農作業安全コラム

「安心」を疑いましょう

H30年12月 太田 薫平

 「安心」と「安全」の違いについて考えたことはありますか?「安心・安全な○○」といったように、この2つはセットで使われる機会の多い言葉です。私は学生時代に食品の加工・保蔵に関する講義を受講し、2つの語の違いを教わりました。講義によれば、「安全」とは客観的に見てリスクが小さい状態であり、 「安心」とは主観的に見てリスクが小さいと感じている状態であるとのことです。つまり、「安全」は客観的なものであるのに対し、「安心」は主観的なものなのです。したがって、例えばセールスマンが何か物を売ろうとするとき、適切な方法で安全性を確認した上で「この商品は安全ですよ」と言うのは問題ありませんが、 「この商品は安心ですよ」と言うのはおかしいといえます。「安心」かどうかはお客さんが決めることであって、セールスマンが決められることではないからです。このように両者は意味が異なるため、適切に使い分ける必要があります。

 さて、農作業においても、「安心」と「安全」を区別することは重要です。根拠のない「安心」を「安全」と混同することによってリスクが高まる場合があるためです。例えば脚立上で作業をするとき、本来は恐怖で立っていられないような高さであっても、周りに枝などがあることによって恐怖感が軽減する場合があるようです(「こうして起こった農作業事故 Ⅱ~農作業事故の対面調査から~15.脚立④」(農林水産省生産局提供)外部リンク)。 このような錯覚による安心感は、脚立設置時の安定確認をおろそかにしたり、脚立から身を乗り出すなど危険な方法で使用したりする原因になる可能性があります。普段行っている作業について、何となく「安心」と感じていても実は危険な作業がないか、今一度「安心」を疑って、見直してほしいと思います。

 

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