動物衛生研究部門

豚のレンサ球菌症の解説

更新日: 2011年9月2日

1.豚のStreptococcus suis 感染によるレンサ球菌症

Streptococcus suis による豚のレンサ球菌症は世界中の主要な養豚国で発生しており、我が国でも毎年その発生が認められている。本菌は臨床的に健康な成豚の口蓋扁桃や上部気道などから分離されることがあり、これらの保菌豚が他の豚への感染源となる。本菌には莢膜多糖体抗原の違いにより35種類の血清型が報告されている。日本を含む多くの国で病豚から最も高頻度に分離される血清型は2型であるが、同じ2型であっても株によって毒力には違いがある。また、2型以外の血清型も分離されることがある。感染豚は、敗血症や髄膜炎、心内膜炎、肺炎、関節炎など様々な病態を示し、若齢豚は感受性が高い。発症要因として、豚の抵抗力の低下に伴い本菌が増殖して日和見感染症を起こす場合や強毒株が感染する場合などが考えられる。時に流行病的に発生して大きな経済的被害をもたらす。現在、血清型2型の不活化ワクチンが日本国内でも販売されている。

2.人のStreptococcus suis 感染症

S. suis は豚および豚肉と職業上接触する機会の多い人にも疾病を起こすことがある。養豚業従事者や獣医師、食肉処理従事者などは感染のリスクが高く、感染した豚(またはその生肉)に接触した際に、皮膚の外傷を介して感染すると考えられている。潜伏期は数時間から3日間に及ぶ。人の感染症では化膿性髄膜炎が多く、聴覚障害や運動失調を伴う。まれに敗血症により多臓器不全を起こす。人においても血清型2型菌の感染報告が最も多いが、近年、血清型14型による症例の報告も増えつつある。人のS. suis 感染症はヨーロッパやアジア諸国での報告が多く、大半は職業上豚と接触する機会の多い人の症例で、イノシシを解体したハンターでの例もある。ほとんどの症例が単発的な発生であるが、2005年の中国四川省のように多くの感染者が出た例も知られている。日本国内では養豚業者の化膿性髄膜炎をはじめ、十数例の報告がある(医学のあゆみ, 235:196-202. 2010年)。病原学的診断は、脳脊髄液や血液からの細菌分離およびPCRによってなされる。S. suis による人の疾病を防除するためには、養豚場における本菌のコントロールが重要となるため、本菌の病原性の解析と診断・予防法の開発を進める必要がある。また、一般的な注意点として、(1)手指などに外傷のある人は、生の豚肉を扱う際に手袋を着用する;(2)豚肉を調理した後に、手洗いと器具の洗浄を徹底する;(3)豚肉は表面のみならず内部まで火を通した上で食べる;などに留意する必要がある。

3.中国における豚のStreptococcus suis と関連した人の疾病の発生

上記の様に人でのS. suis 感染例は基本的に単発的な発生であったため、従来、その注目度は必ずしも高いものではなかった。しかし、2005年の夏に中国四川省において、約1ヶ月半のうちに215名がS. suis に感染し、39名が死亡するという集団感染事例が起こり、本菌感染症に対する注目度が一気に高まることとなった。また、本事例によって世界中の多くの研究グループがS. suis 感染症の研究に参入することとなり、本菌感染症の研究が急速に進展する契機にもなった。以下、四川省での事例発生当時に行われた中国保健省による調査結果と国際専門家による評価結果について概要を記載する。

(1)調査結果

中国保健省は、S. suis と関連した人の疾病が四川省で2005年6月末に初発し、8月16日までに215例発生、39人が死亡したと報じた。発生は7月第2-4週にピークがみられ、その後急速に減少した。多くの症例は四川省で発生し、豚のS. suis 感染症も同時に発生した。四川省は中国の大規模養豚地域の一つである。

発生初期は腎症候性出血熱が疑われたが、検査により否定された。多くの症例は高熱、倦怠感、吐き気、嘔吐などの症状を示し、重症例では髄膜炎、皮下出血、毒素性ショック、昏睡が続発した。患者の大半は地元の農業従事者および食肉処理業者であり、約80%が男性で、病豚のと殺やその肉の処理・販売に従事していた。患者の40%以上が50-60歳であった。その後、患者と豚のサンプルにS. suis 2型が確認された。また豚の検査により、インフルエンザとニパウイルス感染症は否定された。本菌がヒトからヒトへ伝播した証拠はなく、患者を看護した医療従事者は感染していない。しかし、過去の報告例と比較して今回の発生が大規模で高死亡率となった理由を明らかにするため、更に調査・研究が必要である。

(2)国際専門家による現状の評価

WHOが招集したS. suis に関する国際専門家グループは、中国保健省が提供した情報に基づき、ヒトでの発生はS. suis が病因であることと矛盾しないと評価している。S. suis の国際専門家グループが8月に今回の発生について電話会議を実施し、次のような見解を示した。

  • S. suis 2型の同定の妥当性に関して懸念はない。また、症状はヒトで強い毒性を示すS. suis 株の感染で説明できるであろう。
  • S. suis ゲノムは世界中で塩基配列が解析されているが、ゲノムの20-30%の機能は未だ不明である。今回の四川省の発生と関連するS. suis 株と過去のヒト感染株を比較する必要がある。
  • 今回の発生では、子供の間で症例がみられず、ヒト-ヒト間の拡散を示唆する疫学的データがないことも注目に値する。血液のような汚染物との直接の接触が無い限り、ヒトからヒトへの伝播は起こりにくい。
  • 生または不十分に加熱処理した豚肉を摂食すると発病することはあり得る。しかし、関連するS. suis 株が強毒であっても、適切に調理された豚肉であれば食べてもリスクは高くならない。今回の発生は、食の安全性、家畜飼養および食肉処理と人獣共通感染症との間の問題点を再度提起している。
  • 発生地域内外で生きた豚の移動および豚肉の取引は注意深く監視する必要がある。
    中国保健省は発生経過を通して定期的に情報をWHOに提供してきた。また、WHOは保健省に協力して状況の監視を継続することにしている。

参考

豚レンサ球菌感染症に関する情報:本邦におけるヒト感染例(国立感染症研究所)

2005年8月15日付WHOニュース

Streptococcus suis 概説