トップページへ  農業機械の安全装備いろいろ / 歩行用トラクター   農業機械の各種安全装備をシリーズで解説します。

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全機種共通
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歩行用トラクター
  【その1】
  【その2】
  【その3】
  【その4】
  【その5】
  【その6】
  【その7】
自脱型コンバイン
普通型コンバイン
乾燥機(穀物用循環型)
田植機
農用高所作業機
単軌条運搬機

【 その1 】 後進時のロータリー停止装置
 歩行用トラクターで比較的多い事故の一つに、「ロータリークラッチが入っているのに気がつかず、変速レバーを後進(作業者が後退する方向に走行すること)に入れて発進した途端にロータリーが回転し、耕うん爪に足を巻き込まれる。」といったものがあります。後進時の安全性確保のためには、ロータリーを停止させることが望まれます。
 農業機械安全性検査では、車輪と作業者との間にロータリーが位置する状態となる歩行用トラクターには、後進時にロータリーに巻き込まれることのないよう、走行変速レバーを後進速度段に入れるとロータリーが自動的に停止する、あるいはロータリーを停止させないと走行変速レバーが後進速度段に入らない構造にすることを、基準に定めています。
【 その2 】 緊急停止装置
 歩行用トラクターで比較的多い事故の一つに、「変速を前進のつもりで誤って後進に入れたため、主クラッチを入れた途端に機械が運転者の方に向かってきて背後にあるものとの間に挟まれる。」といったものがあります。このようなときには、車輪に駆動力が急にかかる反動でハンドルが跳ね上がることもあり、運転者はパニック状態になってクラッチを切る操作もできない場合があります。
 後進時の安全性確保のためには、緊急時にも容易に機械を停止させることができる機能が望まれます。


図 緊急停止装置

 農業機械安全性検査では、後進速度段を有する歩行用トラクターには、ハンドルが持ち上がったり、機械とハウス、立木あるいは納屋などの間に挟まれたりといった緊急時において、ワンタッチでエンジンを停止できる緊急停止装置(図)を手が容易に届く位置に装備するように基準に定めています。
 ただし、【 その3 】 に紹介するデッドマン式の主クラッチを持つ機械は、手を離すと自動的にクラッチが切れることから機能的に同等と見なされ、緊急停止装置を装備していないものもあります。

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【 その3 】 デッドマン式クラッチ
 デッドマン式クラッチ(図)とは、クラッチレバーを握っている間は動力が伝達され、手を離すとクラッチレバーが自動的に戻って動力が切れる構造のクラッチです。作業者が転倒するなど不測の事態が生じた場合には、クラッチレバーから手を離すことで機械の動きを止めて事故を防ぐことができます。


図 デッドマン式クラッチの一例

 また、農業機械安全性検査では、エンジン始動時に車輪やロータリなど可動部が作動しない構造であること(始動安全装置)を要件としていますが、デッドマン式クラッチについては、始動安全装置と同等の機能を有するものと判断しています。
 なお、デッドマン式クラッチの付いている機械では、常日頃から「いざという時」を想定した練習を行い、「クラッチから手を離す」動作が反射的にできるようにしておきましょう。

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【 その4 】 ハンドル回動時の高速度段牽制装置
 農業機械安全性検査では、歩行用トタクターの最高速度を前進、後進それぞれ7.0km/h、1.8km/h(後進で作業を行うものは、2.5km/h)を超えないよう定めています。
 歩行用トラクターでは、ハウス内等狭い場所でも作業し易いようにハンドルを回動させることのできるものもあります。ハンドルを90度以上回動させた場合、前進と後進が通常の状態とは逆になります。その状態で作業を行う場合に、うっかりギアが高速度段に入ってしまうと作業者にトラクターが高速で迫ってきて、挟まれ・転倒等の危険性が高まります。
 そこで農業機械安全性検査では、ハンドルを標準位置から90度以上回動させることができる歩行用トラクターにおいて、回動させた状態のときに作業者が後退して作業するものにあっては、その方向の速度が2.5km/hを超える速度段に入らないような構造にすることと定めています。
 速度が低くても、後退時には常に挟まれ・転倒の危険性があります。慣れているとしても、常に危険を意識して作業するようにしましょう。

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【 その5 】 ロータリー後部カバー
 歩行用トラクターでは、その多くが作業者の足元でロータリーが回転する構造となっています。そのため、不用意につま先を近づけてしまうと巻き込まれる恐れがあり、大変危険です。農業機械安全性検査では、可動部へ作業者が誤って接触しないようにカバー、ケース等で防護することと定めています。耕うんローターを車軸に直接取り付けてある車軸耕うん型では構造上適用外としていますが、走行部と耕うん部が別で、本体と作業者の間にロータリーが装着されるものについては、ロータリー後部のカバー下側の開放端から耕うん爪下端までの垂直方向の間隔が25mm以下であること(つまりカバーがロータリーに対して短すぎないこと)と特に定めています。
 ロータリー後部カバーは土の飛散を抑えることだけを目的として装着されているわけではありません。清掃等で後部カバーを跳ね上げ、もしくは取り外した場合でも、作業を行う際には必ず元の状態に戻し、また不用意に足をロータリーに近づけないよう注意しながら作業を進めるようにしましょう。

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【 その6 】 挟圧防止装置
 挟圧防止装置とは、後進してくる(作業者の方向に向かってくる)機体と、壁や柱などの間に作業者が挟まれたときに、自動的にエンジンを停止させる、もしくは走行部への動力を遮断する装置です。
 挟圧防止装置(オレンジ色のレバー)は、図に示すように、機械と作業者の間に設けられており、前進するつもりが、誤って変速を後進に入れてしまい、作業者に向かって機械が迫ってきた場合に、このレバーが体に触れて押し下げられると(あるいは、手で押し下げると)、主クラッチレバー(灰色のレバー)が連動して切れ、機械が停止します。
 緊急時に容易に機械を停止することができるため、農業機械安全性検査では、挟圧防止装置を【その2】で紹介した緊急停止装置と機能的に同等とみなしています。
 万が一の場合に備えて装備されている安全装置ですが過信は禁物です。手馴れた作業でも「万が一」の操作ミスを起こさないために、一動作一動作を意識して行うようにしましょう。




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【 その7 】 フロントロータリー
 歩行用トラクターは、機械本体と作業者との間にロータリーを装着する方式が一般的ですが、機械本体の前方にロータリーを装着する方式もあります。後者では、作業者の足元に回転するロータリーが無いため、不用意につま先を近づけることによる巻き込まれの恐れがありません。
 また、歩行用トラクターの後進発進時には、車軸(緑の点)を中心として黄色い矢印方向にハンドルを持ち上げようとする力が働きます。速度段やエンジン回転速度によっては、一般的な方式ではハンドルが持ち上がり、機械の操作が難しくなる恐れがあります。しかし、フロントロータリー方式では、前方のロータリーが支えとなり(写真下)、ハンドルが持ち上がることはありません。
 フロントロータリーを装着した歩行用トラクターは、主に小型の管理専用機として各社から販売されています。上記のような特性を理解した上で、自分の身体能力、利用目的、機械利用経験等を考慮して、機械を選定するようにしましょう。




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※本ページでの農業機械安全性検査に関する記述は、基本的に2018年基準をベースとしています。


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