中日本農業研究センター

所長室より --中央農業研究センターにおける組織再編について--

   わが国の酪農は、高齢化に伴う労働力不足への対応や、飼料価格の高騰に対する国産飼料確保の必要性、さらに、日EU・EPA(経済連携協定)における農林水産物の大枠合意の影響緩和等を踏まえ、経営の競争力強化が急務の課題となっています。
   そのためには様々な取り組みが求められますが、中でも、酪農に関わる研究をより一層推進していくことは特に重要です。その際、北海道などのように豊富な土地基盤(草地)を持たない東北以南の都府県型酪農においては、自給飼料生産の場所として水田を有効活用することを念頭に置いた技術開発が不可欠の条件と言えます。
   水田は、基本的に、水稲を生産する場と捉えられてきました。しかし、米の消費が減少する中で、主食用水稲以外の作物、具体的には、麦類や大豆、野菜類、飼料作物(飼料用米や稲発酵粗飼料を含む)といった水田畑作物の生産振興を図っていくことが重要となっています。特に、中国など人口大国の経済成長に伴う畜産物需要の高まりを背景に、飼料価格が高騰する、あるいは、その入手すら困難となるといった事態も生じかねない中で、国産自給飼料確保の要請は非常に強くなっています。この点で、水田の畜産的利用を促進し、水田での飼料作物生産を安定化させていく必要があり、中でも、従来の飼料用米や稲発酵粗飼料に加え、子実用トウモロコシなど国産濃厚飼料の原料となる飼料作物の生産拡大が期待されています。
   一方、ブロックローテーションを通した田畑輪換が進められるとともに、米の生産調整面積の増加に伴い畑期間も長期化する中で、水田の地力低下が深刻な問題となってきています。特に、米の食味維持を目的とした施肥の手控えや、堆厩肥や稲わらなどの有機物の施用も少ないことが、そのような地力低下に拍車をかけています。そのため、水田での大豆作における収量低下など様々な問題が発生してきており、改めて、水田への有機物の施用を含め耕畜連携を進めていくことが、水田での畑作物生産の安定化という観点からも重要となっています。
   水田という水稲生産に適した機能を持った農地において、畑地で栽培されてきた飼料作物を低コストで安定的に生産し、かつ、それらを家畜の飼料として適正に利用していくためには、水田利用の面でも、排水対策の実施や、それらに適した耕種概要の設定、さらに、合理的な輪作体系の検討が必要となります。そのため、作物栽培に関わる耕種面からの議論と、飼料としての評価や飼養管理技術の検討、また、それらの経済性の検証等を通して、新たな技術体系を構築していく必要があります。
   このような状況の中で、農研機構は、作物栽培、土壌肥料、病害虫、作業技術、農業経営など耕種部門に関わる研究分野と、畜産・飼養管理に関わる研究分野の一層の連携を通して地域に根ざした都府県型酪農を推進することを目的に、平成30年7月1日より、畜産研究部門(那須飼料作研究拠点)の一部を中央農業研究センターに移行することとしました。
   中央農業研究センターの研究体制としては、現在の7つの研究領域に、さらに、飼養管理技術研究領域が加わり、水田におけるトウモロコシや飼料用稲など高栄養自給飼料を活用した省力・低コスト資源循環型酪農の形成に向けた飼料生産・調製・流通・飼養技術体系の確立と、それら技術体系の現地実証等について取り組んでいきます。
   今回の組織再編により、中央農業研究センターは、本所(つくば市)、北陸研究拠点(上越市)、那須研究拠点(那須塩原市)、東海駐在(津市)の4つの事業所において、農業経営、生産体系、土壌肥料、病害、虫・鳥獣害、水田利用、作物開発、飼養管理技術という合計8つの研究領域が相互に協力しながら業務に取り組んでいくことになりました。その上で、これまで実施してきた環境保全型農業技術や、温暖地及び寒冷地の高生産性水田営農体系の確立、行政部局と連携したレギュラトリーサイエンスや鳥獣害対策の推進、さらに、都府県での省力・低コスト資源循環型酪農に関わる研究を総合的に推進していきます。また、現地実証や出前技術指導等を通して成果普及に取り組み、関東東海北陸地域の農業の課題解決を図ります。
   これまで同様、新たな組織体制のもとでの中央農業研究センターの研究推進について、ご支援、ご協力のほど宜しくお願い致します。

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