動物衛生研究部門

NIAH病理アトラス

豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS) (届)

Porcine Reproductive and Respiratory Syndrome(PRRS)

病気の概要

別名 1991年に開催された国際会議で病名をPRRSとすることに意見の一致をみるまでは、日本ではヘコヘコ病と呼ばれ、また他国では、豚のミステリー病、豚の不妊・呼吸症候群(SIRS)、豚の流行性流産・呼吸症候群(PEARS)、青い流産、青耳病などと呼ばれていた。
原因 PRRSウイルス。
Arterviridaeに属するRNAウイルスで、エンベロープを有し直径は約62nm。
症状 1)PRRS非感染豚群にウイルスが侵入すると、未熟子、後期流産、ミイラ胎子、死産、虚弱豚を特徴とする繁殖障害が発生する。異常産は2~3カ月続く。母豚は食欲不振、発熱を呈する。青耳病という俗称が示すように、耳介が青くなることが欧州で報告されている。
2)子豚の発症は、離乳後2~3週目、すなわち生後6~10週に集中する。罹患子豚は、元気消失、食欲不振、発熱を示し、さらにヘコヘコと表現される腹式呼吸を主徴とする呼吸器症状を示す。眼瞼浮腫がみられることがある。
肉眼所見 1)母豚では、子宮、胎盤および胎児を含め、著変は観察されない。
2)死産豚や新生豚では肺病変が観察されることがある。脾臓、リンパ節および心臓の腫大が観察されることがある。心嚢水および腹水の増量、眼窩と陰嚢の水腫がみられこともある。
3)子豚では、肺が黄褐色化あるいは別の表現ではくすんだピンク色になり、硬度をやや増す。リンパ節と脾臓の腫大、胸腺の萎縮、心臓肥大と心室拡張も観察される。
組織所見

1)母豚では、子宮、胎盤および胎児を含め、著変は観察されない。ただし、実験感染豚で、胎盤炎が観察されたという報告がある。
2)子豚の肺では間質性肺炎が観察される。すなわち、肺胞壁への単核細胞浸潤、肺胞壁の巣状壊死、軽度から中等度の2型肺胞上皮細胞の過形成がみられ、肺胞腔内には変性壊死したマクロファージの集積が観察される。肺胞腔内に合胞体性多核巨細胞が観察されるといわれているが、これはPCV2感染によるものの可能性が高い。その他、リンパ系器官では、リンパの壊死とそれに後続する結節性のリンパの過形成がみられる。また、リンパ球プラズマ細胞性の心筋炎と軽度の非化膿性脳炎が観察されることがある。流死産豚や哺乳豚でリンパ球プラズマ細胞性の心筋炎が観察された場合は、豚パルボウイルス感染症および豚 circovirus感染症との類症鑑別が必要である。なお、PRRSV は、マクロファージ、肺胞上皮細胞および 精上皮細胞を含めた感染細胞とその近隣の細胞でアポトーシスを誘発することが報告されている。

病理組織像および免疫染色像 Histopathology & Immunohistochemistry

肺、豚 肺、豚(感染病理No.5316)、野外例(原図:播谷 亮)
肺胞壁が軽度に肥厚している。一見、呼気状態の正常肺と類似している。
HE染色、x100
肺、豚 肺、豚(感染病理No.5316)、(原図:播谷 亮)
上の写真と同一部位のPRRSウイルス免疫染色像。ウイルス抗原は主として肺胞壁に散在性に分布している。比較的多くの抗原が検出された部位である。
PRRSV免疫染色、x100
肺、豚 肺、豚(感染病理No.5316)、(原図:播谷 亮)
上のHEの写真の拡大像。明るい円形核とやや泡沫状の広い細胞質を有する2型肺胞上皮細胞が過形成している。
HE染色、x400
肺、豚 肺、豚(感染病理No.5316)、(原図:播谷 亮)
上の写真と同一部位のPRRSウイルス免疫染色像。ウイルス抗原は主としてマクロファージの細胞質に検出される。
PRRSV免疫染色、x400
肺、豚 肺、豚(感染病理No.5318)、(原図:播谷 亮)
別の豚の肺。肺胞壁の肥厚と充血。
HE染色、x100
肺、豚 肺、豚(感染病理No.5316)、(原図:播谷 亮)
上の写真と同一部位のPRRSウイルス免疫染色像。ウイルス抗原は主として肺胞壁に散在性に分布している。やはり比較的多くの抗原が検出された部位である。
PRRSV免疫染色、x100
肺、豚 肺、豚(感染病理No.5316)、(原図:播谷 亮)
上のHEの写真の拡大像。肺胞壁は軽度に肥厚し、肺胞腔内にはデブリ(壊死組織片)が観察される。軽度の2型肺胞上皮細胞の過形成がみられる。
HE染色、x400
肺、豚 肺、豚(感染病理No.5316)、(原図:播谷 亮)
上の写真と同一部位のPRRSウイルス免疫染色像。写真中央部では、マクロファージの細胞質にウイルス抗原が存在するのが明瞭である。
PRRSV免疫染色、HE染色、x400
気管気管支リンパ節、豚 気管気管支リンパ節、豚(感染病理No.5316)、(原図:播谷 亮)
リンパ濾胞は軽度の萎縮性変化を示す。
x100
気管気管支リンパ節、豚 気管気管支リンパ節、豚(感染病理No.5316)、(原図:播谷 亮)
上の写真と同一部位のPRRSウイルス免疫染色像。ウイルス抗原はリンパ洞に散在性に観察される。
PRRSV免疫染色、HE染色、x400
気管気管支リンパ節、豚 気管気管支リンパ節、豚(感染病理No.5316)、(原図:播谷 亮)
上のHEの写真の拡大像。リンパ洞における組織球性細胞の軽度の過形成。
HE染色、x100
気管気管支リンパ節、豚 気管気管支リンパ節、豚(感染病理No.5316)、(原図:播谷 亮)
上の写真と同一部位のPRRSウイルス免疫染色像。ウイルス抗原はリンパ洞の組織球性細胞の細胞質内に観察される。
PRRSV免疫染色、HE染色、x400

免疫染色条件

切片 10%中性緩衝ホルマリン固定、パラフィン包埋
内因性ペルオキシダーゼ除去 3%過酸化水素メタノール、30分間
前処理 0.1% Actinase E、37°C、30分間
一次血清 Rabbit anti PRRSV (NIAH antibody No.183)
x8192、室温、30分間
免疫染色キット SAB Rabbit kit(ニチレイ)
発色 AEC
後染色 ヘマトキシリン