動物衛生研究部門

細菌検査マニュアル

気腫疽の診断法

更新日:2010年03月15日

1. 気腫疽(Black leg)とは?

Clostridium chauvoei の感染による牛およびめん羊の急性熱性の感染症。

症状: 患畜は突然高熱を発し、元気消失、反芻停止、食欲廃絶を示す。股、臀、肩等の肉の厚い部位および四肢に腫瘤ができる。腫瘤ははじめ小さくて熱感があり、疼痛性であるが、速やかに増大、拡大し、中心部が壊死に陥ると無痛性で冷感となる。触診により捻髪音が認められる。腫瘤が四肢に形成される場合は、初徴として跛行が現れる。病状が悪化すると呼吸困難や頻脈となり、1~2日で死亡する。死んで初めて気づくことも多い。めん羊でも浮腫、ガスや血様液の貯留などの症状が現れ、跛行も見られる。

病理: 肛門や鼻孔からの出血があるが、血液の凝固はない。腫瘤部の皮下組織は出血を伴う膠様浸潤と浮腫がある筋肉層は暗赤色で脆弱となり、ガスを含み酪酸臭を発する。胸腔や腹腔には血様の液体が貯留する。近接リンパ節は充血腫大する。

(以上「獣医伝染病学第三版」より抜粋)

2. 病性鑑定の手順

牛の炭疽、悪性水腫、牛壊死性腸炎、急性鼓腸症、亜硝酸塩中毒、出血性敗血症等との類症鑑別が必要である。

病性鑑定の手順

死体検査または臨床検査、および疫学調査(主に聞き取り)から気腫疽が疑われた場合は直ちに直接塗抹により菌体の存在を確認する。芽胞形成、無莢膜の中型桿菌が確認できたら病変部のスタンプ標本を用いて蛍光抗体(FA)法により特異蛍光を確認する。気腫疽であれば直接塗抹標本における菌形とFAでほぼ診断ができる。

1) 直接塗抹による鏡検

患部の筋肉、体表リンパ節、末梢血、頸静脈血の直接塗抹標本をレビーゲル染色、メチレンブルー染色、またはギムザ染色し鏡検。単在または2連鎖の芽胞形成、無莢膜の桿菌を確認する。

  • レビーゲル染色(図1)
    [ゲンチアナバイオレット 10 g + 局方ホルマリン 100 mlを混和濾過]
    直接塗抹標本を風乾後、染色液を載せ数~10秒染色、水洗、風乾。
    図1. レビーゲル染色
  • メチレンブルー染色(図2)
    [メチレンブルー原液(粉末5 gをメタノール100 mlに溶解)30 ml + 0.01%苛性カリ溶液100 ml]
    スタンプ標本を風乾・火炎固定後、染色液を載せ数秒染色、水洗、風乾、鏡検。
    図2. メチレンブルー染色
  • ギムザ染色(図3)
    直接塗抹標本を数分間メタノール固定後、ギムザ液(DW 1 mlに原液1~2滴)で15分染色、水洗、風乾。
    図3. ギムザ染色

*クロストリジウム属菌の直接塗抹標本における菌形の特徴

C. chauvoei(図1) 単在または2連鎖の芽胞形成、無莢膜の桿菌。
C. septicum(図4) 長連鎖の桿菌。
C. sordellii 短冊形の大桿菌。芽胞形成しているものが多い。
C. perfringens 両端鈍円、短冊形の大桿菌。莢膜形成。
C. novyi 鈍端。直大桿菌。

図4. C. septicum

2) 蛍光抗体(FA)法

標本中の微生物等の抗原性物質を蛍光標識抗体と結合させ、蛍光顕微鏡下に検出する方法。蛍光顕微鏡は試料に励起光を入射し、フィルター等により励起光を除き、試料の発する蛍光を視野に収めるように工夫された装置である。

目的とする抗原の検出、同定のために、それに対応する蛍光標識抗体を標本と直接反応させる直接法と、抗原に対する未標識の一次抗体と、一次抗体に対する蛍光標識抗体を用いる間接法があるが、通常は直接法で実施する。間接法では感度が10倍高いと言われているが非特異蛍光の介入が問題となる。以下に市販のFITC標識抗体を用いたC. chauvoei 同定法について述べる。

【材料】
  • 米国VMRD社製 FITC標識抗Clostridium chauvoei
    コスモバイオ210-14-CC、1 ml (40検体分) 4,000円
    (同社からC. novyi およびC. sordellii のFITC標識抗体も購入できる)
  • マルチテストスライド10ウェル(図5) (検体が分離菌のとき使用)
    大日本製薬カタログ60-418-05、100枚 12,000円
    図5. マルチテストスライド
  • C. chauvoei 参照株(図6)
  • C. septicum 参照株(図7)
    図6. C. chauvoei 参照株図7. C. septicum 参照株
【方法】
  • 病変部の一片をスライドグラスにスタンプする。分離菌であればマルチテストスライドのウェルにDWを一滴置き、新鮮培養菌を塗抹する。このとき菌量はなるべく少なく。
  • 風乾。
  • メタノールで数分固定。
  • 37°Cインキュベータ中で10分乾燥。
  • ブロッキング
    10%スキムミルク溶液(室温30分)又は市販のブロッキング液に浸し、タンパクの非特異吸着をブロックする(抗体もタンパク質の一種)。
  • PBSで軽くリンスした後、ろ紙片で余分な水を吸い取る(固定標本を傷つけないように注意)。
  • 各ウェルに標識抗体液1滴(25~50μl)載せ、湿潤箱中で37°C、20分。
  • FA Rinse Buffer, pH 9.0で軽くすすぎ、さらに同液を載せ室温、5分。
  • FA Rinse Buffer, pH 9.0を流し、余分な水分をふき取ってからFA Mounting Fluid [Glycerol/FA Rinse Buffer, ph 9.0, 50/50] を適量載せ、カバーグラスをかける。(FITCはpH9.0程度のアルカリ条件下で明るい蛍光を発する)。
  • 直ちに蛍光顕微鏡下、1000倍で観察。C. chauvoei 参照株(図6)と同様の蛍光が観察された場合を陽性と判定する。

4×FA Rinse Buffer (pH 9.0)

Na2CO3 1.14 g
NaHCO3 3.36 g
NaCl 0.85 g
DW 90 ml

*DW 90 mlに上記試薬を溶解し、塩酸原液でpH 9.0に調整後、100 mlにメスアップ。室温保存。

3) 分離培養

主要臓器、患部筋肉等の乳剤を5%血液加GAM寒天培地に接種し、37°C、24~48時間嫌気培養。溶血性の灰白色コロニー(図8)をクローニングし、生化学的性状を確認する。
図8. 接種マウス肝臓から分離したC. chauvoei

分離菌の性状: グラム陽性(24時間以上の培養菌はグラム陰性に染まる傾向が強い)、グルコース(+)、ラクトース(+)、サッカロース(+)、サリシン(-)、ゼラチン液化(+)、レシチナーゼ(-)、リパーゼ(-)等。

4) 動物接種試験法

材料: 病変部、肝、脾の乳剤(5~10倍)。

方法: 1検体につき2匹以上のマウスまたはモルモットの大腿部筋肉内に0.1~0.5 ml接種。接種の1時間前にCaCl2水溶液(モルモットで2%液を0.5 ml、マウスで3%液を0.1 ml)を同接種部位に筋肉内接種しておく。

経過: モルモットでは1~2日、マウスでは1~3日で死亡。接種局所および接種側腹部皮下に赤色膠様浸潤、浮腫、軽度の気泡形成。

同定: 心血または実質臓器を材料として分離培養するとともに肝表面のスタンプ標本で単在または2連鎖の芽胞形成、無莢膜の桿菌を確認する。