動物衛生研究部門

E型肝炎ウイルス

豚とE型肝炎ウイルス

更新日: 2003年8月1日

先進国におけるE型肝炎は、かつては輸入感染症とされ、衛生状態のよくない発展途上国への旅行者にのみ見られる疾病でした。しかし近年、渡航歴のない患者の存在が各国で知られるようになり、同時に豚にも類似のウイルスが存在することが明らかにされ、ブタが感染源の一つではないかと疑われています。現在本ウイルスは、遺伝子の型により4型に分けられ、前者は1および2型、後者は3及び4型とされていますので、正確に言えば、3,4型にズーノーシスの疑いが持たれているということになります。

ヒトのE型肝炎の感染源として、ブタがどのような役割を演じているのかを最終的に解明するには、患者さんの疫学調査とそれに付随したウイルス学的検査成績が集積されるのを待つしかありませんが、動物衛生研究所としてできることの一つとして、ブタにおける感染状況の調査があります。ここでは抗体調査成績をもとに、E型肝炎におけるブタの役割を考えてみます。

2000~2001年に全国から集められた各年齢層のブタ血清1,271例について、国立感染症研究所武田室長が開発したELISA法を用いて実施した抗体調査では、約66%が陽性でした(注)。また、1980年代の血清、1990年の血清についても似たような陽性率を示しました。このことは、本ウイルスは、わが国ではブタには20年以上前から高率に存在していたことを示しています。台湾や米国における調査(表1)では、養豚従事者のE型肝炎ウイルスに対する抗体保有率は、ブタとの接触がない人のそれよりかなり高率であることから、ブタにおける抗体保有率の高いわが国でも同様であろうと推察されます。それにもかかわらず、これまでわが国でE型肝炎患者が養豚従事者に多いという事実がないことは、本ウイルスは、日常的にブタと接触することにより感染する程度のウイルス量では、不顕性感染に止まり発症には至らないと考えるのが妥当と考えられます。一方感染豚は、一時的にせよウイルス血症を起こしますので、このような時期にと殺されたブタの肉や内臓にはウイルスが含まれています。これを生のまま食べれば大量のウイルスが感染することになりますのでE型肝炎を発症することになりかねません。レバ刺しなど食通にはこたえられないかも知れませんが、絶対にやって欲しくないことです。本来加熱調理して食すべき食材を「生」のまま食べて病気にかかった場合、本人は自己責任で済みますが、その代償はきわめて大きいものとなります。ブタは「生」で食べるものではないということは昔からいわれていることです。

このように、ブタの感染率は極めて高いにもかかわらず、E型肝炎患者が養豚関係者に多いという事実がないことは、ブタから直接感染して発病することはないものと推察されます。しかし豚肉や内臓にE型肝炎ウイルスが含まれる危険性がゼロでない以上、これらの生食は厳に慎むべきでしょう。

表1 養豚従事者と非従事者におけるHEV抗体陽性率の比較

被験者 調査人(頭)数 陽性者(頭)数 陽性率
台湾 1) 養豚従事者
30
8
26.7%
ディーラー 20 3 15%
対照者 50 4 8%
ブタ 275 102 37%
米国ノースカロライナ 2) 養豚従事者 165 18 10.9%
対照者 127 3 2.4%
ブタ 84 29 34.5%

1) Hsieh, et al. (1999): J. Clin. Microbiol., 37, 3828-3834.
2) Withers, et al. (2002): Am. J. Trop. Med. Hyg., 66, 384-388. 
(注)ブタにおける抗体陽性OD値をどこに設定するかは、まだ確定していませんが、10頭の子豚を生後1週より経時的に採血して抗体価を調べたところ、移行抗体が落ちきるのは0.5と考えられましたので、ここでは、OD値0.5以上を示したものを陽性としました。

(文責:元疫学研究部・山本孝史)

参考