農作業安全コラム

'間違える'にもいろいろ

H30年4月 原田 泰弘

 「安全防護の三原則」というものがあります。
 それは、'人は間違える''機械は故障する''ソフトは暴走する'というものだそうです。昨今の実例を挙げるまでもなく、「人間は間違えるものであり、機械は故障するものであり、ソフトは暴走するものなのだから、初めからこれらが発生するもの、つまり既定路線として対策を行っておきましょう。」という考え方です。例えば、人の集中力は続かないということを認め、ある段階を超えたときは強制的に機械に任せるような仕組みもこの考え方に含まれると思います。三原則としては他の定義もあるかもしれませんが、その方向には掘り下げず、ここでは、「人は間違える」ということについて話を進めたいと思います。

 云うまでもなく「間違える」ということにも様々あります。忙しさに感けてうっかり失念してしまったといったものや、やろうとしていたが(ここまでは正しい)何かの理由でできなかったといったもの。いろいろありそうですが、具体例を挙げてみたいと思います。

 唐突で恐縮ですが、私の職場には、他の誰も気付いていない段差があります。気付くきっかけがあった訳ですが、あるとき終日現場で体を使い、階段で4階の部屋まで帰ったあと、お茶にしようと流しのある小部屋(扉なし)に入ろうとしました。次の瞬間、左脚が前に出ませんでした。といいますか、白状しますと左足が引っ掛ったことを認識したのは後のこと。そのときは'転ばないように'といった意識すら働かず、とっさに(どちらかの)脚を出し、結果として何とか転ばなかったという状況でした。1秒にも満たない間の出来事ですが、引っ掛ったその瞬間、既に重心は前方に移してしまっており、しかも引っ掛らなかったほうの脚は体重を支えているために動かすことはできず、引っ掛った足を一旦強引に体に引き付けて自由度を回復し、直後に倒れつつある方向に伸ばして体重を支えることになったと思います。 (まぁ、結果論ですが。)バランスが崩れている分、加速されており、しかも不十分な姿勢のまま「ダンッ!」と体重を受けるしかありませんでした。大兄諸氏のご経験のとおり、受け止めきれなかった分は、つんのめりながら数歩だけ小走りしてしまうことになり、今のを誰かに見られたかと余計な心配をする羽目になりました。

 この例では、「やろうとしたことは間違いではないが、そのとおりの行動ができなかった間違い」ということになりますが、その理由としては、次のようなものが挙げられそうです。
 ・段差(の存在)を認識していなかった
 ・イメージほど自分の脚を上げることができなかった
 後者については「疲れかなあ。」と口にしてみても、口惜しさの入り雑じった微妙なトーンになりますので、黙って受け止めるしかありません。誰しも自分の老化は認めたくありません。このようなリスクを徹底的に0に近付け、見なくても良い現実に蓋をし続けるためにも、段差のない構造に改善すれば良いのです。この話を説いてみたところ「段差ぁ?あれは1mmくらいしかない縁取り。」「とっくにバリアフリーです。」とのこと。

 私の場合、日頃から適度な運動を心掛けるしかないようですが、彼方此方に段差や凹凸があるのが農作業現場です。荷物を持てば、足元が見難くなることもあります。時間を見つけて現場を見回り、必要な整備を行っておくことも事故を防ぐ一助になるのではないでしょうか。

 

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