食品総合研究所

食認知科学ユニット

役割

豊かな生活を送るには、美味しく食事を摂ることが必須です。美味しい食品を作るためには、食品の作り方の研究だけではなく美味しさが生じる仕組みを解明することも重要です。私たちは、味覚と視覚を中心に、遺伝子や分子を対象にしたミクロな研究から実験動物を用いた研究、人の心理を対象としたマクロな研究までを行っており、「舌の先から脳の向こうまで」様々な角度からその仕組みを調べています。具体的には、味を感じる仕組みを持つ細胞を人工的に作製して味を評価するシステム、動物(マウス)を用いて溶液の嗜好性を客観的に評価するシステム、さらに人間の食の認識における五感情報統合や消費者行動に関する心理の解明とその利用などを行い、食による生活の質の向上に貢献したいと考えています。

 

主な研究テーマ

 味覚受容体の構造特性の解明と、その利用による食品成分の呈味性の評価 

私たちが味を感じる時に最初に舌の上で起きることは、味覚受容体と味物質の結合です。味覚受容体は甘味や苦味といった味の種類に対応して、それぞれ特有の構造をとっています。例えば、甘味の受容体は甘味物質を複数の箇所で受容しています(図)。私たちは、食品の味のデザインに役立てることを目的に、甘味受容体を中心に、この特有の構造がどのように呈味性に関係するのかを解明することに取り組んでいます。
味覚受容体の構造特性の解明

 機能性食品開発に向けたヒトの生理状態と口腔内環境状態および視覚の関係解明とその利用 

味覚や視覚といった感覚は、体の状態や年齢によって常に変化し続けています。ですから、感覚の変化と体の状態の関係を明らかにすることは、生理状態を感覚の変化で把握する方法の開発に利用できると考えています。そこで、主に機能性食品の評価を行うことを目的に、加齢や疾病による口腔内環境の変化や視覚の変化の評価法の開発を行っています。

動物の摂取行動に基づいた塩味評価と、苦味マスキング効果の定量化

食品の美味しさ評価には事前情報が大きく影響しますが、本質的に美味しいものでなければ高い評価は長続きしません。私たちは、情報に左右されない美味しさを評価するために実験動物(マウス)の行動を利用しています。美味しさがアップする減塩素材や苦味への嫌悪感が抑制される味の組み合わせについて研究を進めています。苦いコーヒーに砂糖を加えると苦味嫌悪感が和らぎ、苦味量は減っていないのに苦味そのものが抑えられたように感じます。このようなマスキング効果は市販の味覚センサーでも数値化することは困難で、脳での高次処理が関係していると考えられます。私たちは、マウスを利用して、食品の持つ総合的な美味しさ(嗜好や嫌悪)を比較することにより苦味マスキング効果の大きさを数値化することに成功しました。左図には測定機器中で味を評価中のマウス、右図には人工甘味料を加えた苦汁の嗜好曲線変化を示します。
FAシステムズ社製リックカウンター  苦味マスキング効果の評価

図. FAシステムズ社製リックカウンターと、それを使った苦味マスキング効果の評価


食に関する人間の心理・行動科学研究 

「人間は食品をどのように味わうのだろうか?」と問われると、“味覚・嗅覚を使って”、と答える方が多いでしょう。しかし、わたしたちは口に物を入れる以前に、既に"それを口に入れるかどうか"という重要な決断を行っています。これには視・聴・触、内臓感覚などからの情報に加え、食品のブランド、安全性、嗜好、同席者との関係などの数々の要因が絡み合います。さらに食品を口に入れて以降も味や香りだけではなく食感(触感)や温度をも含めて多感覚の情報を統合します。このように"食"という人間の生活の根本の中に、個々の感覚の分析をこえた心理学的な検討課題がつまっています。こうした知覚・感情・コミュニケーションまでも内包する人間の活き活きとした食に関する行動や現象を科学的に記述し、それに関与する変数を解明することによって、人と食とのかかわりを浮き彫りにすることです。さらに、これらの研究によって生まれた知見をひろく発信し、人々の生活に役立てることを目指しています。

 

メンバー

ユニット長
日下部 裕子/専門:分子生理学

主任研究員
河合 崇行/専門:栄養生理学、神経生理学
和田 有史/専門:心理学   (心理・行動科学グループHP)

ポスドク(特別研究員)
増田 知尋/専門:心理学

研究助手
村越 琢磨/専門:心理学

契約職員

清水 美知代
進藤 由美子
内海 建
小栗 菊栄

 

主要成果

原著論文

  • Infant visual preference for fruit enhanced by congruent in-season odor.  Wada Y,  Inada Y,  Yang J,  Kunieda S,  Masuda T,  Kimura A,  Kanazawa S,  Yamaguchi M.  Appetite. (in press).
  • GFP-based evaluation system of recombinant expression through the secretory pathway in insect cells and its application to the extracellular domains of class C GPCRs. Ashikawa Y, Ihara M, Matsuura N, Fukunaga Y, Kusakabe Y, Yamashita A. Protein Sci. 20, 1720-1734 (2011).
  • FXYD6, a Na,K-ATPase regulator, is expressed in type II taste cells. Shindo Y, Morishita K, Kotake E, Miura H, Carninci P, Kawai J, Hayashizaki Y, Hino A, Kanda T, Kusakabe Y. Biosci Biotechnol Biochem. 75, 1061-1066 (2011).
  • Effects of environmental context on temporal perception bias in apparent motion. Masuda T,  Kimura A, Dan I, & Wada Y. Vision Research. 51, 1728-1740(2011).
  • Conjoint Analysis on the Purchase Intent for Traditional Fermented Soy Product (Natto) among Japanese Housewives. Kimura A, Kuwazawa S, Wada Y, Kyutoku Y, Okamoto M, Yamaguchi Y, Masuda T, & Dan I. Journal of Food Science. 76 (3), S217-224(2011).
  • Process-specific prefrontal contributions to episodic encoding and retrieval of tastes: a functional NIRS study. Okamoto M, Wada Y, Yamaguchi Y, Kyutoku Y, Clowney L, Singh A, & Dan I. NeuroImage. 54 (2), 1578-1588(2011).
  • Lrmp/Jaw1 is expressed in sweet, bitter, and umami receptor expressing cells. Shindo Y, Kim MR, Miura H, Yuuki T, Kanda T, Hino A, Kusakabe Y. Chem. Senses 35, 171-177 (2010).
  • Eating habits in childhood relate to preference for traditional diets among young Japanese. Kimura A, Wada Y, Ohshima K, Yamaguchi Y, Tsuzuki D, Oka T, & Dan I. Food Quality and Preference. 21, 843-848(2010).
  • The audiovisual tau effect in infancy. Kawabe T, Shirai N, Wada Y, Miura K, Kanazawa S, & Yamaguchi M . PLoS ONE. 5 (3), e9530(2010).
  • Influence of luminance distribution on the appetizingly fresh appearance of cabbage. Wada Y, Arce-Lopera C, Masuda T, Kimura A, Dan I, Goto S, Tsuzuki D, & Okajima K. Appetite. 54, 363-368(2010).
  • Influences of food-name labels on perceived tastes. Okamoto M, Wada Y, Yamaguchi Y, Kimura A, Dan H, Masuda T, Sighn A, Clowney L & Dan I. Chemical Senses. 34 (3), 187-194(2009).
  • Gα14 is a candidate mediator of sweet/umami signal transduction in the posterior region of the mouse tongue. Shindo Y, Miura H, Carninci P, Kawai J, Hayashizaki Y, Ninomiya Y, Hino A, Kanda T, Kusakabe Y. Biochem Biophys Res Commun.376, 504-508 (2008).
  • Expression of gustducin overlaps with that of type III IP3 receptor in taste buds of the rat soft palate.Miura H, Nakayama A, Shindo Y, Kusakabe Y, Tomonari H, Harada S.Chem Senses. 32, 689-696 (2007)

特許

  • 細胞応答解析装置.日野明寛、日下部裕子、水口義則、尾関秀夫、小池和行、片岡卓治、進藤洋一郎: 特許第4251501号 (2009). 平成21年取得

書籍

  • 味わいの認知科学 舌の先から脳の向こうまで 日下部裕子・和田有史(編著). 頸草書房. (2011)