農作業安全コラム

本の紹介:『ヒューマンエラーは裁けるか―安全で公正な文化を築くには』

H28年7月 冨田 宗樹

 農作業安全に関わる皆様が直面している問題の1つとして、事故の原因が「本人のミス」に帰せられる傾向があり、そのことが、事故の背景にある作業環境やシステムの問題等の、安全性向上に不可欠な情報を見えにくくしてしまうという点があると思います。

 今回ご紹介する、「ヒューマンエラーは裁けるか―安全で公正な文化を築くには」(シドニー・デッカー著、東京大学出版会)では、主に海外の医療や航空業界での事故が取り上げられていますが、本書を通じ、先に述べたような問題点が国や業界を超えて共通しており、まさに取り組まれている課題であることがわかります。
 著者は、事故の原因究明と責任追求について、それが安全性向上に役立つかという点から議論を進めていきます。そして、個人の落ち度を原因とする見方とこれに対する責任追及、特に裁判を通じたそれらに対して否定的な見解を示します。その理由として、それらでは、事故の過程が一つの見方から認定され、周囲にあった他の問題点や可能性を排除してしまうことを挙げています。その結果、事故を起こすに至ったシステムは改善されずに残り、(往々にして立場の弱い)個人に責任を押しつけたり、仲間内で問題を隠したりする傾向が助長されことを指摘します。
 これらのことから、著者は、事故調査を法的責任の追及とは独立させることが必要であり、また、事故調査においては、ヒューマンエラーを事故の原因ではなくシステムの問題の結果として理解すべきことを主張します。さらに、責任を問う代わりに説明責任を果たすように促すことで安全性の向上を図る構想を示します。

 私は、必ずしも著者の見解の全てには合意できません。しかし、本書で示される不条理とも思える現実と、これを直視して議論する著者の姿勢には、大きな感銘を受けました。一般の方でも理解できる内容ですので、ご興味があれば是非お手にとってはいかがでしょうか。

 

キーワード:事故
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