型法人経営の人材育成をテーマに農研機構シンポジウムを開催】-

中央農業研究センターでは、昨年12月に、都内において「雇用型大規模法人における経営管理と人材育成」をテーマにシンポジウムを開催しました。
今回は、このようなシンポジウムを開催した趣旨や概要について紹介します。
キーワードは、「雇用型法人」と「人材育成」です。
まず、なぜ雇用型法人に注目するかです。世界においても農業は家族経営を中心に営まれています。家族経営は、農業生産を行うに当たって技術面で最も効率性の高い企業形態です。しかし、今日の家族経営の最大の問題は、経営の継承性が完全には保証されないという点です。
周知のように農業労働力の減少、高齢化が進展しています。高齢化は日本全体の傾向ですが、農業においてはそれが特に顕著なものとなっています。図は、2015年の国勢調査による日本の人口を世代別に5歳きざみでグラフ表示したものです。これによると、65~69歳と、40~44歳の2つの山が確認できます。65~69歳はいわゆる第1次ベビーブーム世代であり、40~44歳はその子の世代(第2次ベビームーブ世代)と言えるでしょう。しかし、同じく2015年の農林業センサスの販売農家の世代別世帯員数を用いてグラフを描くと、65~69歳の山はありますが、40~44歳の山がありません。販売農家世帯では50歳未満の者が明らかに少ないのです。若い世代、特に女性の農村からの離脱が生じているようです。子供達は、それら若い世代の者が生み、育てるのであり、このことは、減少が進んでいる農業従事者、-農業就業人口で言えばこの半世紀で約1/7になっているのですが-、それが今後さらに加速して農業人口の減少が進むだろうということを意味しています。

農家世帯と全世帯における世代別年齢別人口分布の特徴

このような状況を考慮すれば、農業生産の維持、食料の安定供給のためには、非農家世帯の農業参入と併せて、雇用型の経営の形成・展開に期待をかけざるを得ないと思います。
では、このような雇用型の農業経営、-その多くは法人格を持つと思いますが-、雇用型法人の経営運営において、何が一番問題となるでしょうか。
法人経営の戦略には様々なものがあります。経営規模の拡大もそうですが、有利販売、あるいは経営の多角化などにこれまで取り組まれてきました。そのため、土地や機械・施設、さらに販路開拓に投資がなされてきました。
しかし、今日では、人に投資をする、すなわち、従業員への教育や能力養成に力を入れる経営が増えてきているように思います。その理由には様々なものがあると考えられますが、一つは、家族労働力では対応できない規模となり、多数の従業員、特に、常時雇用を導入する経営が増えてきたこと、また、それら従業員の多くが、農業を体感していない若い非農家子弟であるといった点の影響が大きいと思われます。
但し、そのような人への投資、換言すれば、従業員教育の状況を見ますと、単にノウハウを伝える、作業指示をするということだけでなく、従業員の能力や意識の向上を図る取り組みがなされています。
先日、ある大規模な水田作経営の方とお話しする機会がありました。この経営は経営者が40歳代です。経営面積は127?、基幹作業は250?に達する大規模経営でが、この面積を14名の従業員で耕作しています。
お話ししたのはこの経営の経営者のお父さんですが、自分も従業員は雇用していたが、息子の従業員への対応は、自分の時とは違うという話しをされていました。自分は作業の指示をしていたが、息子はグループを作って、従業員同士で作業の遂行状況を確認したり、改善点を出し合ったりさせていると言うことでした。時代の違いもあるのでしょうが、頼もしい思いで後継者の取り組みを見ておられる印象でした。
このような方式での人材育成が求められている理由には、農業においては工場内のライン作業のようにマニュアルに沿って作業を進めるだけではなく、気象の変化や作物の生育状況に弾力的に対応しながら、位置的に離れた圃場・ハウスにおいて自発的に行動し、かつ、自らが問題意識をもって仕事が実施できる者を求めているということだと思われます。また、このような取り組みは経営者が若い経営で多く見られますが、それは彼らが、いわゆる「組織」を知っていることの影響も大きいでしょう。
さらに、組織管理のツールとしてGAPが用いられていることも注目される点です。従来、GAPは、ある意味、販売対応の手段と言った側面がありました。しかし、今日では、組織革新の手法としても活用されてきているように思います。
今回のシンポジウムでは、現在、日本農業経営学会長をされています筑波大学の納口先生に基調講演をお願いしました。また、農研機構からの成果紹介の加え、実践事例として、(有)山波農場の山波代表、また、(有)だんだんファーム掛合の小田統括チームからも話題提供を頂きました。そして、当日は126名の方の参加を得るとともに、会場からも熱心な質問が多く出されるなど、この人事育成という問題への関心の高さを痛感する機会となりました。
合理的な経営管理、中でも人材育成は、農業における経営問題として、今日、最も重要な、また、取り組むべき課題の多いテーマであると思います。同時に、雇用型法人経営の展開を図る上で適確な対応が急務となっている問題でもあります。今後もこれらの分野について研究を進めていきたいと考えています。
なお、今回のシンポジウムで紹介した雇用型法人における人材育成のポイントを取り纏めたパンフレットは、『農業法人における人材育成のポイント-現場リーダーの作業遂行マネジメント能力育成に向けた取組-』として、今年3月を目途に、中央農業研究センターのホームページに設けている「マネジメント技術プロジェクト」のコーナーで公開する予定です。