農業環境研究部門

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2016年10月11日

「みらい」のイネに会いに行く "FACEing the Future"

近年、夏の高温による農作物への被害が報告される事例が多くなっています。イネは穂が出た後に平均気温で26-27°Cの高温に長くさらされると、コメの中が白く濁り(白未熟粒)砕けやすくなります。2010年(平成22年)は全国的に高温によるコメの品質低下が著しい年でした。この年の6-8月の平均気温は平年より約1.5°C高く、これは今世紀後半に予想されている気温上昇に匹敵する気温でした。

さて、この温暖化の原因の一つとなっている大気中のCO2(二酸化炭素)濃度は、年々増加しており、昨年ついに400ppmを超えたそうです。CO2は植物の生長に必要不可欠ですが、将来さらに濃度上昇が続くと、作物の生育や収穫量、品質にはどのような影響が出るのか心配されています。この問題を調べるために、世界中でさまざまな実験が行われてきました。ガラス温室などの閉鎖環境でCO2を増加させて作物を育てると、野外条件とは光、風、湿度などが変わってきます。そこで、野外条件でCO2濃度だけを増加させて作物の反応を調べる「開放系大気CO2増加Free-Air CO2 Enrichment(FACE)実験」が考案されました。わが国では農業環境変動研究センターが茨城県つくばみらい市でイネのFACE実験に取り組んでいます。 このFACE実験では水田の一部を囲むようにチューブを設置し、各辺のチューブから風向きに応じてCO2を放出することで、覆いなしで内部のCO2濃度を外気より約200ppm高く制御できます。このCO2濃度は今から約50年後の大気条件を想定しています。

つくばみらいのFACEでは直径約17mの八角形で囲まれた内部に、品種、施肥条件などの違いを調べるためのたくさんの実験区がコンパクトに配置されており、農業環境変動研究センターだけでなく多くの共同研究実験が進められています。またサイズや実験配置はまったく同じでCO2濃度を増加させない「対照区」が同じ水田の離れた場所に設置されています。そう、ここでは現在と未来のイネの生育を同時に観察することができるのです。このFACE実験から、CO2濃度増加によって収量は増加するが、その反応は品種や気温によって大きく異なること、品質は大幅に低下する傾向があること、さらに水田から発生する温室効果ガスであるメタンは増加することなど、たくさんの新しい知見が明らかになって来ました。将来起こるであろう作物の状態を知っておくことは、それに対応した栽培技術の開発や新しい品種育成を進めるためには欠かせません。イネのFACE実験は日本と中国の2カ所しかありません。つくばみらいで得られた成果はわが国だけでなく世界のコメ生産の未来に貢献することが期待されています。

T.W.

参考ページ

つくばみらいFACE(Free-Air CO2 Enrichment)実験施設
大気CO2 濃度の上昇はコメの品質を低下させるが高温耐性品種ではその影響が小さい(研究成果情報 2016年3月)
多収品種タカナリの高CO2 濃度環境における子実の成長特性 ~ 高CO2 濃度で増収に寄与する一要因 ~ (研究成果情報 2016年3月)
高CO2 濃度によるコメの増収効果は高温条件で低下 ―気候の違う2地点のFACE(開放系大気二酸化炭素増加)実験により確認― (農環研プレスリリース 2013年3月)
「2013年農林水産研究成果10大トピック」に選定されました