動物衛生研究所

牛海綿状脳症(BSE)

BSEの脅威について理解する(仮訳)

BSEの脅威について理解する表紙画像

Understanding the BSE threat [.pdf]

2002年10月世界保健機構(WHO)

本資料は、世界保健機構(WHO)の正式な刊行物ではありませんが、版権は出版者であるWHOが有しています。本資料の一部あるいは全部を論評、抜粋、複製、翻訳することは、販売または営利に関わる目的でない限り自由に認められています。資料中に記載された著者による考察に関しては、各著者個人のみがその責任を持つものとされています。

目次

1.はじめに

牛のイラストわれわれの地球上での生活の変化が、微生物の世界の均衡を撹乱し続けてきた。微生物は急速に増殖し、頻繁に変異し、比較的容易に新しい環境や宿主に適応していく。彼らは、すばやく新しい機会を利用し、変化して、そして広がっていく。人間活動に関連している要因をはじめ、近年起こっている非常に多くの要因が、このような自然界の現象を加速、増幅させている。この新たな微生物の脅威が生ずる背景として、急速な人口増加、地方から都市への移住、海外旅行、国際貿易、保険制度の崩壊、環境操作、天候パターンの変化、医薬品の乱用、農業および畜産業の形態の変化が挙げられる。このような変化が、ヒトからヒトへの病気 の感染に格好の条件を生み出し、病原媒介昆虫の新たな繁殖地をつくり出し、抗生物質耐性菌の出現を促してきた。また、何世紀にも渡って病原体と自然界の動物宿主とが均衡を保って共存してきた生態系をも破壊している。その結果、新しい病気が前例のない速さで出現しつつある。20世紀の後半の数十年間にHIV/AIDS、エボラ出血熱など、30種類以上の新しい病気が史上初めて発見された。牛海綿状脳症(BSE)、すなわち「狂牛病」、およびこの病気と関連したヒトにおける変異型クロイツフェルトヤコブ病もその中の一つである。

「BSE(狂牛病)は、近年新たに出現した数多くの病気の中のひとつにすぎない。」

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2.消費者保護のための問題提起

BSE「狂牛病」は、謎の多い新しい病気である。ウシにおける症例は1986年に英国で初めて報告された。1996年には、ウシに発生したBSEの流行と関連のあるもう一つの病気、変異型クロイツフェルトヤコブ病、変異型CJD(vCJD)がヒトに発見された。汚染された牛肉やその加工食品の摂取がその原因であると推測されている。

この2つの病気は多くの科学的難題を提起している。すべての疑問に対して、絶対に確実な解答は得られていない。とはいえBSE流行の起源、蔓延した理由、摂取すると最も危険である組織、ヒトにおいて関連した病気が出現した原因として考え得る理由などについて、現在では多くのことがわかっている。中でも最も重要なのは、実際上の経験に裏付けられた集中的な研究を行うことで病原体を食品および飼料の生産・流通から排除し、結果として食肉供給の安全性の確保を可能にするという一連の対策が各国でなされたことである。ヒトへの感染源への接触を最小限にとどめることのできるあらゆる適切な対策を十分に実施、管理すれば、牛肉やその加工食品はBSEの病原体から隔離され、従ってヒトにおいて変異型CJDが発病する危険性もないと考えられるだろう。

ここに国の公衆衛生や家畜衛生当局に対して、消費者保護のために必要とする最も重要な問題提起を行った。BSEの症例が報告された国々にとっては最も重要といえる問題提起である。そればかりでなく、まだBSEの症例が報告されていない国の消費者や政府にとっても、この病気の潜伏期間が長いことやすでに汚染された食品が国際貿易で広範に流通している点を考えると、このような問題提起は考察に値するものである。

牛の飼料として何が与えられているのか。

BSEが牛のと体の再利用と関係があるのは明らかである。牛のと体から回収したいわゆる「肉骨粉」を、餌として他の牛に与えることがBSEの原因である。反芻動物(ウシ、ヒツジ、ヤギ)のと体から得たタンパク質を牛が餌として与えられなければ、実質的なBSEの危険性はない。また、反芻動物のと体から摂取したタンパク質がブタと家禽のみに与えられ、その餌が牛の飼料に混入したり、飼料を汚染したりする可能性がない国では、BSEの危険性はごくわずかである。

政府はBSEに対して積極的監視体制を整えているか。

近年、簡易スクリーニング検査が導入され、その実施が多くの国で義務付けられた。このことによりBSE発見の確率が大幅に向上した。このような感染牛の「積極的な」発見とその後の完全な処分によって、大規模な感染物質の混入が防止可能である。積極的監視体制をとっている国でごく少数の症例が出たという報告は、ずさんな監視体制の国で何の症例報告もされていないというケースに比べ、より安心できるものであろう。

BSEは輸入されたものか、あるいは国内で生まれた牛が原因なのか。

牛の群れの中ではBSEは伝染せず、動物個体間において広がりはみられない。感染した牛が完全に処分され、と体を餌として再利用することがなければ、輸入牛単独での発生がBSEの流行を引き起こすことはないだろう。それよりもさらに懸念すべきなのは、国内の群れの中で生まれた牛にBSEが発生した場合である。それは国内での飼料の与え方に問題があるということを意味しており、他の多くの牛が感染の危機にさらされていることを示唆しているからである。

肉は若齢牛からとっているか。

BSEの潜伏期間は大変長く、4~5年である。この期間中、BSEに感染した牛は何も症状を示さない。また、潜伏期間の後期になるまで組織からは何の感染物質も見つからない。牛を若齢(できれば30ヶ月以下)でと殺すれば、子牛肉や食用肉、他の牛肉製品によって変異型CJDが発生する可能性は非常に低くなる。

特定危険部位は除去、処分されているか。

BSEの原因となる病原体は、動物の体内で均一に分布するわけではなく、特定の組織、特に脳、脊髄、中枢神経系に関連する部位に集中している。こういった特定の危険部位を除去、処分する厳格な措置を実施することによって、即座に食品の安全性を向上させ、BSEが発生した国でも消費者を保護することが出来る。

と畜場での交差汚染を防ぐ適切な措置は取られているか。

BSE病原体(恐らく変異型CJDの病原体でもある)は、牛の骨格筋では未だ発見されたことがない。とはいえ、感染した牛の脳1グラム以下(コショウ粒大)というほんの微量で、牛の感染源として十分作用する。ヒトに関しても、感染を起こす量がどれくらいかは未だ明らかにされていないが、やはり牛と同様に少量であると考えられる。したがって、交差汚染を阻止する対策をとることが極めて重要であるといえるだろう。安全なと殺方法をとることによって、特定危険部位が牛肉と接触し、汚染するのを防ぐことが出来る。

BSE汚染の可能性がある他の肉製品は何か。

ワイヤーブラシや機具を使用し、骨や脊椎に付着した肉片を取ると、感染した神経組織を取り出してしまい、本来安全であった肉を汚染させる可能性がある。このような「機械的除去肉」は、加工肉製品に使用される。機械処理による肉の回収によって、汚染された神経細胞が肉に含まれ、それを使用した製品を通してBSEの病原体がヒトに感染したと考える専門家もいる。機械処理で回収された肉の中に神経細胞が含まれないようにするという技術は、特にBSEの危険性が高い国において、重要な対策となるであろう。

安全対策は厳しく管理されているか。

安全対策を奨励するだけでは十分とはいえない。このような対策は、厳格に施行されるべきであり、できれば法律が制定されるのが理想である。さらに獣医および食品衛生当局によって管理されなければならない。

安全な食物:

現在までに判明した知見に基づいて科学者はBSEがその国にあるか無いかに関わらず、一部の牛製品の安全性に同意している。食用およびその他の使用に際して安全であるとされる牛製品の中には、牛乳および乳製品、獣皮のみから回収されたゼラチン、獣皮のみから回収されるコラーゲンが含まれる。また牛肉の大部分を占める骨格筋組織では感染性は認められていない。牛肉はと畜場での処理過程で汚染されない限り、牛乳や乳製品と同じように摂取しても安全であると多くの科学者が考えている。

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3.悪名高く、謎の多い一連の病気

羊の写真BSEは進行性の神経組織の変性を特徴とする牛の伝達性脳疾患である。この病原体は特殊であって、まだ十分に解明されていない。しかしこの病原体は、ヒツジやヤギのスクレイピーの病原体と類似している。スクレイピーについても同様にまだ解明されていない点が多いが、250年も前から知られており、オーストラリア、ニュージーランド、および南アメリカの一部の国々を除き世界中で報告されている。スクレイピーがヒトに感染したという報告はない。

スクレイピーの病原体に汚染された飼料を通して、種の壁を越え、牛にそれが感染したのがBSEの起源ではないかと一部の科学者は推測している。他の科学者の中には、ウシにおける初の発症例、あるいは「兆候的」な症例がウシの遺伝子変異によるものだと考えるものもいる。また他には、と体残さ処理工程(レンダリング)の変化が感染物質の集積に作用したとする説もある。いずれにしても現在までのところ、牛は一般にBSEに対する感受性が高いと考えられている。

BSEとスクレイピーは、両者とも伝達性海綿状脳症(TSE)として知られる、一連の悪名高い病気の部類に属している。この症状はどれも中枢神経系を冒し、脳の組織に独特なスポンジ状の変化をもたらす。最近の研究では、摂取後に感染が消化管から末梢神経を通じて脊髄に広がり、最終的に脳に至ることが示唆されている。TSEの部類に属する病気はすべて不治の、例外なく死に至る病である。TSEはすべて感染性であるが、感染の形態は動物種や病原体の種類によって異なる。

家畜反芻動物(ウシ、ヒツジ、ヤギ)とは別に、他の海綿状脳症は、シカ、エルク、ミンク、動物園で飼育されている動物(ニアラ、ゲムズボック、クドゥ、バイソンなどの野生反芻動物、ピュ-マ、トラといった大型ネコ科動物、サルなど)、飼い猫、そしてヒトでも確認されている。ヒトへの感染は極めて稀である。

「BSEはその大部分が謎の部類に属する新しい病気である。めざましい研究の進歩にも関わらず、科学は、いまだに全ての疑問に確実に答えることができない。」

この感染性因子の実体は、未だに近代生物学における最大の謎の一つである。感染性ではあるが、ウイルスやバクテリアなど他の病原体とは異なり、免疫反応や炎症反応を宿主に引き起こすことはない。これに関して最も広く受け入れられている説は、この病気が「プリオン」によって引き起こされているという説である。プリオンは、細胞内の正常型タンパク質を異常型に変えることにより、宿主に感染する異常タンパク質である。異常化したタンパク質は脳に蓄積し、脳の損傷がスポンジ状となって現れる。

全てのTSEの病原体は、加熱処理や化学殺菌などの不活性化処理に非常に抵抗性があることが知られている。ある研究によると、TSEの病原体は360°Cの乾燥状態の加熱に一時間さらされても死滅しないという。また、別の研究では、プリオンは600°Cの加熱処理の後でも感染性が残っていた。

「現在、症状があらわれる前に動物やヒトのTSEを発見する生前検査法は存在しない。またその予防ワクチンや治療薬はない。」

現在、症状が現れる前の段階で動物やヒトのTSEが発見できるような生前検査法は存在しない。診断は死後、脳組織の検査を基にして行われる。予防ワクチンや治療薬は、現在も集中的に探索活動が続けられているが、TSEのどの病気に対してもまだ存在していない。BSEに関しては、近年、脳の一部を用いた簡易診断検査が導入され、と殺の際の検査に使用されている。その結果BSEの監視体制はかなり改善されてきた。しかしこれらの検査も、潜伏期間の後期を除けば、潜伏期間中に感染を発見するという面では確実なものとはいえない。

ヒトにおけるTSE(伝達性海綿状脳症): 古典型クロイツフェルトヤクコブ病(CJD)には3つの形態が存在することが知られている;散発性、家族性、診療過程で感染する後天性(医原性)の3つである。散発性の症例の原因は不明であるが、世界中で発生している。BSEの発生していない国でも、およそ人口100万人あたり1人の割合で発生している。散発性CJDはCJD全体の約90%を占める。家族性CJDは先天性で、遺伝子の突然変異と関係がある。このタイプはCJD全体の5~10%を占めている。医原性CJDは、病原体の偶発的な伝播から起こる。角膜や硬膜を移植する際、汚染された神経外科機器を利用したことで起こる感染や、汚染されたヒトの脳下垂体ホルモンの投与によるものなどである。このような治療過程での偶発的な感染は、CJD全体の5%に満たない。クールーはTSEの一形態であるが、CJDや変異型CJDとは異なる。これはパプアニューギニアのある部族が行っていた人肉食の儀式によって広がった。

変異型CJDはヒトTSEの新しい形態である。これは古典型CJDといくつかの点で異なる。恐らくはBSEを引き起こすものと同じ病原体が原因であり、さらに通常は患者の年齢が比較的低い(平均で30歳未満)。また、変異体CJDの症状は、古典型CJDの症状とは異なっている。変異型CJDの発症から死亡までの期間は比較的長く、脳組織の形状に現れる特徴は、古典型CJD患者の脳組織の特徴とは異なっている。

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4.BSE流行の起源

牛の写真BSEの流行は英国で始まった。英国では1970年代から発生していたと思われる。BSEの際立った特徴はその大変長い潜伏期間にあり、期間は平均して4~5年である。この間、動物は完全に健康に見える。最初のうちはこの感染した牛が健康を保っていた長い潜伏期間が、実際の流行の広がりを覆い隠していた。さらにBSEの症状が本格的に現れても、それが別の何かの病気を疑わせるものであることから、BSEは1986年まで新しい病気として認知されなかった。それまでの間に感染したものの多くが症状の現れない潜伏期間にあったため、病気が広まり、爆発的流行をもたらす結果となった。

牛のと体の再利用:破滅への道 -実証済み

BSE出現の原因は不明のままではあるが、その流行の致命的な原動力になったものが何であるかは明らかである。牛を宿主としたBSEの定着、そしてその結果として起こった流行と、牛の飼料製造工程における、牛や他の反芻動物の と体から回収された肉骨粉の利用とは、明らかに関連している。

肉骨粉を原料とした飼料はと体残さ処理工程(レンダリング)によって生産される。周知のようにレンダリングの際に用いられる温度は、BSEの病原体を完全に不活発化できるほど高温であるとはいえない。さらに、レンダリングは大量の動物のと体残さを一緒にするので、その中の一頭でも感染していれば全体が汚染されてしまう。この場合病原体は広範囲にわたって広がる可能性がある。加えて、感染 した牛の残さが他の牛に餌として与えられるとき には、感染の危険性を低下させるような動物種間の壁は存在しない。

BSEの感染は牛が病原体に汚染された肉骨粉を摂取するときに起こる。一説によればBSEの流行は、乳牛が子牛の時にスクレイピーに感染したヒツジから取った組織を含む餌を与えられた時に始まり、感染した牛が再利用され餌として他の牛に与えられた時に拡大していったとのことである。ほんの微量の病原体、つまり感染した牛の1グラムほどの脳でも感染を引き起こすには十分なのである。

「流行の原動力となったものが、病原体に汚染された肉骨粉飼料の使用である ことは明らかである。」

飼料の原料として動物のタンパク質を再利用し始めたのは、少なくとも1920年代にさかのぼって考えられる。それは牛乳生産を高め、体重増加を図る安価な方法として導入された。今までレンダリングは、廃棄されるはずの栄養物質を利用する効率的な方法と見なされてきた。反芻動物の残さを餌として反芻動物に戻すということにより、危険が発生するのだが、この方法で何十年も何も起こらなかったため、変わることなく作業が続けられてきた。一度何かが起こると、非常に高い確率で急速に問題が生じはじめた。

「感染したウシの1グラム以下の脳、一粒のコショウほどであっても、感染を引き起こすには十分である。」

レンダリング: 必要不可欠な公共サービス-レンダリングは「動物の大量生産と消費によって生じた残さをいかに安全に廃棄するか」という環境の面での重要な課題に対して、その問題を経済的、効率的に処理する方法として100年にわたって行われてきた。レンダリング過程では、主に脂肪、骨、獣皮、腐肉の形状をした動物性廃棄物がすりつぶされ、一定時間高温で溶かされる。タンパク質は脂肪の層の下に沈殿する。これらの生産物はその後回収され、様々な商品の原料として利用される。脂肪、タロウ、グリースは吸い取られ、潤滑油や口紅、石鹸、ろうそく、薬品、インク、セメントに至るまで幅広い製品に利用される。さらに底にある比較的重いタンパク質も加工、再利用され、主にペットの餌用である高カロリー補助食品として用いられる。

経済的価値は別にしても、レンダリングは必要不可欠な公共サービス的役割を果たしている。つまりそれは、通常の廃棄方法では危険が大きすぎる廃棄物を環境上処分することである。例えば、動物と同様ヒトにも感染を引き起こす病原体が増殖する場合、動物廃棄物がその格好の条件を提供することがある。焼却処分にすれば、大気汚染の主な原因となる。埋め立ては病気の感染につながる。これに対して、レンダリングは廃棄物を殺菌することになる。高温で行えばほとんどの感染病原体を死滅させることができる(ここではBSEの病原体は顕著な例外である)。ひとたび乾燥、凝縮した形態にレンダリングしてしまえば、その物質は焼却を行うことよってより一層殺菌されることになる。焼却は汚染の広がりに対抗する補助的な予防策としての役割を果たすのである。

もうひとつの問題は、純然たる廃棄物の量である。ヒトは一匹のウシの半分、ブタの3分の1も消費していない。EUだけでも、レンダリング産業が年間9百万トンの動物廃棄物を扱っている。これらの再利用法は、せいぜい土に返すぐらいしかない。

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5.BSEの流行動態

牛の写真1986年に発見された最初の症例以来、BSEの発症は英国各地の3万5千以上の群れの中で、18万頭以上の牛に広まった。流行のピークだった1992年には、毎月新たに1000以上の症例が報告された。この年の後半になって症例件数が減り始め、それからは減少傾向が続き、今では激減している。たとえば1992年の場合、確認された件数は36,680件だった。それに比べて2001年の報告では、確認された件数は1,013件となっている。

BSEのほとんどのケースは、一般的に年齢の高い牛のいる酪農場で発見されてきた。肉牛は大体において3歳前にと殺される。平均潜伏期間が4~5年であることを考えると、肉牛の場合は仮に感染していたとしても、BSEを疑わせる症状を引き起こすまで生きてはいない。こうした「隠れた」感染を考慮すると、英国で流行した期間における牛の総感染数は100万頭を超えるのではないかと専門家は推計している。

さらに感染物質は、脳や脊髄といった特定危険部位に集中している。これらの組織はおそらく、牛が病気の症状を示す前にBSEを感染させる能力があるだろう。人工的な実験の条件下では、感染性は症状の出る何ヶ月か前に確定される。現実の生体の条件において、農場で実際にBSEが発生したとき、いつ感染が始まったかは正確には分からない。

このようなBSEの特徴を考えると、BSEを感染させる可能性を持ったいかに多くの感染動物が、流行発生初期に英国の食品や飼料の生産・流通に浸入したかがわかる。

「平均して4~5年にわたる長い潜伏期間のため、子牛への伝染性はほとんどない。」

英国以外の国々でのBSEの報告件数
総件数:2,264
英国以外の国々でのBSEの報告件数

英国でのBSEの報告件数
総件数:181,376
英国でのBSEの報告件数

経年的な変異型CDJ死亡数
変異型CDJが原因である、あるいはおそらく変異型CDJが原因であると確認された死亡総数は122である。変異型CJDと暫定的に診断された11人の患者は2002年7月現在生存している。
経年的な変異型CDJ死亡数

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6.高まる不安 -新たなヒトの病気

BSEの細胞写真英国では1996年、既存のごく稀な疾患であるクロイツフェルト・ヤコブ病に類似した新たなTSEの出現が報じられ10人の患者が確認された。これは、BSEの流行が人の健康問題に結びつくという懸念を増大させた。若年層が冒され、より長い臨床経過を経るこの新しい病気は、古典型と区別するために変異型クロイツフェルトヤコブ病と名付けられた。

膨大な量の疫学的、神経病理学的、および実験的データは、牛でBSEを引き起こした病原体がヒトで変異型CJDを引き起こすという仮説を裏づける。最終な証明はまだされていないが、最も可能性の高いヒトへの感染経路は、BSE病原体に汚染された食品の摂取によるものである。ヒトへの感染に対する予防策が確立され、英国やその他の国で実施されてきたが、英国でBSEに暴露した人口規模は分かっていない。英国だけでなく、おそらく世界の他の地域でも同様である。潜在的にBSEに感染した恐れのある生産物は、牛、牛製品、およびその副産物の貿易を通じて世界中に流通した。グローバル化した経済における貿易の複雑性を考慮すると、その規模の不確定性は相当なものとなる。

「ヒト型BSEが発生する危険性のある人口規模は、未だに不明である。」

脆弱な世界

英国は、BSEの発生件数が他の国の発生件数の60倍以上と、最も深刻に被害を受けている国であるが、今やBSEは国境を越えて国際的な規模で広がってしまった。BSEは、初めの流行発生地から次の二つの方法で広がった。一つは症状の現れない潜伏期間内の感染した牛の輸出であり、もう一つは病原体 に汚染された肉骨粉を原料とする、動物用飼料の輸出である。

すでに分かっているように、BSEは汚染された飼料の使用を通じて伝達された。牛の群れの内部ではBSEは接触感染しないし、動物個体間で広がることもない。垂直感染のように感染した牛から生まれた子牛が感染するという危険性も考えられるが、もし起こったとしても非常に低い確率であり、流行動態に対して重要な影響を与えるものではない。

従って輸入牛での個々の発生例は、それらの牛がレンダリングや再利用がされない限り、それほど懸念する必要はない。輸入牛での発生は、カナダ、フォークランド諸島(マルビナス諸島)、オマーンで報告されている。

「群れの中ではBSEは伝播せず、動物個体間で広がることはない。」

国内の牛群におけるBSEの発生

牛の写真国内産の牛にBSEが発生することは、非常に警戒を要することである。なぜなら、国内での飼料の与え方が、発生の原因であることを示唆しているからである。それには、汚染された輸入飼料あるいは再利用された反芻動物由来の残さを用いた地元の製品が関わっている。国内産の牛にBSEが発生した場合は、監視することが最重要である。飼料の与え方が関連しているため、国内の群れでのBSEの発生は、他の多くの牛に対する暴露と、長い潜伏期間の間の密かな蔓延を示唆する。

英国以外では、比較的低いBSE発生数であるが、オーストリア、ベルギー、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、アイルランド、イタリア、リヒテンシュタイン、ルクセンブルグ、オランダ、ポルトガル、スペイン、スイス、そして最近ではチェコ、日本、スロバキア、スロベニアで数件のBSEの発生が報告されている。

これらの国産牛での発生が合わせて数十件、フランス、ドイツ、アイルランド、ポルトガル、スペイン、スイスの6カ国で報告されている。スクレイピーと同様、BSEはオーストリアとニュージーランドでは存在しないと考えられている。

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7.新しい病気が抱える特殊な問題

牛の写真ほとんどの新しい病気は、出現した時点での解明が十分ではない。病原体や伝搬様式、予防策についての知識が欠けているために、制圧しようとする試みも失敗する。次々と明らかになる流行動態についても、蔓延の原因となった正確な要因と同じように、解明が進まない。

英国ではBSEが確認された2年の間に、政府が再利用した反芻動物を由来のタンパク質を反芻動物に飼料として与えることを禁止した。再利用されたタンパク質が流行の蔓延に関連しているとする調査の直後にこの措置は取られた。残念ながらその時点で汚染された飼料をすでに大量に使用した後であり、伝達はもう起こってしまったと推測された。英国は、BSEに感染しないと考えられていたブタや家禽などの反芻動物以外の種類にのみ与えるという規制を設け、肉骨粉の輸出を継続した。

この制限にもかかわらず、英国内でも他の国でも、汚染された飼料が牛にも与えられたのは明らかである。さらに今ではブタや家禽にのみ肉骨粉を与えた国であっても、飼料工場や個々の農家で交差汚染が起こっていたことが証明されている。ほんの微量の感染物質でも感染を引き起こすため、世界各国で流行する土台は間違いなく整えられたといえるだろう。

この病気と蔓延様式に関する科学的な知識が進歩するにしたがって、一連のよりいっそう厳しい対策がとられるようになり、結果的にその対策が英国でBSEの流行を抑えるのに有効であったことが証明された。初めは十分ではなかった予防策も、欠陥が見つかるたびに改良されていった。その結果もたらされた経験が、流行を拡大させた要因やヒトと動物を危険にさらした各種の慣行、公衆衛生や動物衛生を保護するための最良の方法などについて、多くの知識をもたらした。また、ヒトが変異型CJDに感染するのを防ぐためには、どれほどの厳しい対応策が必要かを示した。

「世界各国でも流行が広まる土台は間違いなく整えられている。それを防ぐ知識は存在する。」

専門家の見解-BSE流行の今後の成り行きに関して高まる公衆の関心や疑問に応えて、BSEに関する高官レベルのBSE国際専門協議会「BSE:公衆衛生、動物衛生および貿易」が2001年にパリで開かれた。この協議会は、WHO、国連食糧農業機関(FAO)、国連獣疫事務局(OIE)の協賛で開催され、獣医学や医学の専門家、TSEに関する第一線の研究者、産業界や消費者団体、および行政機関の代表が一同に会した。

会議は、BSEと変異型CJDの原因を科学的に再検討し、動物やヒトに危害を及ぼす要因を明らかにすることを目的とした。専門家はまた、このような危害に対して強力な防護を行う特定の対策方針を整備した。その対策は、国内での飼料の与え方、レンダリングやと殺の方法に加え、どのように国境を越えて食肉、食肉調理品、牛製品、飼料、家畜が移動するかを決定する要因に関連している。この協議では過度の貿易規制やその影響から産業を保護するための戦略が検討されたが、それよりも最優先されたのは、感染物質が特に国際貿易の結果としていかなる場合においても食品の生産と流通に浸入しないこと、およびヒトへの接触を最小限にすることに関しての対策であった。

事実と不確定な部分とを区別することにより、協議会は政府および消費者に等しく明確な助言を行うことができた。協議会の勧告をまとめた報告書は以下のサイトで見ることが出来る:Proceedings of the Joint WHO/FAO/OIE Technical Consultation on BSE: Public Health, Animal Health and Trade

地域別BSE危険性評価

地域別BSE危険性評価

nodata:データなし,
Category I :可能性はほぼなし,
Category II :可能性は低いが排除できない,
Category III :可能性があるが未確認、または低い水準での確認
Category IV :高い水準で確認

地域別BSE危険性(GBR)は、一国のある時点において、準臨床的または臨床的にBSEに感染した牛が1頭以上存在する可能性に関する質的指標である。

資料:2002年8月、欧州委員会、地域別BSE危険性評価に関する科学運営委員会

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8.流行を食い止めるための予防策

BSEや変異型CJDに対する科学的理解はまだ十分ではないが、英国での流行における経験は、科学的知識の集積にも支持され、予防策の考案と実施のための確固とした土台となった。それらの方策は、他の国々にとっても安全な食肉の供給と流行の防止を図る上で大変有用である。英国で見られたような大規模な流行を、地球規模で起こしてはならない。

「世界的な流行を起こしてはならない。」

適切な対応を決める上で、人々を変異型CJDに罹るリスクから守ることを最優先すべきである。食品を通じて病原体に暴露される危険性は、最も考慮すべき問題である。汚染された食物から病原体を除去する方法は存在しないため、公衆衛生上の対策は、食品および飼料の生産から消費までの流れのあらゆる時点においてBSE病原体の混入を防ぐことである。ヒトの感染源への接触を最小限にするためのすべての適切な対策が実施され、それを監視することによって、食品にBSEの病原体が混入する危険性が排除された時に、人々が変異型CJDに感染する危険性も排除されることになる。

対策の程度はリスクのレベルによって決定される

  • BSEが存在しないと考えられる国は:輸出の規制がない。
  • BSEのリスクが最小限である国は:脳、眼球、脊髄は輸出しない。
  • BSEのリスクが中程度である国は:脳、眼球、脊髄、回腸末端部、頭蓋骨、脊椎は輸出しない。
  • BSEのリスクが高い国は:脳、眼球、脊髄、扁桃腺、胸腺、脾臓、腸、回腸末端部、後根神経節、三叉神経節、頭蓋骨、脊椎は輸出しない。

危険部位の図解

リスクの排除

英国の経験から得られた第一の教訓は、反芻動物由来の肉骨粉を反芻動物に決して与えないことである。反芻動物由来飼料を豚や家禽などの反芻動物以外の家畜に与えている国では、反芻動物に与える飼料を汚染させないように適切な対策を取らなければならない。より厳しい措置として、あらゆる哺乳動物由来のタンパク質飼料を反芻家畜に与えることを禁止している国もある。

BSEの病原体は特定の組織に集中しており、牛の体全体に分布しているわけではない。従って感染性を有する組織が食品および飼料に混入させない対策が必要である。脳と脊髄は感染性の大部分を占め(約90%)、ごく微量の感染性組織でも牛にBSEを起こすと考えられている。ヒトでの感染に必要な量は不明であるため、少しでも感染性を有することが疑われる組織はすべて除去、処分されるべきである。多くの国々でとられている予防策のように、こうしたいわゆる「特定危険部位」については、ヒト用の食品やレンダリングへの使用を厳しく禁止しなければならない。

また、と畜場での特定危険部位の除去により、症状を示さず、新しい簡易検査でも陽性を示さない潜伏期の初期の感染牛における危険性を回避できる。潜伏期の牛の組織にも感染性が確認されているが、初期の段階では脳や脊髄に集中していることが報告されている。

「一部の専門家はBSEが加工肉製品を通じて感染したと考えている。こうした製品は機械によって回収された肉を使用しており、回収時に感染した神経組織が混入したと考えられている。」

機械的除去肉:特別な危険性

保存庫の写真と殺方法によっては、感染性のない組織が汚染され、食肉に危険が及ぶ可能性が生じる。公衆衛生上の対策をとるためにあらゆる警告を理解するという観点からすれば、脊髄から伸びる太い神経および後根神経節の一部に感染性が確認されたことは、最近で最も重要な発見の一つであるといえる。

この発見は、骨や脊髄に付着している筋肉をワイヤーブラシや他の機械で剥ぎ取る方法に関して重要な示唆を含んでいる。「機械的除去肉」の生産過程において、ワイヤーブラシが感染した神経組織を引き抜き、回収した肉を汚染する可能性がある。

一部の専門家は、BSEが神経組織の混入した機械的除去肉を使用した比較的安価なハンバーガー、ソーセージ、ミートパイなどの加工肉製品を通じてヒトに感染したと考えている。このような製品は若年層が消費する傾向があるため、この感染形態はこれまで変異型CJDの大部分が若年層に発生している理由を説明できるものかもしれない。

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9.積極的監視体制:消費者の安心のために

国際貿易を通じて、飼料、牛生体、牛肉、その他の牛由来製品等、感染性を有する可能性のある物質は既に広まってしまった。ただし、適切な防止措置が導入され、危険性の高い原料の除去および処分に関する勧告が守られているならば、BSE発生国から現在輸出されている原料あるいは製品には危険性はほとんどないはずである。

現在あらゆる国、とりわけ汚染飼料を輸入した可能性のある国における効果的な監視体制で必要とされることは、潜在的に世界的流行を起こす可能性のあるBSEの動態を監視し、適切な対策を導入し、新たにBSEの汚染地域が発生していないことを確認することである。

「積極的な感染牛の摘発・淘汰によって、感染物質の飼料への混入の大部分は防止される」

最近まで、BSEの監視・調査は獣医師や畜主からの報告に頼っていた。これはもちろん有用ではあるが、そのような受動的監視体制ではごく一部の症例しか発見されない。2001年1月よりEU全土で迅速な死後あるいはと殺後のスクリーニング検査が義務付けられ、現在では「積極的」監視が可能になっている。潜伏期間の後期になるまでは確実に感染を発見することができないにせよ、これらの検査は、食用にならなかった切迫と殺牛やダウナー牛での感染を摘発することができる。

生後24ヶ月齢以上でと殺されるすべての牛に対し、BSE検査を行っている国もある。BSEの積極的な摘発と処分により、潜在的に感染の可能性がある原料の飼料への混入を、100%とはいかないまでも、大部分防いでいる。

消費者の懸念

これらの高感度な簡易検査法が導入されると、今まで数件の発生が報告されていた国々では、急速にそれ以上の症例が報告されるようになり、その件数は通常、以前の2倍である。その他、ドイツ、イタリア、スペインなどの国では、スクリーニング検査の導入後に初めてBSEが発見された。このように積極的な検査によって新たに症例が発見されることは、あらかじめ科学者の間で予想されていたが、国民の間には大きな不安が広がった。

公衆衛生の観点からすれば、積極的監視体制をとっている国でBSEが数件発生したという事実は、監視体制のない国で発生の報告がないよりは安心感を与える。欧州、オーストラリア、ニュージーランド以外では、環太平洋と南北アメリカのいくつかの国を除いてBSEの発見が可能な信頼性のある監視体制が整備された国はほとんどない。

「積極的監視体制をとっている国で数例のBSEが発見されたという報告のほうが、監視体制のない国で症例の報告がないという事実より安心を与える。」

 監視・検査体制の存在は、潜在的なリスクが監視され、もしBSEが存在すれば摘発されるという信頼を消費者および取引相手に与える。検査で得られたデータは、危機管理体制の有効性、および国あるいは地域全体においてBSEのリスクが少しでも変化した場合の影響を計る指標となる。こうした監視体制が確立されておらず、BSEのリスクを効果的に評価できない国は、BSEを摘発し適切な対応をとっている国よりも、消費者や取引相手に対してより深刻な被害をもたらす可能性がある。

食の安全

安全に消費あるいは利用できると考えられる牛由来製品には生乳および乳製品、獣皮のみから得られたゼラチンあるいはコラーゲンが含まれる。

上質な食肉がとれる骨格筋組織には感染性は確認されていない。多くの科学者は骨格筋由来の食肉は、と殺の過程で汚染されない限り生乳および乳製品と同様に安全であると考えている。

BSE病原体の食品への混入を防ぐ

  • 肉骨粉飼料の使用禁止はBSEおよび変異型CJDのリスクの排除に長期的効果がある。
  • BSE例が摘発された場合の適切な対処法が整備された上での積極的監視体制は、国内における汚染度そしてリスクの程度に関する有用な情報を提供しつつ最終的には本病の根絶を目的としている。
  • 危険部位の除去を含めた厳しいと畜管理が行われていれば、食品の安全性は保持される。

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10.国内におけるリスクの分析

食肉検査の写真ある国でBSEの発生があった時最初に問われるのは、それが輸入牛であるか国内産牛であるかということである。前述のように輸入牛でのBSE発生はほとんど懸念するには及ばない。BSEは個体間で水平感染することがないため、輸入牛で発生した場合、適切に処分され、死体が飼料として再利用されない限りは牛群内で急激に感染が広がることはない。

それよりもはるかに警戒しなければならないのは国産牛で発生した場合であり、同じ汚染飼料を摂取した他の牛で続いて感染が見つかることが多い。国内産牛での報告件数は監視体制の質を反映し、氷山の一角を表しているに過ぎない。リスクの程度という観点からすれば、より重要なのはその国で許可あるいは実施されている飼養管理である。

「BSEは水平感染しないため、輸入牛で発生したとしても感染が急速に拡大することはない」

リスクに影響を与える要因

人および動物に対するBSEのリスクは以下のようにいくつかの要因から評価することができる。

  • 反芻動物由来タンパク質を牛に与えなければ、BSEのリスクはない。
  • 肉骨粉を豚や家禽のみに給与し、交差汚染が起こっていなければ、BSEのリスクはほとんどない。
  • 推奨される方法に従って厳密な管理のもとで肉骨粉が製造されていれば(危険部位の除去や十分な熱処理を行っていれば)BSEのリスクは減少する。
  • 特定危険部位が確実に除去・処分されていれば人々の健康に対するリスクも同様に減少する。
  • と畜場において汚染を防ぐ安全な方法がとられていれば、人々の健康を脅かすリスクはさらに減少する。
  • 牛が若齢でと殺されれば、感染性に関するリスクは減少する。
  • 機械的除去肉が神経組織で汚染されること防止すれば、病原体暴露から人々をさらに守ることができる。

脅威を真剣に受け止める

牛の写真英国でのBSEの流行から得られた教訓の中で最も特筆すべきことは、「BSEはすべての人が真剣に受け止めなければならない脅威である」ということである。この病気が出現した時、英国および英国から牛を輸入していた国において勧告や規制が厳密に守られなかったために個々の事例が大惨事へと発展してしまったのである。

「予防は農場から食卓まで、食品や食物の連鎖に関わる全ての人々の共同責任である。」

BSEが発見されていない国も、世界的な流行の可能性に潜在的に直面している以上、安心すべきではない。初発生時における極めて少ない発生数、同一群内での極めて低い発生率、長い潜伏期、および初期には発症を特徴づける特異的な臨床症状がないというBSEの性質が、初発例の発見を遅らせ、本病の蔓延を覆い隠すからである。WHO、FAO、OIEの協議会は、各国のBSEのリスク評価の実施とそれを踏まえた適切な防止策の導入の状況を調査した上で貿易を行うべきであると強調している。

共同責任-農場から食卓まで

これまでの科学的知識の集積および現場での経験から、BSEの世界的流行を阻止するための方策は今や明確であり、実施可能である。BSEの予防は農場から食卓まで、食品および飼料に関わるすべての人々の共同責任である。農家、飼料生産者、食肉処理業者、と殺者、獣医師、検査官、政府当局といったそれぞれ役割を担う人々が防止策を怠った時にいかに重大な結果を招くかを、全員が理解しなければならない。以前の経験が明白に示すように、BSEは生活手段の喪失、産業への打撃、貿易の縮小、国家経済の弱体化、そして悲惨な病気によって人々が受ける計り知れない苦しみに関わる重大な問題なのである。

BSEの出現、広がりとその抑止対策の経緯

1986年 11月 BSEが牛の新しい病気として報告された。
1988年 6月 英国政府はBSEを法定伝染病に指定。疑いのあるケースを調査し、報告を義務化。
7月 英国が反芻動物から採取した肉骨粉(MBM)を含んだタンパク質飼料を反芻動物に与えることを禁止。
8月 英国が発見されたケースに対する処分の義務付けと補償制度を導入。
1989年 7月 EUが1988年の飼料禁止措置以前に英国で産まれた牛の輸出を禁止。
11月 英国以外の最初のBSEがアイルランド国内で発見される。
11月 英国政府は危険性が高い特定の牛のくず肉(SBO)の食品への使用を禁止。
1990年 4月 くず肉(SBO)およびリンパ、結節、下垂体、血清など特定の組織のEUへの輸出を禁止。
5月 ヒトへのCJDの蔓延を懸念し、英国がサーベイランス研究会を整備。
6月 EUが生後6ヶ月以上の生きた牛を英国から輸出することを禁止。
9月 英国がペットを含むすべての哺乳類、鳥類の飼料にくず肉(SBO)を使用することを禁止。
1993年 EUの資金援助によるCJDの監視体制が欧州の10ヶ国およびオーストラリア、カナダで導入される。
1994年 6月 EU内で哺乳類のタンパク質を反芻動物に飼料として与えることを禁止。
1995年 7月 EUが英国からの牛肉の輸入に規制を設ける。
12月 英国が機械的除去肉の食品への使用を禁止。
1996年 3月 新型のヒトTSE(変異型CJD)が認知され、古典型CJDと区別される。
3月 英国が哺乳類の肉骨粉(MBM)を全ての家畜の飼料に使用することを禁止。
4月 英国が生後30ヶ月以上の牛が食品および飼料に混入することを防止するためのと殺体制を整備。
6月 英国が全ての残留MBMの回収、処分を目的として飼料回収制度を導入。
7月 1996年1月以降に生まれた全ての牛に対し、「キャトル・パスポート」を義務付ける。
1998年 1月 英国が、飼料、化粧品、薬品、医療製品における特定危険部位(SRM)の使用を禁止。
2000年 7月 EUがSRM禁止を実施。更に8カ国にCJDサーベイランス実施措置が拡大。
2001年 1月 EUが牛の検査を義務化。全ての家畜の飼料にMBMを使用することを禁止。
12月 CJDサーベイランスの実施を中欧、東欧の国々、および中国に拡大。

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さらに詳しい情報に関しては、下記の連絡先にお問い合わせください。

CDS Information Resource Centre World Health Organization 20, Avenue Appia, CH-1211 Gneve 27 Fax(+41)227912845
or http://www.who.int/csr/en/

プリオン病研究センターにて翻訳監修しました。
細心の注意を払った積もりですが、誤訳、誤字、脱字などがあるかもしれません。このため、必要に応じて原文も参照願います。(品川森一)

原文:Understanding the BSE threat [.pdf]